地域企業の未来を変える人的資本経営 支援者と企業が実践する伴走型人材支援

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年9月8日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

地域企業の未来が変わる!支援者と企業が紡ぐ伴走ストーリー

はじめに

人手不足の深刻化が進展する中、中小企業における人材確保・定着は経営上の重要課題となっています。しかし、その解決策を採用だけに見出すのではなく、本当の経営課題は何かを抽出し、今いる人を活かすという発想に立つことも極めて重要です。では、今いる人を活かして企業の成長につなげるためには、どのような支援が求められるのでしょうか。

こうした背景を踏まえて、近畿経済産業局では、令和8年8月19日に「地域企業の未来が変わる!支援者と企業が紡ぐ伴走ストーリー -企業の人材支援の在り方を実践者同士で学ぶ事例研究会-」を開催しました。

この記事では、本研究会の内容を振り返りながら、これから必要とされる人材支援の在り方について、考えを深めていきます。

冒頭

全体ファシリテーターを務める森安亮介氏から、本研究会の背景にある人材支援の在り方等について紹介しました。

  • 人材支援は、「正解のないテーマであり、置かれた状況によって最適解が異なる」もの。
  • 本日のセミナーでは、正解を学ぶのではなく、自分の気づきを共有することで異なる文脈の中で、更なる気づきを得る場にしてほしい。
森安 亮介
森安 亮介
研究商社 主宰/慶應義塾大学産業研究所 共同研究員
2008年に人材会社へ入社。営業・業務・マーケティングに従事した後、2010年にシンクタンク子会社を設立。人材マネジメント・キャリア・労働市場の各種研究発信に従事。その後、2015年から金融系シンクタンクにて「雇用・地域」「EBPM」などを中心に政策立案・推進支援に従事。
中小企業庁「人材戦略」、総務省「テレワーク総務大臣賞」など政府系の委員を多数歴任。
持続的な地域労働市場や地域コミュニティにおける企業の社会性など、地域に根差したテーマも研究している。

オープニング

オープニングとして、近畿経済産業局地域経済部地域連携推進課産業人材企画係長の中原由佳より、「なぜ今、人材支援に取り組むべきか」について、背景等も含めながらご説明しました。

~Summary~

  • 現在とこれからの人材市場。
    日本は総人口と就業者ともに減少局面へ突入しており、2040年頃には1,100万人の働き手不足を見込む「労働供給制約社会」へ。この状態を前提として、今いる人を活かす取り組みを行わなければ事業継続は困難になる。
  • 人材における問題の所在
    問題の所在は、「人がいないこと」ではなく、「人を活かせていないこと」ではないか。
  • 中小企業庁における政策の方向性。(中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略)
    労働供給制約社会では、「数よりも質」の追求が重要であり、経済的な供給力強化のためにも「強い中小企業」が増える必要がある。
    中堅・中小企業の稼ぐ力を強化するためには、「一人当たりの付加価値額(付加価値労働生産性)」の向上が不可欠。
  • 「地域企業の人的資本経営」政策の目指したいビジョン。

本事業が目指したいビジョンは「人の可能性を最大限に活かす経営により関係者から選ばれ、結果として、企業価値向上を図る企業が、労働供給制約下においても、それぞれの地域・社会でよりよい変化の起点の役割を担っているような状態」。

この状態を関西から実現していくために、「地域の経営支援はどうあるべきか、そのためにどのような支援や体制が必要なのか」、そしてその「支援インフラが地域で持続的にあり続けるために」はどうすればいいのかを本セミナーを皮切りに、地域の支援者の皆様と考える機会とさせていただきたい。

中原 由佳
中原 由佳
経済産業省 近畿経済産業局 地域経済部 地域連携推進課 産業人材企画係長
2018年 経済産業省近畿経済産業局へ入局。サービス産業やコンテンツ産業、ガス事業、開放特許のマッチングの支援に従事した後、2026年4月より現職。

