中小企業の生きた声を政策に反映 経産省若手有志ビジョンチームの挑戦と官民連携の深化
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年8月28日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
【ビジョンチーム(若手有志チーム)】に聞く、有志活動に取り組む理由、活動を通じて目指す社会とは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、若手有志「ビジョンチーム」の活動に注目。チームを代表して、東條 有紗さん、猪股 裕さんに、活動内容やこれまでの成果、取り組みを通じて感じたことなどを聞きました。
企業と「壁がなく持続的なつながり」を築くことの重要性
――― まずは、お二人が日々担当されている業務(本務)について教えてください。
東條 私は資源エネルギー庁の戦略企画室で、エネルギー戦略の検討などに携わっています。昨年2月に策定した、エネルギー政策の基本的な方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」に記載された政策をどのように具体化し、実行していくか、政策を担当する各部署と連携しながら、着実に進めていけるよう全体的な調整をしています。また、これらの政策をデータで支えていくため、エネルギー関連統計の改善などにも携わっています。
猪股 私は、大臣官房業務改革課で、生成AIの活用推進を担当しています。業務改革課では、省内の業務改革・DX・AXを主導し、職員の効率的・効果的な働き方の実現を目指しています。具体的には、昨年度のMicrosoftCopilotの導入など、生成AIの活用を中心に、高度なAIエージェントの開発・展開を通じて、生成AIを活用しやすい環境の整備や好事例の横展開を進めています。
――― 本務以外にも、有志チームで活動しているということですが、どのような活動ですか?
東條 若手職員4人の有志で、「ビジョンチーム」として活動しています。全員それぞれ担当業務を持っていますが、所属部署の上司の許可を得たうえで、本務をしっかり遂行しながら、その合間をぬって活動しています。活動内容は主に中小企業の経営者の方々との意見交換を通して、「壁がなく持続的なつながり」を築き、現場の声を踏まえた政策づくりができるようにすることです。政策は、課題を抱えながらも支援や対応が十分に届いていないところにこそ打っていくべきものですが、本務として企業の方と意見交換をする場合、アジェンダが偏ってしまったり、担当者の異動で繋がりが途切れてしまったりと、本音で困りごとを相談することがなかなか難しい面もあります。官民が手を取り合って共に政策をつくっていくため、1度きりで終わらない持続的な関係、壁がなく双方から気軽に相談し合えるようなネットワークを作っています。
私がチームに参加してから5年ほど経ちますが、直属の部署とは異なる立場の省内外の先輩など、ビジョンチームを応援してくださる方々にもサポートいただきながら、想いをもった若手職員が中小企業政策の担当部署を離れても活動を続け、これまで中小企業など73社と意見交換をしてきました。一度意見交換した経営者の方にお知り合いをご紹介いただいたり、休日にオープンファクトリーや企業が集まる展示会などに足を運んだりしながら、訪問先を拡大しています。取り組みを通じて得た、現場の生の声を踏まえた政策立案を目指しています。
――― 1度きりで終わらない、持続的なネットワーク作りを目指しているのですね。
東條 はい。一番多い方だと、10回ぐらいはお会いしていると思います。1度きりの意見交換で終わらせないように、お会いした企業の皆さまには、毎月、補助金情報など活用いただけそうな政策を選んでお届けしています。また、対面で複数回会うことが重要だと考えており、これまでに繋がった企業の方々やビジョンチームのメンバー、中小企業庁の職員などが集まり、共通のテーマについて議論する「ポリシー×コネクトサミット」という場を昨年立ち上げました。今後も1年に1度は開催したいと思っています。企業と行政だけでなく、私たちが出会った素晴らしい企業同士がつながれるような場にもできたらと考えています。
企業と行政だけでなく、企業同士が業種を超えてつながり、議論する場づくり
――― ビジョンチームの活動に参加したきっかけは?
猪股 きっかけは、入省当日に東條さんから声をかけていただいたことでした。私は前職で信用金庫に勤めた後、経験者採用の枠で経済産業省に入省しました。信用金庫時代も中小企業を訪問する機会が多く、経営者と直接対話することの重要性を強く感じていました。決算書などのデータではつかみきれない現場の実情や、経営者が大切にされている考えなど、直接お話ししたり現場を訪ねたりすることで初めて見えてくることが数多くあります。
前職での支援は資金面が中心で、どうしても金融の話が会話の中心になりがちでした。一方、ビジョンチームでは、その会社の成り立ちや、先代から引き継がれてきた思い、経営者のビジョンなど通常の業務で行う意見交換では聞くことのできないお話を伺うことができます。こうした機会は非常に貴重であり、そこで得た気づきを政策づくりに生かしたいと考え、活動に参加しました。
東條 私は、経済産業省に入省して先輩から声をかけていただいたことがきっかけです。当時は、コロナ禍の中小企業に対する支援策を検討する部署にいて、一刻も早く補助金などの政策をお届けするのがミッションでした。中小企業政策を迅速に進めることはもちろん大事ですが、長い目で見た時に本当に現場のニーズに合った政策になっているのか、現場にきちんと届いているのかを自分の目で確認することも重要だと考えていたため、参加を決めました。
もう一つの理由として、私は新卒で経済産業省に入っているので民間企業で働いたことがありません。私たちが政策の対象としている方々がどういう考えで決断し行動するのか、政策を使ってみようと思うのかなど現場感を知っておくべきだと考えたためです。
