大阪府和泉市発 ATTACCATOと公設試が挑む電池技術のクロスオーバーと社会実装

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年9月17日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

公設試の技術とともに挑む電池技術のクロスオーバー

公設試験研究機関(以下、公設試)とスタートアップ企業の連携事例にフォーカスする本シリーズ。

第2回は、特殊環境用電池や電池消火システムを開発するATTACCATO合同会社と、大阪産業技術研究所 和泉センター(以下、大阪技術研)の共同研究事例をご紹介します。

1.企業紹介(ATTACCATO合同会社)

ATTACCATO合同会社は「面白くないとイヤ!」を企業理念とし、電池技術をコアにしながら、その技術をさまざまな分野へ展開するスタートアップです。

主力事業の一つである特殊環境用電池(※1)では、海洋生物や野生動物の行動を調査する「バイオロギング(※2)」向けに、用途や環境に応じたオーダーメイド電池を開発しています。

近年はリチウムイオン電池が発火した際の消火システムの開発にも取り組み、大阪・関西万博への出展も行いました。

※1:極低温・高温、高圧、海中、宇宙空間などの過酷な環境下でも安定して動作するように設計された電池。

※2:動物に小型センサや記録装置を装着して行動や生態、周辺環境のデータを収集・解析する研究手法。

まず、向井さんについて教えてください。

(向井さん)

私は2002年から現在に至るまで、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)で電池の研究開発に携わるとともに、様々な企業との共同研究を経験してきました。

その中で、電池分野で培った技術の他分野への応用(技術のクロスオーバー)や、研究成果の製品化・事業化に関する相談を受ける機会が少なくありませんでした。

こうした経験を通じて、研究成果をより幅広い分野へ展開し、技術のクロスオーバーを実現したいと考えるようになりました。

また、新しい分野や技術への挑戦を通じて、新たな価値を生み出したいという思いから、自ら製品開発や事業化にも取り組める場として、2014年にATTACCATO合同会社を設立しました。

研究中の向井さん
研究中の向井さん

ATTACCATO立ち上げの経緯を教えてください。

(向井さん)

創業時のメンバーは3名で、当時は全員産総研の電池関係の研究をしていました。資本金は32万円で、メンバーそれぞれがお小遣いを出し合って立ち上げた会社です。上場するつもりがなかったこともあり、合同会社という形を選択しました。

私は現在も産総研に所属し、企業との共同研究を通じた技術開発に取り組んでいます。

一方で、ATTACCATOでは製品開発や事業化を進めており、それぞれの活動は規程や契約に基づいて明確に区分しています。

研究者としての知見と事業化に挑戦する経験の両方を活かしながら、研究成果の社会実装と新たな価値の創出に取り組んでいます。

ATTACCATOの事業の特徴について教えてください。

(向井さん)

私自身は研究者であると同時に、知的財産にも強い関心を持っています。

大学では応用化学を学びましたが、その後、知的財産を体系的に学ぶために法律分野の大学院へ進学しました。

ATTACCATOにおいても、技術開発だけでなく、特許や著作権などの知的財産を重要な経営資源として位置付けています。

研究成果を特許出願する場合、一般的には発明者が弁理士に技術内容を説明し、その内容をもとに弁理士が明細書を作成するケースが多く見られます。

一方、私たちは、弁理士にご協力いただきながら、請求項や明細書の作成、新規性喪失の例外、早期審査の申請、さらには拒絶理由通知への対応まで、発明者自身が主体となって進めてきました。

著作権に関しては、例えばバイオロギング向け電池の開発では、電池そのものは研究者に無償提供し、対価として、取得した映像データの利用権を提供してもらうことがあります。そうした映像がテレビ番組などで活用されることで利益を得るビジネスモデルもあります。

また、大阪技術研との共同研究でも、特許の出願戦略や権利範囲、事業化まで見据えた知財戦略について助言を受けながら、議論を重ねてきました。

また、特許出願に活用できる助成制度についても情報提供をいただき、知的財産活動を進める上で大きな支援となりました。

バイオロギング用電池
バイオロギング用電池

ATTACCATOの企業理念は「面白くないとイヤ!」です。

これは単に好きなことだけをやるという意味ではありません。面白いことを続けるためには、新しい課題に挑戦し続ける必要がありますし、自分の専門分野の外へ踏み出す勇気も必要です。

実際に私たちは、電池技術を起点に、特殊環境用電池、バイオロギング、消火システム、肥料、革細工用材料など、さまざまな分野へ技術を展開してきました。専門領域の壁を越えた「技術のクロスオーバー」が、新しい価値や事業を生み出す原動力になっています。