各地域における人材支援事例

オープニング終了後、各地域の支援事例へと移ります。3名の支援者は、どのような考え方を持ちどのような手法で支援を行っているのかをお話しいただき、支援を受けた企業の方にも実際に、当事者としてお話をいただきました。

まず、トップバッターとして滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点の黒川幹生マネージャーより事例紹介をいただきました。

~Summary~

  • 企業支援の判断基準は「人」
    企業価値の源泉が有形資産から無形資産へ移り、人材は「コスト(人的資源)」から「資本(人的資本)」へ捉え方が転換している。
    人を大切にする社員満足度を高めるという手段をとっている企業がしっかりとした経営基盤を築き、発展につながっていることから人的資本経営は注目を浴びている。
  • 「人材戦略」の質は、何を表しているのか。
    支援者の見方として、人材戦略の質は、その企業が中長期的に成長し続けられるかを示す先行指標になる。
  • 応援したくなる企業の5つの共通点
    人材活用ガイドラインにも示される以下の共通要素は、伸びる企業の見分け方になる。
    1. 人材戦略が経営戦略と結びついている。
    2. 理想と現状のギャップを数字で把握
    3. 知・経験の多様性を取り込んでいる。
    4. 学び直しに投資している。
    5. 理念が現場の行動に根づいている。
  • 企業との対話で見極める4つの着眼点
    1. 経営者が人材を組織図も活用しながら、自分の言葉で語ることができるか。
    2. 離職率や研修投資額等をデータで裏付けられるか。
    3. 後継と幹部の道筋があるか。
    4. 採用や育成方針等を対外的に開示しているか。
  • 4つの支援実践アクション
    見極めて終わりではなく、共通点に近づく後押しをする。
    1. 問いを変える。決算の話から始めず、「3年後や5年後にどのような組織でありたいか」を聞くこと。
    2. 現在地を可視化する。人材に関する情報を一緒に棚卸しし、理想とのギャップを共有する。(組織図が有効)
    3. うち手をつなぐ。リスキリング支援策や専門人材の紹介など、外部の資源や情報と橋渡しする。
    4. 継続して伴走する。人材KPIを定点観測し、都度必要な支援を実施する。
  • 組織図の有効性について
    必要な人材を見極めるためには組織図が有効。金融機関等の経験から、組織図の作成や共有は現在の姿を客観的に見ることができるので経営課題抽出の早道となり、定点観測の材料としても有効である。
  • これからの支援機関に求められる5つの役割
    1. 個別採用ではなく「給食・定着の根本原因」を掘り起こす(診断と伴走)
    2. 「外部人材」や「副業・兼業」の積極活用を提案
    3. 人材不足を前提とした「生産性向上」の支援
    4. 「地域の人事部」としてのネットワークの構築
    5. 経営者の「壁打ち相手」となり、ストーリーを言語化する
黒川 幹生
黒川 幹生
滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点 マネージャー
1977年に滋賀銀行へ入行後、30年間で10店舗を経験。本部での審査部門にも従事した後、民間病院の事務長として出向し、病院の開業等に携わる。滋賀銀行の退職後は、日本郵政公社時代から郵便局長として7年間従事。
2015年12月より現職。金融機関等の従事経験を活かして滋賀県内の中小企業支援に従事し、多くのマッチング実績を生み出している。

次に登壇していただいたのは、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の社内ベンチャーである京信人材バンク 椿直己代表です。

