【福岡発】「百見は一感にしかず」 現場の声と体感を重視した製品づくりで持続可能な農業を目指す

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年12月25日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

「現場体感」を徹底し、ローカルメーカーを世界市場に成長させた今村社長
「現場体感」を徹底し、ローカルメーカーを世界市場に成長させた今村社長

人口1万9000人の小さな町から世界の市場へ――。福岡県広川町の農業用機械メーカー「OREC(オーレック)」は、乗用型および自走式草刈り機の分野で国内トップシェアを誇り、ヨーロッパを中心に海外市場も開拓してきた。飛躍的な発展を遂げたカギは、創業時から掲げる「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」という会社理念だという。農家の声を聞き、実際の体験を重視する「現場体感」に基づいた製品づくりは、「楽で、効率的で、安全」な農作業を実現し、多くの顧客の支持を得てきた。オリジナリティーあふれる製品づくりで、有機農業の拡大という新たなテーマにも挑戦している。

逆境がチャンスに 流した汗が「製品作りのヒント」

福岡県広川町にあるオーレック本社
福岡県広川町にあるオーレック本社

ぶどう畑が広がるフランス・シャンパーニュ地方。女優の草刈民代さんが「草刈り、草刈り」と口ずさみながら、オーレックの乗用小型草刈り機を走らせる。2025年9月から放映されているテレビCMは「農業が楽しくなる」がテーマ。創業者の故・今村隆起氏が目指した、「重労働に励む農家を支えたい」という創業時の思いと重なる。

オーレックは1948年、大橋農機製作所として創業。当初は、田んぼに水を引くポンプや、小型耕耘機などを製造販売する小さな町工場だった。ポンプや耕耘機は田植え前の春先に売れるが、夏場はさっぱり。「夏場の主力製品に」と開発し、1974年に発売したのが草刈り機だった。しかし、当時は除草剤が広く使われて草刈り機の需要は低く、農業の盛んな地域では地場の有力メーカーが立ちはだかった。

そんな時代に入社した2代目の今村健二・代表取締役社長は「いつかは日本中、世界中に大橋農機の製品を広めたい」と意気込み、トラックに草刈り機などを積み込んで関東での販路開拓に挑戦した。最初は農機具販売店にも相手にされず、ようやく売れても不具合が相次いだ。苦情を聞き取り、修理して実際に試し、改良しては、さらに試す。製品と向き合い、農作業で流した汗が「自分しか知り得ない、製品づくりのヒントになった」と、今村社長は振り返る。ヒントを詰め込んだ試作の自走式草刈り機は、小型で高性能と評判を呼び、現在の主力製品の原型となった。

徹底した「現場体感」 農家の声と現場での体験がオリジナリティーを生む

今村社長が大切にする「現場体感」は、オーレックの製品づくりのテーマである「オリジナリティー」にもつながる。

販路拡大のため、長野県の農機具販売店を回っていた時、「狭いあぜ道の上面と側面を同時に刈れる草刈り機は作れないか」と相談を受けた。他メーカーには「技術的に難しい」と断られたという。

「現場体感」から生まれた、あぜ草刈り機「ウイングモアー」
「現場体感」から生まれた、あぜ草刈り機「ウイングモアー」

今村社長が実際にあぜ道の側面にある草を刈ってみると、想像以上の重労働。農家に必要な製品だと開発意欲がわき立った。現場の声と体感を基に、1993年、翼のような部位であぜの側面も同時に刈り取る「ウイングモアー」が誕生した。

「現場体感」により、他社に先駆けて業界初の製品が相次いで生まれた。

「ラビットモアー」は傾斜地などを走行可能で、広い果樹園でも便利な乗用型草刈り機。国内だけでなく、フランスのワイン産地・シャンパーニュやボルドーで活躍している。「スパイダーモアー」は段々畑の傾斜にクモのように張り付く自走式草刈り機で、農家を重労働から解放し、安全な作業を実現した。水田の苗と苗の間の除草を可能にした水田除草機は2023年度の特許庁長官賞を受賞している。

2025年10月に発売した無線操縦の草刈り機は、中山間地域で農業の担い手不足が深刻化する中、安全かつ効率的に作業できる機械として開発した。テスト販売から1年半をかけ、現場の声を反映して安全性と操作性をさらに高めたという。

今村社長は「暑い、寒い、きついは現場で体感しないと分からない。それは今の時代も同じで、バーチャルで分かったつもりになっても、実は何も分かっていない」と語る。社員にも、自作のことわざ「百見は一感にしかず」を説き、「現場体感」を徹底している。

一貫生産方式で製造するオーレックの本社工場
一貫生産方式で製造するオーレックの本社工場

コンセプトは「草と共に生きる」有機栽培に貢献する製品づくりへ

今村社長が若き頃に抱いた「日本中、世界中に自社製品を」の夢は、半世紀を経て結実した。営業所は全国9か所に展開し、2026年秋には滋賀県彦根市に10か所目ができる。部品づくりから製品組み立てまで一貫生産方式の体制も構築した。輸出先は50か国・地域を超え、今や売上高の約2割を占める。

オーレックが今、目指すのは「日本の有機栽培率の引き上げ」。草刈りを苦しい作業から楽しい作業に変えたように、農業を持続可能なものにすることが次の目標だ。

オーレックの出発点である自走式草刈り機の開発は、除草剤を使わず、草の根を残すことで微生物の働きを促して豊かな土壌環境をつくる、有機栽培の一つ「草生栽培」を可能にした。その原点を再定義し、ブランドコンセプトに「草と共に生きる」を掲げる。

福岡市中心部で農と食の情報を発信する「OREC green lab福岡」
福岡市中心部で農と食の情報を発信する「OREC green lab福岡」

「草刈り機だけでは貢献する範囲が狭い」(今村社長)と始めた取り組みの一つが、福岡市中心部に開設した「OREC green lab福岡」。農と食をテーマにしたカフェ、ライブラリー、イベントスペースがあり、人と農・自然のつながりを身近に感じられる場所となっている。

農林水産省は2021年、耕地面積に占める有機農業の割合を、2050年までに25%(100万ヘクタール)に拡大する新戦略を公表した。有機農業の割合は拡大傾向にあるものの、目標まではまだ遠い。それでも、今村社長は「有機農法に貢献する製品開発に挑む。すでに方向性は見えている」と自信を見せる。オーレックの挑戦はこれからも続く。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.orec.co.jp/▽代表者=今村健二代表取締役社長 ▽社員数=477人(2024年12月期)▽売上高=213億6000万円(同)▽資本金=9500万円 ▽創業=1948年10月

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