ものづくり日本大賞優秀賞 製造現場で独自AIとロボットによるダイカスト外観検査の自動化を実現
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年7月10日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ものづくり日本大賞とは
「ものづくり日本大賞」は、我が国の産業・文化の発展を支えてきたものづくりを次代へ継承し、さらに発展させていくことを目的に、ものづくりの第一線で活躍する優れた人材やグループを顕彰する内閣総理大臣表彰です。製造・生産現場の中核を担う人材、伝統的・文化的な技を支える熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりに携わる各世代の中から、特に優秀と認められる取組が表彰されます。
本特集では、第10回ものづくり日本大賞で受賞したメンバーにお話を伺いながら、取組の背景や開発の歩み、今後の展開について紹介します。
今回は、第10回ものづくり日本大賞において、「ロボットと独自AIで、ダイカストに対応する外観検査自動化の実現」により優秀賞を受賞した株式会社HACARUSの取組について、取締役CPO 大西理王さん、開発本部 テックリード木村優さんにお話を伺いました。
受賞概要
案件名:ロボットと独自AIで、ダイカストに対応する外観検査自動化の実現
受賞者名:株式会社HACARUS 大西理王さん、吉田光志さん、
木村優さん、山口貴志さん、奥村めぐみさん
株式会社HACARUSは、独自のAI技術を活用し、製造業などの現場課題に対してソリューションを提供してきました。まず、同社の今回の受賞案件に取り組むに至った経緯についてお伺いしました。
「自動化したいができない」検査工程に向き合う
製造業における「外観検査」は、製品や部品の見た目に異常がないかを確認し、品質を守るために欠かせない工程です。
例えば、切削後の部品にバリや傷がないか、組み立てた製品に部品の欠品や取り付け間違いがないか、塗装・表面処理後に色むらや異物付着がないか、出荷前の箱にラベルの貼り付けミスがないかなど、外観検査が行われる場面は多岐にわたります。
一方で、外観検査は人の目や経験に頼る部分が大きく、長年、自動化が難しい領域とされてきました。特に、今回受賞した案件のテーマである「ダイカスト製品」は、形状や表面状態にばらつきが生じやすく、単純なルールだけで良否を切り分けることが難しいため、既存技術では対応しきれない検査課題が残されていました。
そのような現状に対し、大西さんたちは次のように振り返ります。
「一般的な外観検査であれば既存のソリューションで対応できるケースも多い一方で、ダイカスト製品は既存のソリューションでは解決しづらい領域でした。そうした難易度の高い領域・他社が対象としていない領域にこそ、私たちの独自のAI技術を活かしたいと考えました」
このように自社技術を活かすターゲットを絞ったのが、今回の受賞案件のスタートでした。
ダイカスト製品とは
ダイカスト製品とは、溶かした金属を金型に流し込み、冷やして固めることで作られる製品です。短い時間で同じ形の部品をたくさん作ることができ、寸法も安定しやすいため、自動車部品や家電製品、建築金物、日用品など、身近な製品にも広く使われています。
「良品」を学び、未知の不良を見つけるAI
では、この自社技術にはどういった強みがあるのでしょうか。
特徴的なのは、「良品学習」という学習スタンスです。
一般的なAIでは、不良品のデータを大量に集めて学習する方法が取られることがありますが、製造現場では、すべての不良パターンを事前にそろえることは容易ではありません。
これに対し、HACARUSのAIは、良品の状態を基準として学習し、そこから外れたものを異常として検出します。正常な状態を理解することで、未知の不良にも対応しやすくなる点が大きな強みといえます。
大西さんは、「不良品を大量に集めてから始めるのではなく、良品からと学習し、そこから外れたものを見つけるという考え方です。製造現場では、起こり得る不良をすべて事前に集めることは難しいので、良品学習は現場に合ったアプローチだと考えています。」と説明します。
さらに、製造現場では材料、設備、環境条件が日々少しずつ変化します。同社は直近の良品データを活用しながら、軽量かつ高速に再学習を行うことで、こうした変化に追従する仕組みも備えています。