~Summary~

  • コミュニティ・バンク京信について
    1971年日本初の「コミュニティ・バンク」を宣言し、2017年にノルマを廃止。2020年にはイノベーション創発拠点「QUESTION」を開設。2023年に創立100周年を迎え、2026年から全店舗を課題解決型店舗へ移行している。
  • 「京信人材バンク」と「まちのタレント(複業人材)」について
    2020年コミュニティ・バンク京信初の社内ベンチャー事業として、設立。当時、入社5年目の2人が共同代表となった後、複業人材が3人目の共同代表に就任。
    地域に眠る多様な才能を「複業」という形で企業の力に変える独自モデルを構築しているほか、正社員の人材紹介や複業コミュニティの運営も実施している。
  • 金融機関を母体とする強み
    一般的な人材サービスが提供する「人材募集・マッチング」サービスとは異なり、バンカーの営業担当と連携しながら経営課題の整理から支援に入り、本当に必要な人材要件の定義や募集方法の検討を行ったうえで、人材募集やマッチングまで伴走支援している。
    支援事例として、「to C向けの営業を新たに始めるために正社員を1名採用したい」という希望を持つ事業者に対して、バンカーと共に課題等を聞き取った結果、課題が多岐にわたっていたことから複数の複業人材活用につなげた事例を紹介。結果として、それぞれの専門性を持つ4名の複業人材を活用したことで正社員1名を雇用するよりもコストを低減しながらパフォーマンスを発揮し、売り上げも向上した。
  • 複業人材の活性化に向けた取り組み
    複業したい人材は多く存在しているものの、企業側が制度を知らないなど、受け入れ側の土壌を構築していくことが必要で、そのためにイベントを開催するなど啓蒙活動を実施している。
    また人材バンク通信というパンフレットを作成して、実際の支援事例を企業名等を明記して紹介することでハードルを下げる取り組みも実施している。
椿 直己
椿 直己
コミュニティ・バンク京信 京信人材バンク代表
2004年に京都信用金庫へ入行後、融資事務や企業営業等を経験し、企業成長推進部にて金融機関初となるUber社との提携などを手掛ける。その後、2020年に京都信用金庫の共創施設イノベーション創発拠点(共創施設)「QUESTION」の立ち上げに副館長として従事。その後、嵯峨支店の支店長を4年勤め、2025年より現職。

3人目の登壇者は兵庫県プロフェッショナル人材戦略拠点の亀井芳郎 マネージャーです。

~Summary~

  • 採用に係る費用について
    大手人材紹介では、手数料として年収の30~35%、求人サイトでは10~20万円と大きなコストが必要。社員が30人に満たない地域の中小企業にはリスクが高く、使うことができない。 
  • 人材採用の問題点~採用は最適解か~
    人材不足だから人材を採用したいと企業は考えているが、「採用を行うことができたとして本当に課題を解決することができるのか」を考える必要がある。
    例えば現場が「忙しいので人手がほしい」と要求したことで採用することは一見正しいように見えるが、採用コストに見合う収益性があるのか、育成・定着できるのか、仕事の仕方(生産性)に問題はないのかを考える必要がある。
  • コンサルや専門家派遣の問題点
    コンサルや専門家は、経営者からヒアリングを行い課題と対策の提案書を作成する。しかし、実行するのは現場であるのにも関わらず、経営者としかコミュニケーションをとっていないために現場からは理解不能で、機能不全を起こしてしまう。また、副業人材を活用するにしても、現場とのコミュニケーションや業務の切り出しが必要である。
  • 右腕人材プログラムについて
    右腕人材プログラムでは、大企業で働く人材が支援者と共に課題抽出や実行までを現場に入って伴走するもの。
  • 中小企業の課題における2:8の法則
    中小企業は100社100様と言われるが、実務経験からは、そうではなく同じような姿があり同じような課題を持っていた。この経験から、企業における経営課題の内、2割の6つの課題で8割の企業をカバーできると考えている。
亀井 芳郎
亀井 芳郎
兵庫県プロフェッショナル人材戦略拠点マネージャー
1976年輸入商社へ入社後、海外ブランド展開に従事。営業部長や企画開発部長等を経験し、1999年にアパレル企業へ入社。新規事業を立ち上げた後、同社社長を引き継ぎ、上場へ導く。退任後、経営者支援を活かしてコンサルタントとして独立。
平成27年より現職。以降、1,000社以上に対して人材支援を行い、それらの経験も踏まえて2020年には「セブンエレメンツモデル」を上梓。

