国産ごま取り扱い日本一企業の挑戦~世界中に本当のおいしさを届ける~(株式会社和田萬)

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2025年1月16日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

国産ごま取り扱い日本一企業の挑戦~世界中に本当のおいしさを届ける~(株式会社和田萬)

日本食には欠かせない「ごま」ですが、実は国産のごまは全体のわずか0.1%しかありません。ごまの栽培は機械化があまり進んでおらず、ほとんどが手作業で手間がかかることが原因です。そんな中、国産ごまの取り扱いシェア日本一の企業が大阪にあります。1883年(明治16年)創業のごま専業メーカー、株式会社和田萬です。

今回は、株式会社和田萬の5代目社長である和田武大さんにごまづくりへの想いや会社の理念、それらを実現するための工夫についてお話を伺いました。

和田萬のごまづくり

1883年(明治16年)、大阪天満で創業した和田萬は、海苔や干し椎茸、豆類などを扱う乾物問屋として商売を始めました。しかし、第二次世界大戦の影響により同社も大きなダメージを受けました。そこで、この状況を打破し何か新しいことを始めようと考えた3代目が、栄養価が高く自分たちの手で製造できる「ごま」という商材に目を付けました。そこから75年、「誠実に真心を込めて、おいしいものを作る」という想いで、ごまづくりを続けています。

同社の特徴の一つとして挙げられるのが「自家焙煎」です。ごまの最終的な味を決めるのは“原料3割、焙煎7割”と言われるほど、ごまづくりにおいて焙煎は最も重要な工程になります。同社では誰が食べるか、どんな食材と合わせるかによって煎り方を変えています。そのため、焙煎時間や温度を感覚的に把握する高度な「職人技」が求められます。

4代目・和田悦冶氏の焙煎風景
4代目・和田悦冶氏の焙煎風景

また、同社では自分たちの手でごまの栽培も行っています。2010年に奈良県の大和郡山市、2015年に葛城市でごまの栽培を開始しました。そして、ごま栽培を始めた当初から「ごま畑オーナー制度」を行っています。この制度では、ごま畑の共同オーナーを募集し、一緒に種まきや刈り取りなどの作業を行います。

家族でごま畑を訪れる方が多く見られ、「ごまってどうやって育っているのか、全く想像がつかなかった。」「子供にとっても勉強になったと思う。」「とにかく楽しかった。」などの声が多く寄せられており、5代目武大さんは「お客さんと一緒に栽培することはとても楽しく、一緒になって食べ物を作っている充実感がある。」と語ります。この取組には、ごまの自給率の向上に繋げ、ごまへの関心を高めたいという武大さんの熱い想いが込められており、単にごまを製造するだけでなく、お客さんと共に作り上げる体験を通じて、幅広い世代へのごまの普及に繋げています。

2019年、奈良県葛城市で開始した和田萬のごま畑に参加した共同オーナーとの集合写真
2019年、奈良県葛城市で開始した和田萬のごま畑に参加した共同オーナーとの集合写真

“本当のおいしい”を伝える

和田萬が目指すのは、ただおいしいものを「作る」ことだけではありません。食べる環境や体験を大切にし、単に味がおいしいだけではなく、“その時に”おいしいものを提供することを重視しています。そのため、食べ物の味のおいしさだけでなく、食べる環境や体験を大切にした商品を作っています。

そして、このような本当のおいしさを人々に「伝える」ということも大切にしています。「伝える」とは、「伝播する」こと。飛び越えていくものではありません。だからこそ、まずは一番身近な存在である家族や社員に、丁寧に誠実に真心を込めて作っているからこそ生まれるおいしさを伝えています。身近な存在からどんどん広げていき、最終的には世界中の人々に本当の“おいしい”を届けたいと考えています。

 そのような想いを実現するために、2023年3月、同社は“本当のおいしい”を伝える拠点として、 “IRUAERU”をオープンしました。“IRUAERU”は「食べる」を軸にしたコミュニケーションの場として作られており、店名には、ごまを「煎る」「和える」、そこにだれかが「いる」、そこでだれかに「会える」という意味が込められています。

2023年4月オープンした和田萬が展開するごまのカフェ&ショップ“IRUAERU”
2023年4月オープンした和田萬が展開するごまのカフェ&ショップ“IRUAERU”

“IRUAERU”は、同社の「世界中に本当のおいしさを届ける」という理念を体現した店になります。大切に丁寧に日本人らしさを出して作られた食べ物は、原料や製法が優れているだけでなく、心がこもっているからこそおいしいのだということを伝えたいと考えています。

そのために様々な工夫が施されており、普通のカフェとしてだけでなく、シェアキッチンワークショップスペース、ごま商品の物販まで備えています。加えて、同社の製品を使った料理教室や食べ比べイベントも開催されており、参加者はごまの魅力を直接体験することができます。