実際に現場に導入されて
さて、ベンチャー企業や中小企業において「1件目の案件を作り出すこと」は大変難しいこととされています。本件については、同社のHPを見て、悩みをもつ企業からの声かけがあり、導入に至る、という経緯がありました。それは、先に大西さんがお話したように、「他社が対象としていない領域」=「ダイカスト」に目をつけたからこそ、生まれたきっかけであったように感じられます。
1社目の導入後、簡易的な検証から始まり、撮像条件や判定結果を確認しながら改良を重ねます。そういったトライアンドエラーを通じて実運用に近づけていきました。
大西さんは、当時の様子を思い出しながら、「導入の際には、AI単体のソフトウェアではなく、外部メーカーのカメラやロボットなどの機器を組み合わせ、統合ソリューションとして現場に導入しました。実際に現場に入ったときは、本当にできるのかという気持ちになりました。ただ、そこから利用者の協力もあり、実証実験を重ねて、実装まで繋げました。」と話します。
AIモデルの精度だけでなく、製造現場に入り込み、現実の制約に合わせて調整し続ける実装力が、同社の強みです。
導入によって得られる効果としては、特に検査工程における省人化と品質の安定化が期待されます。従来は複数人で行っていた検査に携わる人員を削減でき、場合によっては、ほぼ自動化に近い状態で運用することも可能になります。また、人による検査では、作業者の経験や体調、作業環境によって見逃しや判定のばらつきが生じるリスクがあるところを、一貫した基準で判定を行うことができるため、品質管理の安定化にも寄与します。
製造現場では、本来、検査という工程そのものをできるだけ減らしたいという考え方もあります。しかし、不良品の流出リスクを考えると、検査を完全に省略することは容易ではありません。
その中で、AIによる外観検査は、人手不足への対応と品質確保を両立する現実的な解決策として評価されています。
ダイカストから広がる適用領域
そして、その適用領域は「ダイカスト」のみならず、更に広がりを見せています。現在は、ゴム製品や食品パッケージなど、形状や表面状態にばらつきがあり、人でも判定が難しい場合がある対象への展開も進んでいます。
これらの対象に共通するのは、単純なルール化が難しく、見た目の差異をどのように評価するかが課題になるという点です。良品であっても個体差があるため、良品の範囲を学習し、そこから外れたものを見つけるという考え方が有効に働きます。
大西さんは、「ダイカストだけに限定しているわけではなく、人でも判断が難しいもの、ばらつきが大きくてルール化しにくいものには、良品学習の考え方を応用できる可能性があります」と話します。良品を基準に異常を検出できることは、多品種少量生産や不良パターンが一定しない現場にとって大きな意味を持ちます。
今後、製造業では、人手不足への対応、品質要求の高度化、工程データの活用がさらに重要になります。HACARUSの取組は、外観検査を単なる確認作業から、品質を支えるデータ活用の入口へと進化させる可能性を持っています。
ものづくり日本大賞の受賞の意義
製造業における検査工程の自動化は、長年の課題です。人手不足が深刻化する中、品質を守りながら現場の負担を抑える技術には大きな社会的意義があります。
大西さんは、受賞について「独自性という点を見ていただけたのだと思います。受賞が発表されたときには祝電も届いたりして・・・本当にすごい賞だったんだと改めて感じました。」と受け止めていました。
人手不足や品質管理の高度化という課題が広がる中で、HACARUSの技術は、製造現場の「自動化したいができない」の壁を乗り越える一つの選択肢となっています。今回の受賞を契機に、同社の技術がさらに多くの現場へ広がることが期待されます。
株式会社HACARUSについて
『未来を造る人に次世代の「はかる」を』というミッションを掲げ、少ないデータで抜本的な問題解決につなげるAIソリューションを提供しています。2014年の設立以来、数多くの企業の課題解決に貢献してきた経験と独自技術を強みに、人の知見を資産化し、オペレーションの効率化・省人化を支援しています。データ取得から既存システムとの連携までを一貫してサポートし、人とAIが共存する未来の実現に取り組んでいます。
導入事例
https://hacarus.com/ja/case-study/asahikosei/
元記事へのリンクはこちら。
- 近畿経済産業局 公式note