公設試の技術とともに挑むバイオものづくり スタートアップと大阪産業技術研究所の共創
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年9月3日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

公設試験研究機関(以下、公設試)とスタートアップ企業の連携事例にフォーカスする本シリーズ。
全国の各都道府県に存在する公設試は、地域企業の技術支援の中核として重要な役割を担ってきた一方で、それぞれの特徴や、どんな研究者がいるのか?など、個別の「強み」が十分に知られているとは言い難いのが現状です。
そこで本連載では、公設試という「組織」の中にある「人・強み」にフォーカスします。具体的には、スタートアップ企業への支援に取り組む多種多様な研究者の姿を通して、「顔の見える関係」を広げていくことで、これまで公設試と接点が少なかった方々への認知拡大と、活用促進を目指します。
第1回は、バイオものづくり分野のスタートアップ・マイクロバイオファクトリー株式会社と、大阪産業技術研究所 森之宮センター(以下、大阪産技研)の共同研究事例をご紹介します。
1.企業紹介(マイクロバイオファクトリー株式会社)
マイクロバイオファクトリー株式会社は、微生物の力を活用し、再生可能資源から化学品を生み出す「バイオものづくり」に取り組んでおり、大阪産技研のベース特許等の技術をフル活用して事業を展開しています。複数の化合物を対象に、技術的な実現可能性と市場性の両面を見据えながら、並行して開発を進めています。
まず、清水社長について教えてください。
(清水さん)
東京理科大学の大学院を修了して、一旦、バイオ分野とは関連のない会社に就職しました。その後、バイオ関連のベンチャー企業であるGreen Earth Institute株式会社に転職し、発酵などに関する研究開発や事業開発に携わりました。
その在職時に、大阪産技研がBioJapan※1でポスター発表されているのを見て、「これだったら自分でやっていきたい」と思い、同所との連携を経て、2018年に独立・起業しました。
現在の本社はコワーキングスペースですが、大阪産技研の創業支援研究室にも入居し、その技術を活用させていただきながら、ヒドロキシチロソール※2、インジゴ染料※3、ムコン酸※4といった化合物の事業化に、一緒に取り組んでいます。
※1:1986年より開催されているバイオテクノロジーの展示会
※2:オリーブの実や葉に含まれる抗酸化物質。微生物発酵生産により、同物質を化粧品原料や接着剤原料として利用する技術開発を進めている
※3:主にデニムなどのアパレル製品に使われる染料。同社は化学合成ではなく、微生物発酵で糖から生産することに成功
※4:有機化合物の一種。異性体のcis,cis-ムコン酸は化学変換することでナイロンやポリエステルなどの汎用樹脂原料になる
最初の会社からバイオベンチャーに移られた理由は何だったのでしょうか。
(清水さん)
最初の会社では、バイオ分野と関係のない仕事をしていたのですが、やっぱりバイオ分野の方に興味がありました。大学では医療系の研究室で細胞に関する研究をしていたこともあり、「できれば生物系の仕事をしたい」と思っていました。ちょうどそのときバイオ燃料などが注目されていた時期だったので、可能性を感じていました。
また大学院の時に、起業やベンチャーに関する授業を受ける機会があり、その中でマーケティングなども学んで、面白かったんです。その時の意識が起業にもつながり、市場性の見極めによるターゲット物質の選定や、新商品開発など、現在にも活かされていると思います。前述の事業化を目指す化合物も、まずは技術的に作れそうな物質と、市場がありそうな物質をマッチングして選んだ結果、今の3つになったという感じです。実験で試行錯誤したというより、まずマーケット調査をして、「これだったらいけそう」と思ったものを選んでいます。
現在、特に力を入れている製品は何でしょうか。
(清水さん)
いま力を入れているのはインジゴ染料です。お客さんにとってその付加価値が分かりやすい点が注力する理由の一つです。化学品として売るだけではなく、例えばTシャツを染めて売るなど、いろいろなビジネスモデルが考えられます。
バイオものづくりは、一般的には何百トン、何千トンというタンクで製造しないとビジネスとして成り立ちにくい中で、インジゴ染料であれば、少量製造でも最終製品に近い形で価値を伝えられる可能性があります。今あるラボの装置でも、「作って売る」までをやろうと思えばできる。スモールスケールでも何かしらビジネス化できる可能性があると考えています。
御社では「バイオテクノロジーで第五次産業革命を起こす」というミッションを掲げています。今、目指している姿を教えてください。
(清水さん)
今の時点では、バイオテクノロジーを駆使して、石油ではなく、再生可能資源からものづくりを推進していく、というところを広げていきたいと思っています。
