セイコーエプソン、長期ビジョンの集大成へ インクジェット技術を核に企業価値の向上をめざす
セイコーエプソンは7月2日、代表取締役社長の吉田純一氏、執行役員の水上雅治氏、エプソン販売代表取締役社長の栗林春男氏が出席し、長期ビジョン「Epson 25」における価値創造戦略と企業価値向上に向けた取り組みについて説明した。
2024年度は増収増益を達成
吉田氏が、2024年度の通期業績が増収増益となったことを発表した。売上収益は前期比3.7%増の1兆3,629億円、事業利益は同38.4%増の895億円、営業利益は同30.5%増の751億円、当期利益は同4.9%増の551億円だった。為替変動による円安進行が、売上収益で411億円、事業利益で35億円のプラス影響をもたらした。
セイコーエプソン代表取締役社長の吉田純一氏
「Epson 25」最終年度、企業価値のさらなる向上へ
2025年はエプソンブランド制定50周年にあたり、同時に長期ビジョン「Epson 25」の最終年度となる。吉田氏は、これまでの「誠実・努力・創造と挑戦」の歴史を振り返り、ウォッチ製造から始まった同社の歩みが、精密な技術を磨き、液晶パネルやプリントヘッドなど多様なデバイスを生み出し、世界中の顧客ニーズに応える形で事業を拡大してきたことを強調した。
同社のパーパスである「省資源のイノベーションを通じてBetter Worldを作る」という目標のもと、今後もイノベーションを通じた価値創造を追求していく方針だ。
価値創造戦略における主な取り組みと成果
オフィスプリンティングイノベーション
2010年発売以降、大容量インクタンクプリンターのグローバル累計販売台数が1億台を突破した。これらの製品は、家庭用IoT機器としてスマートデバイスとの連携やリモート印刷・スキャン機能を活用し、教育、医療、物流、小売など様々な分野で活用されている。オフィス向けプリンターでは、低消費電力・低抵抗のインクジェット技術へのシフトを推進し、環境負荷低減に貢献している。
商業・産業プリンティングイノベーション
UV溶剤系インク搭載プリンターや昇華転写インク搭載プリンターなど、幅広い顧客ニーズに対応する新製品を投入し、多様な素材へのオンデマンドプリントを可能にしている。また、独自のデジタルフロントエンドとの連携により、デジタル印刷の業務効率化と品質・生産性向上を実現した。特に、高精細1200dpiプリントヘッドを搭載したデジタルラベル印刷機の新モデルは、展示会で大きな反響を呼んでいる。
デジタル捺染技術では、持続可能なファッションの進化を目指し、顔料インクや機能性インクにより、プリント前後の処理加工が不要なモデルを発売。これにより、水使用量の大幅な削減と柔軟な生産設備を実現している。
昨年、印刷業界向けソフトウェアソリューションのリーディングカンパニーである**「Fayard社」をエプソングループに迎え入れ**、プリントヘッドや完成品との組み合わせにより、顧客への提案力を強化する方針だ。
エプソンのプリントヘッドは、自社製品だけでなく他社製プリンターにも活用されており、高速インクジェット生産機に対応する性能強化とラインナップ拡充を進めている。また、インクジェット技術の応用は紙や布にとどまらず、ペロブスカイト太陽電池や水製造、プリンティングエレクトロニクス分野への応用も視野に入れ、共創を進めている。プレシジョンプリントヘッドの生産能力拡大のため、東北エプソンに新棟を建設中で、今年9月に竣工予定だ。
インクジェット技術を核としたソリューションカンパニーへの進化
吉田氏は、今後のインクジェットイノベーションとエコシステム構築によるソリューションカンパニーへの進化の構想を説明した。プリントヘッドをパワーテクノロジープラットフォームとし、デバイス、完成品、ソフトウェアなどのソリューションを融合させ、顧客価値を創出する狙いだ。短期的には、Fayard社のソフトウェアソリューションとのシナジー創出、ポートフォリオ改革の加速を進め、中長期的にはパートナーとの共創による新規ドメインの拡大を目指す。