2.研究者紹介(斉藤誠さん)

斉藤誠さんは、大阪産業技術研究所 金属表面処理研究部の主任研究員です。

電池分野を専門としながら、異分野技術の電池分野への応用や、企業間連携による新しい価値創出にも積極的に取り組んでいます。

研究中の斎藤さん
研究中の斎藤さん

斉藤さんの経歴と研究内容を教えてください。

(斉藤さん)

私は昔から極端なこと、変わったことを試してみるのが好きな性分でした。研究者としても、大胆な仮説を立て、それを検証する、そういった思考と実践の過程に楽しみを感じています。

ポストドクター時代から電池研究に携わっていますが、電池は多種多様な材料や技術の集合体です。そのため性能向上を目指すアプローチも多岐にわたり、異分野の知見や技術が大きな可能性を持っている点を面白いと感じています。

そして企業同士の強みをつなぎ、新しい価値を生み出していくことに大きなやりがいを感じています。

公設試の研究員として大切にしていることは何でしょうか。

(斉藤さん)

優れた技術を持ちながらも、その価値が十分に社会へ伝わっていない企業が少なくないことを実感しました。

研究者として技術を見るだけでなく、そうした企業の強みを客観的に整理し、社会に発信して新たな価値創出につなげていくことも、研究者として果たすべき重要な役割の一つではないかと考えています。

公設試は、多様な企業と連携しながら技術を社会実装し、ともに成長していくことができるフィールドです。技術の本質を見抜き、異なる技術や強みを結び付け、新たな価値を生み出していくことは、私にとって大きな楽しみであると同時に、自らの知識や経験を社会へ還元するベストな方法だと考えています。

3.向井さん、斉藤さんに聞きました

ATTACCATOと大阪技術研の関係は、同じ敷地内で研究開発を進めながら、共同で課題解決に取り組む密接な連携が特徴です。

連携のきっかけはどこにあったのでしょうか。

(向井さん)

創業当初は、実験ができる環境を確保することが困難でした。

産総研の施設を利用するという選択肢もありましたが、自身が所属しているため、ATTACCATOでの活動との区別が分かりづらくなる懸念がありました。そこで別の場所を探していたところ、研究テーマとの親和性が高く、施設も利用できる大阪技術研の和泉センターと出会いました。

加えて、産総研時代から顔見知りだった斉藤さんが在籍されていたことも理由の一つです。同じ研究室で一緒にやってきた仲間なので、お互いの考えや研究の進め方も分かっていました。

共同研究はどのように進んだのでしょうか。

(向井さん)

最初の大きな課題は、「性能の良い電池はできたけれど、なぜ性能が良いのか分からない」という点でした。

大阪技術研には、X線CTや表面分析などの高度な分析設備に加え、それぞれの分野を専門とする研究員が在籍しています。

課題に応じて担当研究員と意見交換を重ねながら、必要な分析や評価を実施し、電池性能向上のメカニズム解明を進めました。

また、分析結果をすぐに材料設計や電池設計へ反映することで、新たな材料や高性能電池の開発につなげてきました。

研究室の様子
研究室の様子

公設試との連携で得られた成果は何でしょうか。

(向井さん)

共同研究の成果は学会発表や受賞につながりました。

特に、電池開発事業の基盤技術である電池用無機バインダは高く評価され、電気化学会電池技術委員会賞(※3)(斉藤誠氏、2020年)および近畿化学協会化学技術賞(※4)(向井孝志氏ら、2021年)を受賞しました。

さらに、その成果を見た企業から「亜南極のような厳しい寒さの環境で動作する電池の技術であれば、それを寒冷地での自動車の性能向上に活用したい」といった相談をいただくようになりました。

こうして、特殊環境向けに開発した技術が、自動車分野など別用途へ展開されていったのです。

共同研究により、新しい技術だけではなく、他者からの「信頼」を得られたことがこれまでの経営過程において大きかったと思います。

※3:公益社団法人電気化学会の電池技術委員会が、電池分野において優れた研究開発成果を挙げ、学術・技術の発展に貢献した研究者に授与する賞。

※4:一般社団法人近畿化学協会が、化学に関する研究・技術のうち工業的・社会的・学術的価値が認められた優れた業績を挙げた若手研究者・技術者に授与する賞。

「信頼」という言葉が印象的ですね。

(斉藤さん)