ただ、最初のターゲットとするべき市場を何にするか、どこにチャンスがあるかは、今も悩みながら進めています。まずマーケット調査をして市場性を見極めたうえで、いくつかの市場への進出を同時に追求して、その中のどこか一つでも当たれば、そこに注力することができます。そして将来的に会社の規模が大きくなり、人が増えれば、その分パイプラインも増やしていけます。そうなれば、会社全体として、バイオものづくりや第五次産業革命に、もっと貢献できるかなと思います。
2.研究者紹介(駒大輔さん)
駒大輔さんは、大阪産業技術研究所 環境技術研究部 環境材料・生物工学研究室の研究室長です。微生物を利用した発酵プロセスによる芳香族化合物※5の生産を主な研究テーマとし、その成果は、今回の共同研究の肝となる特許の取得にも繋がっています。
※5:構造の中にベンゼン環等を含む有機化合物の総称。

駒さんの研究内容と経歴を教えてください。
(駒さん)
現在担当している研究テーマは複数ありますが、メインは微生物を用いて芳香族化合物を発酵生産する、いわゆるバイオものづくりの一種です。私が研究室に着任したのは2006年で、バイオものづくりに関する研究は2007年から始めたので、現在で19年ぐらい担当していることになります。
大学を出て大学院で博士号を取り、最初にNITE(製品評価技術基盤機構)に就職しました。NITEのバイオテクノロジーセンターが千葉県の木更津にあり、そこで3年間働いた後、大阪産技研に転職したという流れです。
大学時代はどのような研究をされていましたか。
(駒さん)
大学の時は微生物を活用した石油の分解や、バイオレメディエーション※6のようなことを研究していました。千葉のバイオテクノロジーセンターでの勤務時から、酵素を使った物質生産に関する業務を始めました。
その後、大阪産技研では、新しい研究テーマを自分で考えることになりました。その時にちょうど「バイオリファイナリー※7」という言葉が流行っていたんです。当時はエタノール生産や乳酸発酵が注目されていましたが、それらの研究はすでに市場にあふれていたため、後発で研究に参入する価値は低いと思っていました。そんな時に、当時の上司から助言をもらい、芳香族をテーマに研究を始めました。
※6:微生物を利用して汚染した土壌等の浄化を行う技術
※7:植物が光合成によって作るバイオマス(植物、農産物、副産物、廃棄物など)を原料に化学品や燃料などを製造する技術。石油活用技術(オイルリファイナリー)に対する用語
研究員自身がテーマを立ち上げるのですね。
(駒さん)
少し特殊かもしれませんが、大阪産技研では、研究員が自分でテーマを立ち上げて、お客さん(支援先の企業)を見つけてくる、という流れで動いています。展示会などで、立ち上げたテーマに関するシーズを出展して、企業が興味を持つかを見る。清水さんとも展示会をきっかけに出会いました。
このような営業活動には失敗例もあります。過去、発酵生産に関する特許を取った時、とある企業さんに菌株の製造に関する相談を持ちかけた際に、「当社で作った菌株が、当社にとって一番いい菌株なんです。」と言われました。つまり、こちらが「いい菌株を作りました」と言っても受け入れられず、プロセス全体を見て開発する必要性について、その時によく分かりました。この経験を経て、単に菌株がいい、というだけじゃなくて、それがどういう製造プロセスに合うのか、そういうところまで考えるようになりました。そこは大きな学びでしたね。
ちなみにその会社からは、「うちでは使えないけど、良い菌株ですね」と言ってもらえました。また菌株の作製方法について話したら、「当社ではそれがデフォルトのやり方です」って教えてくれました。菌株の製造研究に関しての自信につながりましたね。
駒さんから見て、大阪産技研の特色や強みはどこにありますか。
(駒さん)
大阪は、京都や神戸ほどには、地酒などバイオの地場産業が強いわけではないと思うんです。でも、うちのいいところは、何でも引き受けるところかなと思っています。相談を受けること自体が大きな仕事の柱の一つで、年間延べ2万件ぐらい受けていると思います。それを無償で行い、その中で企業さんと、どう進めましょうかというのを決めていきます。
技術相談窓口の担当が各研究員の研究内容をある程度把握していて、適切な研究者に繋ぐ仕組みになっています。相談内容とぴったり合致する研究者がいない場合でも、なるべく受ける方向で考えます。できるかどうかわからなくても、話を進めて、やっていく。その意味で、うちは融通が利く方かなと思っています。他の公設試で断られた案件も、よくまわってきますよ。
スタートアップでいうと、清水さんのところ以外にも、もう1社と取り組んでいます。おそらく公設試は、ちゃんと相談すれば大体相談を受けてくれるのですが、そこまで活用実績が多くない理由としては、スタートアップの方たちの側が、そもそも大阪産技研のような公設試の存在を知らないケースが多いように思います。
3.清水さん、駒さんに聞きました
