ICHIGO お菓子のサブスク通じ地域活性化に貢献 世界187カ国に向け販売
(※本記事は日本政策金融公庫が発行する広報誌「日本公庫つなぐ」の第34号<2025年4月発行>で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

日本のお菓子や雑貨の詰め合わせをサブスクリプション(定期課金)で海外向けに販売している会社が急成長し、地域活性化にも貢献している。株式会社ICHIGO(イチゴ)の代表取締役CEOである近本あゆみ氏に成長の要因や地方創生への思いについて取材した。
2015年に創業、学生時代の経験がきっかけ
近本氏は2009年に株式会社リクルートに入社し、美容領域で企画営業や商品企画を経験した後、電子商取引(EC)部門の商品開発を担当した。2012年に退職し、ICHIGOの前身となる合同会社ムーブファストを2015年に設立。2021年8月、株式会社ICHIGOに組織変更し、代表取締役CEOに就任した。社名は創業年(2015年)と四字熟語の「一期一会」に由来する。日本の文化、プロダクトと海外の顧客との出会いにちなんだ。
近本氏が起業しようと思ったきっかけは大学時代にあった。「クラスメートから一緒にやらないかと誘われ、事業の立ち上げを経験しました。自ら作り出したものが世の中に出てお客さまから反応を頂けるというのが非常に面白くて魅力的だと思いました」と近本氏。
リクルート時代に国内向けのECの新規事業の立ち上げを経験したことから、海外向けのECができないかと思い、独立を決断したという。
外国人観光客のお菓子「爆買い」がヒント
お菓子に目を付けたのは、日本を訪れる外国人観光客が日本のお菓子を「爆買い」する姿を見たからだ。
最初の主力商品は「TokyoTreat(トーキョートリート)」で、コンビニやスーパーに並んでいる日本のナショナルブランドのお菓子とソフトドリンクを詰め合わせたボックスだ。その後、202 1年に和菓子と日本茶を詰め合わせた「Sakuraco(サクラコ)」の販売を始めた。
顧客アンケートで「缶詰」「カップラーメン」「フィギュア」などから選んでもらった結果、和菓子が最も人気があることが分かったからだ。現在では「トーキョートリート」と「サクラコ」を合わせて販売の8割を占める。

幾多の困難を乗り越え累計の販売数は360万個に
創業から10年目を迎えた現在は、米国を中心に187カ国に販売し、メルマガの会員は約560万人に上る。累計の販売数は360万個に達した。
急成長したICHIGOも軌道に乗るまでには大変な道のりだった。
スタート時点は友人と2人で、コンビニなどで商品を仕入れ、自宅で箱詰めして発送。朝方までかかったことも。申し込みも月間30~50個程度だった。実績のない会社に卸してくれる問屋もなかったという。
知名度が上がったきっかけは、海外のユーチューバーなどのインフルエンサー向けのPRに力を入れ、実際に発信してくれたことだ。
その頃から海外で日本に対する人気度が高まり、訪日外国人観光客が増加。日本の物が欲しいという人が増えていたことも追い風になった。
ただコロナ禍では世界各地で国際配送が停止となり、最大で約2万個が返品され、自社倉庫を埋め尽くしたこともあった。2週間ぐらいで再開できたため、ほとんど廃棄せずに済んだが、配送できないもどかしさを感じたという。
この時に配送業者を変えたことで以前よりも早く確実に送れるようになり、カスタマーサービスも向上した。「ピンチをチャンスに変えることができた」と近本氏は話す。
内製化が成功の要因 自治体、金融機関とも連携
成功の要因について近本氏は、内製化がポイントで「地道にコツコツと積み上げていった」と語る。
「2017年当時で国内外の同業他社は30社ありましたが、薄利多売で、梱包やサイト作りを外注してしまうと、採算が合わなくなってつぶれてしまいます。うちの強みは細かいオペレーションにこだわり、梱包からプロダクトの構築、企画、デザイン、サイト作りまで全部、自分たちでやっていることです。これによって継続的に利益を上げられます」と分析する。
「サクラコ」は地方限定の詰め合わせで、近本氏や社員が地方の和菓子の買い付けに出向き、商品選びを行っている。
「最初はどの地方にどのようなお菓子があるか分からなかったので、地方の自治体や金融機関と連携し、地域に根差したお菓子のメーカーを紹介してもらいました」と近本氏。
一緒に取り組んできた自治体は約20自治体に上り、最近では自治体の担当者から「一緒にやりませんか」という声がかかるという。
海外では手に入らないもので、できるだけ小規模、家族経営でやっていて、地域に根付いている商品を選んでいる。この結果、これまで海外に出たことがないメーカーに販路を提供し、新商品の開発のきっかけになったこともあり「非常に喜んでもらえた」と近本氏は話す。
被災地、能登のお菓子を採り上げる
昨年10月には石川県のお菓子を採り上げ、地震や豪雨で大きな被害を受けた能登町や輪島市の商品もボックスに入れた。
「地震の影響で営業している店が少なかったですが、その中でも地元の原材料を使い、100年近く変わらない製法で作り続けて、地元の人に愛されているメーカーを選びました」と話す。