例えば大企業がスタートアップ技術を採用する際、「信頼できる技術なのか」といった慎重な議論が行われます。

その時に、大阪技術研がデータを取得し、メカニズムを解明し、専門の研究者がしっかり関わっている。それが技術の信頼性を示す裏付けになります。

もちろん、出会った企業同士の連携が成功するかどうかは、企業自身の技術力や情熱によります。我々が無理やり押し込むものではありません。

一方で、我々が信頼性の高いプラットフォームを作り、そこに多くの企業や人が集まることで、「良い化学反応」が起きると思います。

私たちが提供している価値の一つは、まさにそうした「信頼の裏付け」だと思っています。

大阪技術研の強みはどこにありますか。

(斉藤さん)

公設試の強みは幅広い専門家がいることです。

スタートアップは研究だけでなく、生産技術や品質管理、量産化など、さまざまな課題に直面します。

そうした時に、必要な専門家へすぐにつなげられます。こうした水平連携は、大阪技術研に限らず、どの公設試も持っている強みだと思います。

また、スタートアップ創業時の課題の一つに「事業所の確保」がありますが、本日お越しくださっている共同研究室のように、スタートアップ向けのインキュベーション施設も備えています。単なる貸しラボ機能にとどまらず、同じ敷地内にいるメリットを生かして、弊所の研究員と密接にコミュニケーションをとることができます。

そもそも公設試は、お客様である企業との距離が近く、「お客様のため」を第一に考える研究機関です。数多くの企業と関わっていますので、「この技術とこの企業を組み合わせると面白いのではないか」という視点も持っています。

オープンイノベーションのハブとして機能できることは、公設試ならではだと思います。

(向井さん)

私もその点は強く感じています。

例えば研究で新しい課題が出てくると、「この人が詳しいですよ」と別分野の研究者を紹介していただけます。

また、研究者だけではなく事務部門や知財部門とも連携できるので、公設試全体で一つのチームのように対応いただける感覚があります。

今後の展望を教えてください。

(向井さん)

現在進めている電池消火システムの事業化をさらに進めていきたいと思っています。

大阪・関西万博で展示した際には、多くの方から商品化への期待の声をいただきました。

現在は子会社も設立し、量産化に向けて取り組んでいます。また、今後も「技術のクロスオーバー」という考え方を大切にしながら、新しい価値を生み出していきたいですね。

(斉藤さん)

スタートアップとの連携は、スタートアップ側、公設試側の双方にとって大きな意義があります。

公設試の研究員は、自身の専門分野の深堀りは得意ですが、わき目もふらず深堀りだけしてしまうと、社会情勢や産業構造の変化など、時流に乗り遅れてしまう可能性があります。

その点、スタートアップが主に取り組むテーマは「これまで世の中になかったもの」を生み出して社会実装する挑戦ですから、個々の専門分野に横串を通した、広い目線での支援が必要となります。

スタートアップとの共同研究は、研究員自身が視野を広げ、大きく成長するチャンスであり、研究所にとっても、専門性の深さと技術支援の幅広さを兼ね備えた組織へと成長できる、ありがたい機会だと思っています。

公設試としても、スタートアップと共に新しい価値を作り続けたいと思っています。支援する側、される側ではなく、お互いに学び合い、共創を積み重ねながら新しい価値の創出、さらには社会課題の解決にも貢献していきたいです。

研究室のバイオロギング用電池のサンプルと鳥のはく製
研究室のバイオロギング用電池のサンプルと鳥のはく製

4.取材を終えて

今回の取材で印象的だったのは、ATTACCATOと大阪技術研の関係が、「企業と公設試」という枠を超えた共同研究パートナーになっていることでした。

資本金32万円で始まった小さなスタートアップが、特殊環境用電池の開発からスタートし、大阪・関西万博出展や新会社設立へつながるまでの過程には、公設試との密接な連携がありました。

一方で、大阪技術研も単なる分析機関ではありません。技術の本質を見極め、企業同士をつなぎ、事業化まで見据えながら伴走する姿勢がありました。

向井さんが語った「面白くないとイヤ!」という理念と、斉藤さんが語った「企業さんに儲けてもらってなんぼ」という言葉。一見異なるようでいて、どちらも新しい価値を社会へ届けたいという思いに根ざしています。

スタートアップと公設試。双方が強みを持ち寄り、学び合いながら成長していく関係性こそが、これからの技術開発や社会実装を支える一つのモデルなのかもしれません。

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近畿経済産業局 公式note
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