大阪府八尾市発 ガラスの美しさと割れにくさを両立する高透明シリコーン技術開発の挑戦

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年7月14日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

第10回ものづくり日本大賞 特集(近畿経済産業局長賞編)ガラスのように美しく、割れない――錦城護謨の高透明シリコーン技術が拓く「割れない世界」

ものづくり日本大賞とは-

「ものづくり日本大賞」は、我が国の産業・文化の発展を支えてきたものづくりを次代へ継承し、さらに発展させていくことを目的に、ものづくりの第一線で活躍する優れた人材やグループを顕彰する内閣総理大臣表彰です。製造・生産現場の中核を担う人材、伝統的・文化的な技を支える熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりに携わる各世代の中から、特に優秀と認められる取組が表彰されます。

本特集では、第10回ものづくり日本大賞で近畿経済産業局長賞を受賞したメンバーにお話を伺いながら、取組の背景や開発の歩み、ものづくり日本大賞を受賞してからの今後の展開について紹介します。

今回は、第10回ものづくり日本大賞において、機能性と意匠性を両立させた高透明シリコーン製品の技術開発により近畿経済産業局長賞を受賞したメンバー、錦城護謨株式会社 代表取締役社長 太田泰造さん、業務統括部 企画課 係長 水田竜平さん、工業品事業本部 品質管理部 兼 生産部 部長 鈴木宏昭さんにお話を伺いました。

受賞概要

案件名:「割れない世界」を実現する、機能性と意匠性を両立させた高透明シリコーン製品の技術開発
受賞者:錦城護謨株式会社 太田泰造さん、吉年正人さん、大川浩司さん、水田竜平さん、鈴木宏昭さん

老舗ゴムメーカーの技術力、高め続けるものづくりへの姿勢

はじめに、太田社長に「錦城護謨が大切にしてきたものづくりの姿勢」についてお聞きしました。

「当社は、家電、事務機器、スポーツ用品、医療機器など、幅広い分野を対象にゴム製品を販売しています。加えて、自社ブランドの地盤改良用土木資材「キャッスルボード」の製造販売及び施工や、視覚障がい者向け歩行誘導ソフトマット「歩導くんガイドウェイ」の製造販売及び施工など、福祉関連事業も展開しています。そうした中で、私たちが大切にしてきた姿勢は『できないとは言わない』ことです。」

錦城護謨株式会社 太田社長
錦城護謨株式会社 太田社長

こうした姿勢から、取引先企業からは時に「困った時の駆け込み寺」と称されることもあるそうです。

さらに同社の強みは、幅広い分野への対応力を支える、材料選定及び配合設計・金型設計・成形・製造までの一貫した技術力にあります。その技術力を築き上げる難しさを、太田社長は「かけ合わせることの難しさ」と表現します。材料を一つ変えるだけでも、成形条件を細かく調整する必要があります。すべての行程を見渡している同社だからこそ、こうしたものづくりの難しさを実感し、表現することができるのです。

一方で、取引先との守秘義務の関係から、自社製品がどのような場面で活躍しているのかを一般に広く知ってもらう機会は限られていました。そのため、社員の皆さんが「自社技術に対する誇り」を実感しにくい場面もあったといいます。

こうした状況に、太田社長は危機感を抱いていました。BtoB製品を中心としてきた老舗ゴムメーカーである同社が、今回の受賞につながるBtoC製品の開発に踏み出した背景にはこの危機感がありました。

そこで、太田社長は、社員に対して新しいプロジェクトの立ち上げを呼びかけました。そのとき組成されたチームのメンバーこそが、水田さん、鈴木さんをはじめとする今回の受賞メンバーの皆さんでした。

BtoCへの新規参入

BtoC製品づくりに挑むメンバーにとって、そこはまさに未開の領域でした。そこで活用したのが、同社が拠点を構える八尾市の新製品開発支援の取組です。デザイナーが企業の技術を見極め、どのような製品展開に適しているかを提案するという支援を受けながら、同社は新たな可能性を探っていきました。

その過程で、同社の技術と「グラス」というテーマが結びつき、今回の受賞案件につながる製品開発が始まりました。

そこからは、「デザインはどうするか」「ロゴはどうするか」「価格はどう設定するか」と、初めてのことの連続でした。手探りの中で出会った協力者たちとともに、一歩ずつ製品化へと歩みを進めていきました。