そして、亀井マネージャーが支援に入った企業であるハートスフードクリエーツ株式会社の西脇章代表取締役より、支援された側からの話を頂きました。

~Summary~

  • 自社紹介
    2011年に創業後、順調に成長。現在は社員数140名で平均年齢28.5歳。
    企業名は「見えない心をお料理で届ける」という理念から。
    事業内容は求食事業や外食事業を手掛けるほか、淡路島で農業も実施。供給されるものではなく、求める時代になると考えている。
  • 右腕人材プログラムを取り入れた背景
    課題は会社が急成長したことにより、組織化と管理職の育成に悩んでいたこと。人事のプロや専門家、コンサルに依頼していたが上手くいかなかった。
    その理由の一つとしては、現場が理解できないようなPDCAをはじめとする横文字を羅列した資料を作成し、それに基づき外部から指導されることで、現場と乖離が生じたこと。
    そこで右腕人材プログラムを導入したことで、現場と寄り添い伴走してくれたことで、社員が能動的になった。
  • 失敗事例の紹介
    当初、同じポジションの右腕人材が2名入ったことで、お互いが気を使ってしまい、軸がぶれてしまうことがあった。失敗店を踏まえて再構築を試みたところ上手く機能し、事業が順調に推移した現在も支援が継続している。
  • 支援を成功させるために
    支援を成功させるためには支援者に4つのポイントが必要。特に4つ目が重要だと考えている。
    1. 人間力が高い(人望がある)
    2. 常に寄り添いの姿勢が見える
    3. 傾聴姿勢である(話を聞いてもらえる)
    4. 支援先の事業に自らが共感している。
西脇 章
西脇 章
ハートスフードクリエーツ株式会社 代表取締役
関西の有名ホテルで約15年間ソムリエ等を務めた後、大手給食会社の取締役に抜擢。経営や組織作りに尽力した後、2011年にハートスフードクリエーツ株式会社を設立。求食(給食)・外食・コンサル事業を展開するほか、2021年には淡路島で農業法人を立ち上げ、無農薬栽培を通じた持続可能な食を実践している。「食」で人を幸せにし、地域を元気にするため、現場・経営・教育・農業を融合した新たな価値創造に挑戦し続けている。

トークセッション

「人材支援を伴う伴走的な経営支援」というテーマを深ぼりするため、ファシリテーターの森安氏と登壇いただいた3名の支援者によるトークセッションが行われました。その後、西脇社長より企業側から見た必要な経営支援についてお話しいただきました。

~Summary~

  • 伴走する支援者に求められる姿勢やポイント
  • 金融機関や支援組織としての難しさ
  • 伴走支援の難しさ
  • 支援者側から見た必要な経営支援
トークセッションの様子

より深い議論の内容について、アーカイブ動画で見ることができます。ぜひご覧いただき、最前線でご活躍される方々から得られる知見を感じ、様々な気づきを得て頂ければと思います。

セミナー「企業の人材支援の在り方を実践者同士で学ぶ事例研究会①」アーカイブ視聴申込フォーム

ここまでを通して共通していたのは、「人を大事にするということは、今いる人に目を向けること。その人たちなくしては、会社は成り立たない。」ということ。現場は実行する人たちであることから、どのような人材支援においても、現場をないがしろにしてはいけない。という「現場」の重要視だったかと思います。

内省

アーカイブ動画にはありませんが、トークセッションの後、会場では内省のプログラムへと移ります。

それぞれのグループで、気付きや感じたこと、一番印象に残ったこと、自組織に置き換えた時の課題などを言語化し、互いにシェアする時間です。

自由闊達に意見交換がなされ、どのグループも盛り上がっていました。

内省のプログラムの様子

おわりに

先述のとおり、本セミナーについては一部動画で公開しています。

ぜひフォームからご覧ください。

元記事へのリンクはこちら。

近畿経済産業局 公式note