ごま油のワークショップでは、「ごま油ってどうやってできるか知らなかったので、新鮮でした。」「搾りたてのごま油ってこんなにおいしいんですね。衝撃です。」という声が多く寄せられています。

ごま油製造工程の一部
ごま油製造工程の一部

また、ごま豆腐のイベントでは「お店で買うごま豆腐と、手作りしたできたてのごま豆腐のおいしさって全く違う商品みたいです。また家に帰って家族のために作ります。」といった声もありました。

ごま豆腐づくりワークショップの様子
ごま豆腐づくりワークショップの様子

ごまは調味料であるため、一手間かけないといけませんが、これらのイベントを通して、ごまをどのように使い、どのように楽しむことができるのかを学ぶことができます。ただ料理を味わってもらうだけでなく、食べ方や体験を伝えています。そして、「誠実に心を込めて本当においしいものを届ける」という同社の想いに共感する人たちが集まる場にもなっており、お客さんからの感想からも、同社の想いが伝わっていることを実感しています。

今後も、「“IRUAERU”を同じ考えを持つ人が集い出会う場、『あらゆる人の交差点』になる店にしていきたい。」と武大さんは語ります。

楽しく誇りをもって働ける会社に

5代目武大さんは会社におけるご自身の役割について、「スタッフのみなが楽しく満足して働き、お客様とのコミュニケーションを楽しんでもらうために、後ろから支えること」と言います。その言葉どおり、社員が楽しく満足して働くための様々な工夫を実践しています。

5代目・和田武大社長
5代目・和田武大社長

その工夫の一つとして、「役職呼び」を廃止したことが挙げられます。同社の社員は、社長のことを「和田社長」ではなく「武大(たけひろ)さん」と呼びます。これは、社長自らの提案です。「役職呼び」をやめることでフラットな関係性を築くことができ、意見交換が活発に行われています。

また、社員とのコミュニケーションの中で、「聞く姿勢を持つこと」を最も大切にしています。社長が社員の意見に耳を傾け、役職問わず意見を言い合える関係性であることは、そこから新たな提案が出てきて新商品を生み出すことにも繋がっています。

例えば、「ごまあんともなかのセット」は社員の声で商品化が決まった新商品になります。あんこに黒ゴマが入った「黒ごまあん」という製品をもなかに挟むと非常に美味しいことから、社員がもなかの仕入れ元を探してきて社員の提案から商品化が決定しました。

このように、社員が意見を出し合い、その意見が反映される環境が整っており、より魅力的な商品の誕生に繋がっています。

“IRUAERU”併設のショップ
“IRUAERU”併設のショップ。
国産ごま、ごま油、ごまペースト、ふりかけなど様々な商品を揃えている。

そして、何よりも社員が「和田萬の商品を好きでいること」「誇りをもって働けること」を大切にしています。そのため、見た目や外見的な “格好良さ” も重視しています。「社員が働く場所をお洒落にすること」、「ホームページの見栄えをよくすること」や「カフェを開いたこと」のような工夫が自社への誇りに繋がっています。

特に、「カフェを開いたこと」は社員に好影響を与えています。多様なお客様と接する機会が増えることで、世界が広がり、販売・広報担当の社員の成長に繋がっています。また、このような場で社長から会社の理念を伝え社員に行動を促すことで、皆が明るく楽しく目的をもって充実した一日を送ることができています。

「社員が自信を持って自社のことを話せるような会社にしたい。」と武大さんは言います。社員が自社の商品を愛し、誇りを持って働くことができる会社を今後も目指していきます。

文化を守り、変化し続ける

5代目武大さんは会社を引き継いでいくことへの思いについて、「継承」ではなく「続いていることの一役を担っている」と語ります。それは、和田萬のこれまでの歴史とこれからも続く未来を一本の線として捉えると、自分がその一部分を担っている感覚だと言います。

その一本の線は、歴史でもあり未来でもあり文化でもあります。会社を引き継いでいくことは、会社の歴史を引き継ぐだけではなく、ごまの食文化、さらに広く言うと日本文化を守ることにも繋がっているのです。

そして、「歴史を守り続けることはもちろん大切ですが、守り続けていくことだけを重視し過ぎると時代に取り残されます。日々変わりゆく世の中の流行に合わせて変化し続けることが、会社が140年以上続いている秘訣。」と武大さんは語ります。
そのため、常に新商品の開発を模索し、単なる商品の製造・販売だけでなく、ごまの栽培や料理教室、ワークショップ、カフェなど、「ごま」や「食」を中心に様々な事業展開を行っています。和田萬は引き継がれてきた理念を軸としながら日々新しいことに挑戦し続けているのです。

これからも”世界中に本当のおいしさを届ける”ことを目指し、和田萬は変化を恐れず挑戦し続けます。

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近畿経済産業局 公式note