地方への新たな人の流れを創出する「二地域居住」とは

(※本記事は国土交通省が運営するウェブマガジン「Grasp」に2025年1月14日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

2024年5月に公布され、同年11月1日に施行となった「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」。都市部と地方部など、異なる複数の地域に生活拠点を設け、拠点間を行き来しながら暮らすライフスタイル・二地域居住等の促進のためにつくられた法律です。二地域居住とはどのようなものなのか?現在抱える課題や今後の展望について、国土政策局地方政策課の深堀貴良さんに聞きました。

国土政策局地方政策課 深堀さん

ーー今回のテーマ「二地域居住」は深堀さんの所属する国土政策局地方政策課の管轄と聞いています。そもそもこちらの部署はどのような役割を担っていますか?

主に「二地域居住等の促進」「広域の官民連携戦略の推進」「災害の発生地域等への防災・減災対策を推進するための予算配分」などを担当している部署です。他にも年に1度行われる「地域づくり表彰(※)」に関する業務など、地方政策に関する幅広い領域をカバーしています。

中でも大きなウェイトを占めるのが、2024年11月1日に改正・施行された「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」に基づく取組を含む「二地域居住等の促進」に関する業務です。「二地域居住等の促進」を全国の自治体の活動にどのように落とし込んでいくかを考え、施策やイベントなどを立案~実行したり、自治体に対するアドバイスを行ったりしています。

※創意工夫を活かした優れた自主的活動等を基本とする地域づくりを通して、地域の活性化に顕著な功績のあった優良事例を表彰し広報する表彰事業。国土交通大臣賞などがある。

ーー二地域居住とは、具体的にどのような暮らし方を指す言葉なのでしょうか。

自宅などの主な生活拠点の他に、別の地域にも生活拠点(ホテル等を含む)を設け、二地域以上の地域を行き来しながら暮らすライフスタイルのことです。

具体的には「地方で暮らしながら子育てを行い、仕事はリモートを中心にしつつ、時には都市部のオフィスに出社する」「普段は都市部で暮らしているが、年に数回の長期休暇は地方の拠点で過ごす」「普段は都市部で暮らしているが、会社を経営していて、各地の事業拠点を行き来しながら生活をしている」といった事例が挙げられます。

二地域居住は、現時点では法律上、「当該地域外に住所を有する者が定期的な滞在のため当該地域内に居所を定めること」と定義されています(法律上は「特定居住」)が、必ずしも明確な定義があるわけではありません。そのため、都市部と地方部だけではなく、同一の都市内・地方内で複数拠点を設けるといったパターンの二地域居住もあります。複数の地域を行き来しながら、ある程度、それぞれの地域の産業やコミュニティなどに関わりを持っている状態=二地域居住をしている状態、ということになるのではないかと思います。

二地域居住のイメージ
二地域居住のイメージ

ーー二地域居住の意義やメリットとはなんでしょうか。

二地域居住をする人にとって、このライフスタイルはいわば人生を2倍楽しむ豊かな暮らし方であるとも言えます。異なる地域で異なるコミュニティに参画し、多様な価値観に触れ、多くの人と交流しながら、2倍、3倍の経験を重ねていくことができる。それこそが二地域居住のメリットと言えるでしょう。

社会的な意義としては、人の流れを生むとともに、東京一極集中の是正はもちろん、地域活性化、地方創生、関係人口の拡大につながることなどが挙げられます。ゆくゆくは移住につながるケースも出てくると思いますが、限られた人口をシェアして、個々人が持つスキルや知見を複数の場所で活かすことができるのは、二地域居住ならではの意義ではないでしょうか。

ーー「人口をシェアする」というのは面白い考え方ですね。

現実的に日本の人口は減少し続けていますから、複数の地域で人口をシェアすることで地域活性化につなげようという発想です。日本の少子高齢化が加速し、人口が減少していく中で、限られた人口の取り合いになりづらいのが二地域居住です。

便宜上、二地域居住と言っていますが、もちろん3地域、4地域、あるいはそれ以上の地域で暮らす多地域居住についても視野に入れています。

国土政策局地方政策課 深堀さん

ーー2024年11月1日に「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」が施行されました。その背景について教えてください。

近年、コロナ禍を経て、リモートを取り入れた新しい働き方が広まり、UIJターンを含めた若者・子育て世帯を中心とする二地域居住へのニーズが高まってきました。

ただ、その促進にあたっては「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」などに関する様々な課題が存在しています。それらの課題を解決に導きながら、二地域居住の促進を通して地方への人の流れの創出・拡大を図るためにつくられたのがこの改正法です。

想定される課題の例

ーー法律の具体的な内容はどのようなものなのでしょうか。

内容としては大きく3つのポイントがあります。

第1のポイントは「二地域居住促進のための市町村計画制度の創設」です。改正前は、都道府県による広域インフラの整備等に対する支援措置を講ずることに主眼が置かれていました。ですが、改正後は市町村がプレイヤーに加わることになりました。具体的には市町村自ら二地域居住の促進に関する計画を作成し、計画に記載した事業の実施等について、法律上の特例措置を受けることができるようになりました。

2つ目は、二地域居住者に「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」を提供する活動に取り組む法人の指定制度が創設されたことです。市町村長が二地域居住促進に関する活動を行うNPO法人や民間企業(不動産会社)などを二地域居住等支援法人として指定し、そういった支援法人の方々と協同して、あるいは支援法人自ら二地域居住を考えている方への情報提供やサポートなどを行うことができるようになりました。

3つ目は、二地域居住促進のための協議会制度が創設されたことです。市町村は、当該市町村、都道府県、二地域居住等支援法人、地域住民、民間事業者等を構成員とする協議会を組織し、特定居住促進計画の作成等に関し必要な協議を行うことができるようになりました。二地域居住を取り巻くステークホルダーが意見を交わし合う場が生まれたというわけです。

ーーこの法律により、「二地域居住」の概念が初めて法的に位置づけられたそうですね。

はい。これまでにも実質的に二地域での居住を意味する言葉が他法令に取り入れられていたことはありましたが、法律においては初めて、その概念が定義されることになりました。法律で概念が定義されるということは、非常に大きな意味を持ちます。例えば我々国土交通省は、官民連携プラットフォームの立ち上げなどこれまでになかった施策を進められるようになりました。また、国会審議を経て、メディアをはじめとする世間の注目度も上がった印象があります。まさに「二地域居住」促進のスタートを切ったところです。

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