今回の大阪産技研との共同研究は、単に連携と言う以上に、かなり一体的に進めている印象を受けます。実際どのように進めているのか、清水さんは次のように語ってくれました。
(清水さん)
公設試内の研究室に入居していることもあり、一緒になって研究を進めているような感じです。日々ディスカッションして、お互いのデータを開示しながら、何が原因かを考えています。また、駒さんなど研究員との役割分担はその時々で変わります。遺伝子組換えのところをお願いしたり、うちで培養試験をしたり。月1回ぐらい打ち合わせをして、「これは駒さんがやった方が早い」となればお願いするし、忙しければうちでやる。それくらい一体的に進めている感じです。
公設試と連携する際のポイントは何でしょうか。
(清水さん)
公設試の設備がないと難しいところも多々あります。培養の実験室をゼロから借りようとすると、設備だけで1000万円以上必要になると思います。微生物を扱うので、必要な設備の水準も高いですが、水準を満たす設備がそろう公設試を活用すれば、多額の設備投資をしなくても安価に研究を進められるというのが、一番大きなメリットですね。また、受託研究期間を柔軟に設定することができる点や、研究員には守秘義務があることなど、共同研究を始めるうえでのハードルやコストが低いところも魅力です。
民間企業が公設試と連携する際のポイントとしては、やっぱり「一緒にやる」ことだと思います。単純にお願いするだけになったり、丸投げにしたりせず、一緒に開発する姿勢が重要です。自分たちからも情報提供して、「今こんな成果が出ています」と共有しながらやっていくといいと思います。
清水さんから見て、大阪産技研の技術のどこが魅力的だったのでしょうか。
(清水さん)
自分のやりたいこと、興味のある技術と、大阪産技研の保有する設備や研究テーマが一致したところですね。BioJapanで見た大阪産技研のポスター発表のテーマは、「糖からいろんな芳香族化合物を発酵生産できます」というものだったと思います。それを見て、「これ、自分がやりたいことに近いな」と思いました。単に試験をお願いするだけではなく、一緒にやりたいと思える相手を見つけられたことは、大きかったです。
駒さんから見て、スタートアップと公設試が連携することの特徴や意義は、なんだと思われますか。
(駒さん)
スタートアップの方と仕事をしていると、結果に対する強い責任感を感じます。大企業との共同研究では、成果が出なかった場合でも失敗をある程度吸収できると思いますが、スタートアップの場合はそうはいきません。非常に強いプレッシャーの中で事業に取り組まれている印象があります。
もちろん、スタートアップ以外との共同研究と、対応が変わることはありませんが、自然と「ちょっと頑張らなあかんな」という気持ちになります。一蓮托生とまでは言わないですけど、普段よりもギアが一段上がるような気持ちになりますね。
清水さんたちとの取り組みは、駒さんご自身にも影響がありましたか。
(駒さん)
関わった他の研究員も含め、大きく影響を受けています。もともと研究員は、研究が好きで、研究さえやっていればいい、みたいな面もあります。でも、清水さんたちと共同研究していると、「会社の使命」として社会実装があるので、こちらも連携した技術を実装化するために頑張らないと、という意識がより高まります。
昔は、論文を書く意識が強かったのですが、今は特許取得や、その先の実装をかなり考えるようになりました。
4.取材を終えて
今回の取材で印象的だったのは、マイクロバイオファクトリー株式会社と大阪産技研の関係が、単なる「企業と支援機関」にとどまっていないことです。清水さんは大阪産技研のポスター発表に出会い、同所との連携をきっかけに起業に踏み出しました。現在も、複数の化合物の事業化に向けて、同研究所の技術、設備、人材を活用しながら研究開発を進めています。
一方の駒さんも、清水さんたちとの共同研究を通じ、研究成果をいかに社会実装するかという意識を強めてきました。論文や特許にとどまらず、その先にある実装まで考える。そこには、スタートアップと向き合う公設試研究者ならではの姿勢を感じます。
公設試は、試験や分析を依頼する場所として見られがちです。しかし今回の事例から見えてくるのは、設備、人材、技術相談、共同研究、そして研究者による伴走という、スタートアップにとって重要な機能を複合的に持つ存在です。「丸投げにしない」「データを共有する」「一緒に考える」。清水さんの言葉は、公設試との連携を進めるうえで大切な姿勢を示しています。そして、駒さんの「こちらも頑張らなあかんな」という言葉からは、スタートアップの使命感に応えようとする公設試研究者の思いが伝わってきます。
微生物発酵で、石油資源に依存しないものづくりへ。
両者が目指す未来に向けて行われた今回の連携は、スタートアップと公設試が互いの強みを持ち寄り、社会実装へ向けて歩む、一つのモデルケースといえるのではないでしょうか。
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- 近畿経済産業局 公式note