――― 有志チームの活動の中で印象に残っているエピソードを教えてください。
猪股 昨年、プレス加工業を営む企業を訪問した際のことです。「うちの業界では、新しい技術革新につながる投資でない限り、なかなか設備更新には踏み切れない。壊れるまで使い続けることも多い」というお話を伺いました。成長のために設備投資をしたいとおっしゃる経営者が多い中で、大変印象に残るお話でした。設備投資ありきで考えるのではなく、その企業がどのような思いで事業に取り組まれ、業界の商慣習の中でどのような投資が本当に必要とされているのかを丁寧に伺うことが重要だと、視野が広がるきっかけとなりました。
もう一つ印象に残っているのが、昨年開催した「ポリシー×コネクトサミット」です。出発点は、これまでの活動を通じてご縁のあった経営者の皆さまに、改めて対話の場をご用意することでした。結果として、参加された皆さまが互いに理解を深め合う場にもなりました。
前職の信用金庫では、同じ業種の経営者をご紹介することはありましたが、今回お集まりいただいた9社は業種もさまざまで、普段であれば接点の生まれにくい方々でした。業種の枠を超えて、それぞれが抱える課題や問題意識を率直に語り合えるなど、こうした対話の場をつくれたことは、ビジョンチームだからこその意義だと感じています。
中小企業の生声を政策に反映することを目指して
東條 私がこの活動をやってきてよかったと一番思うのは、私たちが聞いてきた生の声を政策に生かせた時です。以前、ファイナンスを担当する部署にいた際、中堅企業という新しい定義が作られ中堅企業に向けた政策が検討されていました。当時私が担当していた補助金は、中堅企業と中小企業の両方を対象にしていましたが、本務の部署には中堅企業としかつながりがありませんでした。そこで、ビジョンチームでつながった中小企業に意見を聞くことにし、中堅企業・中小企業両方のニーズを踏まえて、要件や審査基準を変更することができました。
また、地域ごとにプラットフォームを作り、地域の金融機関や大学などが連携して中堅・中核企業を支援する政策では、ビジョンチームで聞いた「メインバンク以外から資金調達をする機会が得られない」という中小企業の声を踏まえ、日本政策投資銀行などの政府系金融機関にも加わってもらえるように工夫し、企業が多様な金融機関に相談しやすい体制を整えました。これまでにつながってきた経営者の方に「皆さんのおかげでこういう政策ができました」とご報告すると、感謝の言葉をいただけてとても嬉しかったです。
――― ビジョンチームでの活動と本務を掛け合わせることで政策実現につながったのですね。
東條 はい。ビジョンチームで築いてきたネットワークは、社会情勢の変化や突発的な事象が発生した際の迅速な状況把握にも役立っています。例えば、米国関税が発動された直後に、中堅企業や中小企業にどのような影響が出ているのか確認する際にも、ビジョンチームでつながりのある企業や金融機関から状況をお聞きして、即座に影響を把握することができました。
中東情勢の変化を踏まえた影響については、経営者の方が自ら価格への影響などの情報を提供してくれました。また、私たちからも、経産省が開設した情報提供サイトをご案内し、その拡散にもご協力いただけたことで、多くの声を集約することもできました。5年にわたって活動を継続してきたからこそ、メンバーの本務とかけ合わせたり、担当部署につないだりしながら政策に生かせるようになってきたと思いますし、省内外で興味をもち、私たちの活動に共感し協力してくれる方が増えてきたと感じます。
――― 猪股さんは、有志チームでの活動が本務に生きたと感じることがありますか。
猪股 省内外のネットワークが広がったことが大きいと思います。私は経験者採用で入省したため、当初は省内のつながりが限られていましたが、ビジョンチームの活動を通じてさまざまな部署の方と連携する中で、省内の人脈も広がりました。さらに、本務では生成AIの活用促進を担当していますが、民間企業の現場で、AIが実際にどのように導入・活用されているのかを気軽に伺えるネットワークができたことも、貴重な財産です。
施策を進める上では、得られた情報が実態に即したものかどうかを見極めることが欠かせませんが、ビジョンチームの活動は、こうした現場の状況把握の面でも大きな力になっていると感じます。
まずは、100社と意見交換し、ネットワーク構築へ!
――― 最後に、今後の有志チームの活動の展望、意気込みを教えてください。
猪股 これまで73社と意見交換を行ってきましたが、まずは100社との意見交換を目標に、ネットワークをさらに広げていきたいと考えています。現場の声を政策に生かす取り組みについては、まだ道半ばですので、一つひとつ実績を積み重ねていきたいです。
また、省内でも、意見交換への参加や情報提供に協力してくださる方が増えています。ビジョンチームの活動をより多くの職員に知っていただき、活動に共感し、連携して取り組める仲間を増やしていきたいです。私自身も、今後、本務で中小企業政策に関わる機会があれば、意見交換で伺った現場の声や、ビジョンチームで得た経験を政策に生かしていきたいと考えています。
東條 中小企業庁の担当部署との連携も行いながら、実際に現場の生の声を政策に生かせた事例も少しずつ増えてきていますが、より多くの部署や経済産業局などとも連携しつつ、経産省全体で企業の生の声を生かした政策づくりに少しでも貢献していきたいです。これまでの意見交換で、経営者の方の困りごとや考え方だけではなく印象的な言葉なども蓄積されてきています。100社との意見交換という区切りのタイミングで、見えてきたことを改めて整理し、ビジョンチーム発の成果物として発信できたらと思っています。今後も一緒に取り組んでくれる仲間や応援いただける方々を増やしながら、着実に実績を積み上げていき、このチームがあってよかったと多くの方に思っていただけるよう、これからも取り組みを続けていきたいと考えています!
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