2014年1月号

地域未来構想 千葉県

地域価値を高めるマーケティング戦略

井崎義治(流山市 市長)

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千葉県北西部の流山市は、全国の基礎自治体で初めてマーケティング課を設置。「都心から一番近い森のまち」のブランドイメージで、子育て世帯の誘致に成功している。井崎義治市長に自治体ブランディングの重要性と、次の成長戦略を聞いた。

ターゲットを明確化し質の高い行政サービスを提供

─マーケティング課を設置した理由は。

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いざき・よしはる/1954年生まれ。76年に立正大学を卒業後、渡米し都市計画コンサルタントとして活動。85年サンフランシスコ州立大学大学院修士修了(地理学専攻)。住信基礎研究所、エース総合研究所を経て03年から現職。

すべての始まりは少子高齢化への対応です。流山市は団塊世代の住民が多く、本格的な人口減が始まれば、財政が逼迫して福祉などの市民サービスを持続できないことは目に見えていた。この課題を解決するには、若い層を中心に人口を増やすことが必要でした。

私が市長に就任した2003年は、2年後につくばエクスプレスの開業を控えていました。住民が増えるのは明らかでしたが、「都内に家を買えなかったから流山に来た」では意味がありません。流山だからこそ住みたいという選択市民を増やし、沿線や首都圏での住民争奪戦に勝つことが必要でした。それにはマーケティング戦略を立て、明確にターゲットを設定して流山の訴求力を高めるしかない。そこでマーケティング課を設置したのです。

─海外では自治体がマーケティングに取り組む例は多いのですか。

私はサンフランシスコとヒューストンで都市計画のコンサルタントとして働きましたが、どちらの市も当然のようにマーケティングに取り組んでいました。そもそも、株式会社でもNPO法人でも、組織を維持・発展させるには「誰のために何をするか」を明確にする必要があります。日本では行政のみ、このマーケティングの視点に欠けています。我々のお客様は市民ですが、平均的な市民など存在しません。漠然としたイメージからは、質の高い行政サービスは提供できません。市長とは自治体の経営者であり、街の総合プロデューサーだと私は考えています。

共働き子育て世帯に焦点 育児・教育環境を重点整備

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「流山グリーンフェスティバル」を始め、交流人口を増やすイベントを多数立ち上げている

─具体的な取り組みと成果は。

まず2030年までの正確な人口予測を作成し、SWOT分析で市の弱みと強みを把握しました。そこから都心から近い割に緑が多いというポジショニングを定めて、「都心から一番近い森のまち」というブランドイメージを打ち出しました。

次に若者世代の誘致ですが、中でもDEWKS(共働き子育て世帯)にメインターゲットを設定しました。DEWKSの方々を呼び込むには、働き続けながら子育て・教育ができる環境の整備が必要です。保育園の定員を直近の4年間で7割増やすとともに、主要駅に駅前送迎保育ステーションを整備し、子供の登園・降園の利便性を高めました。あわせてマーケティング課が中心となり首都圏向けにPR広告を展開。「母になるなら、流山市」「学ぶ子に応える、流山市」などの駅広告でDEWKSにアピールしています。

この結果、市長就任後の10年間で市の人口は約1万8000人増えました。就任前の10年間では2000人の増加にとどまっています。人口構成も、団塊の世代(当時50歳代後半)が最多でしたが、2013年には30代後半・40代前半の層が団塊の世代を上回り、若返りが進んでいます。流山市の合計特殊出生率は1.49と、千葉県2位まで上昇しました。

ブランドを育て交流人口を増やす

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首都圏駅に大型ポスターを展開し、共働き子育て世帯に流山市をPRした

─定住人口の増加に一定のめどが立つ中で、現在の重点施策は何ですか。

交流人口の増加です。市内からも市外からも来ていただき流山市を楽しんでいただくために、お洒落なイベントやツーリズムの育成に取り組んでいます。

イベントでは、流山おおたかの森駅前の広場で月一回程度「森のマルシェ」を開催しているほか、ゴールデンウィークには「流山グリーンフェスティバル」を開催。8年前のスタート時には数百人だった来場者は、今や期間中に3万人を超す規模になっています。このほかにもジャズフェスティバルや屋台フェアなどを開き、集客1万人以上のイベントは10年前の2件(計10万人)から現在は15件(計45万人)に増えました。

ツーリズムでは流山本町と利根運河への環境整備を進めています。このエリアは江戸時代に利根川水運の要衝として栄え、今も蔵造りの歴史的建造物が数多く残っています。このツーリズム資源を活用するために、歴史的建造物の改装・賃借に市が助成する制度を作りました。レストランやベーカリーカフェ、和紙照明などの個性あるお店やギャラリーを全国から誘致しています。2011年度に12万6000人強だった流山本町の来訪者は、12年度に23万1000人まで増え、今年度は30万人に達すると予想しています。

流山本町では、市民の発案で「切り絵行灯」が広まっています。地元の切り絵作家と行灯製作者が組み、店舗ごとのオリジナル行灯を作る取り組みで、観光資源の一つになっています。定住人口と交流人口の増加と共に、地域活性化に参加する市民も大きく増えています。これからも、市民の知恵と力を発揮できる場所や仕組みを増やしていきたいですね。

─今後の課題は何でしょうか。

団塊世代の高齢化で、市内にも空き家が増えていくことが懸念されます。これを抑制するために、「高齢者住み替え促進制度」の創設を検討しています。庭の手入れや2階の利用が難しくなった高齢者むけに、お住まいの住宅を賃貸・売却して集合住宅に住み替えし、若い世代に住宅を供給する仕組みです。不動産会社や工務店、福祉部門などへの相談が1カ所で完結できる場所を整備します。現在内容を詰めていて、2014年度から事業を始める方針です。

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