最終的には、クラウドファンディングを活用してテストマーケティングを実施。一般の方々から直接反応を得ることで、製品の価値や市場での受け止められ方を確かめる機会となりました。

水田さん、鈴木さんは、当時のことを思い出しながら次のように話します。

「八尾市の事業の最後にはクラウドファンディングを活用したテストマーケティングを実施しました。最初に支援してくださったのは、まったく知らない一般の方だったんです。うれしさもありましたが、驚きも大きかったですね。私たちのことをおそらく全く知らないであろう一般の方にもこの製品の良さや、そこに込めた想いが本当に伝わるんだ、という手応えを感じました。」

錦城護謨株式会社 鈴木さん、水田さん
錦城護謨株式会社 鈴木さん、水田さん

価格設定についても、初めての挑戦ならではの試行錯誤がありました。「自分たちならいくら払うか」を出発点に考えた当時のことを、皆さんは笑顔で振り返ります。そこには、ものづくりをともに進めてきたチームの信頼関係が感じられました。

当時のことを思い出しながら、笑顔になる水田さん、太田社長
当時のことを思い出しながら、笑顔になる水田さん、太田社長

そして2020年、同社初のオリジナルブランド「KINJO JAPAN」が立ち上がりました。

ガラスのような透明感をもつKINJO JAPAN
ガラスのような透明感をもつKINJO JAPAN

シリコーングラスの美しさを支える技術

シリコーンゴムは、割れにくさや耐熱性に優れる一方で、従来は「ガラスのような透明感」や「シャープな意匠表現」を実現することが容易ではありませんでした。同社は、素材選定、金型設計、成形条件、仕上げの各工程を見直し、機能性だけでなく、手に取ったときの美しさや使う楽しさまで追求しました。

その成果として生まれたのが、ガラスと同等の透明度を持ちながら、落としても割れない高透明シリコーングラスです。光を美しく取り込むカッティングデザインや、パートラインを感じさせにくい仕上がりにより、機能性と意匠性の両立を実現しています。

「持った瞬間の驚きを提供したいと思っています。ガラスのように見えるのに、握るとぐにゃっと曲がる。その瞬間のお客様の表情を見ることに、うれしさを感じます。」太田社長は、そう話します。

KINJO JAPANがぐにゃっと曲がる様子
KINJO JAPANがぐにゃっと曲がる様子

素材の可能性を広げる挑戦

同社の取組は、単に「割れないグラス」をつくることにとどまりません。ガラス製品やプラスチック製品の代替として、より安全で、長く使え、環境負荷の低減にもつながる素材の可能性を広げる挑戦です。

高透明シリコーン製品は、割れにくさや耐熱性に加え、透明度、光の反射、手触り、使い勝手といった複数の要素が重なって価値を発揮します。家庭や屋外、宿泊施設、イベント、災害時など、割れることがリスクになる場面での活用が期待されるほか、子どもから高齢者まで安心して使える、ユニバーサルデザインの観点でも意義のある製品です。

ものづくり日本大賞受賞が示す、ものづくりの可能性

今回、高透明シリコーン製品の開発により、同メンバーは近畿経済産業局長賞を受賞しました。錦城護謨が家電部品や土木分野など、さまざまな分野で培ってきた技術が、暮らしに近い製品や環境負荷低減につながる素材開発へと展開している点に、地域ものづくり企業の強みが表れています。

受賞者は、太田泰造さん、吉年正人さん、大川浩司さん、水田竜平さん、鈴木宏昭さんの5名。受賞件名のとおり、機能性と意匠性を両立させた高透明シリコーン製品の技術開発は、個々の工程や部門の知見をつなぎ合わせた総合的なものづくりの成果といえます。

「ものづくりに携わる者として、『ものづくり日本大賞』を受賞することは夢でした。本当に受賞できたことがうれしいです。」

第10回「ものづくり日本大賞」表彰式の様子
第10回「ものづくり日本大賞」表彰式の様子

錦城護謨は、ゴム材料の可能性を追求し、これまで産業向け部品づくりで培ってきた技術を、暮らしに近い製品へと展開しています。高透明シリコーン製品は、ガラスのような美しさ、割れにくさ、耐熱性、そして環境負荷低減への期待を兼ね備えた新しい選択肢です。

「割れない世界」の実現に向けて、同社の技術が今後さらに多様な場面で活用されていくことが期待されます。

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近畿経済産業局 公式note
近畿経済産業局 公式note