近本氏は兵庫県西宮市出身で、小学生の時に阪神淡路大震災に遭った。その経験から「立ち直るのが大変だった。そのことが身に染みて分かっている」と話す。この体験が被災地のメーカーを採り上げた理由でもある。
この話はテレビの番組でも採り上げられ、メーカーに対して大きな反響があり、売り上げ増につながったという。
「微力でも海外の方に被災地のことを知っていただき、気にかけてもらうきっかけになれば」と近本氏は言葉に力を込めた。
今後について近本氏は、「まだ発信できていない商品はたくさんある。47都道府県全ての商品を継続的に発信していく仕組みを作っていきたい」と話す。お菓子のボックスには、オリジナルのマガジンも入れている。使用している原材料の他、その地域の観光スポットなども紹介しており、実際、利用者の中には訪日した際に、自分が食べたお菓子の店を訪れて購入する人もいるという。
地方創生の課題は継続的な支援
地方創生について近本氏は「まだまだ全然、貢献できていません。地方のお菓子メーカーとコラボレーションして広めていくことはできていますが、継続的な支援になっているのかどうかは分かりません。海外の人向けの商品開発まではまだできていないので、今後は少しずつでもやっていければ」と今後の課題を指摘した。
現在、約300社のお菓子メーカーと取引があり、ボックスに入れるのとは別に単品でも取り扱っている。全て買い取りで大量に購入するため、地方メーカーの売り上げ増に貢献している。
ICHIGOの従業員は、アルバイトを含めて約150人。正社員の7割が外国人という特徴がある。当初、日本人の従業員がデザインを担当していたが、海外の人に販売する際、その国の人がデザインした方がより多く売れるということが分かり、外国人を採用するようになったという。
最初の頃は入社してもすぐに辞める人がいて、引き継いだ仕事がまた近本氏に戻ってくることがあった。今では10カ国以上の外国人が働いている。それぞれ文化的背景が異なるが、入社の際に「仕事をする上では日本のやり方で進めるよ」と伝え、理解して働いてもらっているため、順調に組織が回り出している。

近本氏のモットーは「できるかどうかではなく、やるかどうか」だ。まだ世の中に存在しない価値を自分たちで創り出すことだという。
リクルート時代は、美容雑誌の営業に配属され、約50社の顧客を担当。「断られても回り続けた経験が、今の仕事に生かされているのではないか」と話す。
近本氏は3人の子どもを育てながら、会社のトップを務めている。仕事と家庭との両立については「この仕事をしながら子どもを産んでいます。自分や夫の母親、ベビーシッター、ハウスキーパーといったいろんな方にお願いしてやってこられました。自分ができないことと必ずやりたいことは分けて、時間をコントロールしてきました。毎日必ず子どもと話す時間も設けていて、土曜、日曜は基本的に休みます」と説明してくれた。
伝統工芸品の販売を検討 日本の文化の発信を
現在、商品のメインはお菓子だが、近本氏は「日本の伝統産業には素敵なものがたくさんある。まだ取り組めていない商品が大多数なので幅を広げていきたい」と話す。その中で新規事業として検討しているのが包丁の販売だ。「日本の職人が何百年もかけて作り続けてきた文化で、非常に素晴らしい」と近本氏。
「お菓子から伝統工芸品へ、今後は幅広く日本の良さを海外に伝えていきたい」と日本文化の発信に向けても意欲を示している。

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