燕市 自治体主導で企業連携のDXを推進 賢くつながる工場を実現

経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が推進する「地方版IoT推進ラボ」。新潟県燕市では、2019年10月に経済産業省の認定を受け『燕市IoT推進ラボ』を立ち上げた。金属加工業が盛んな燕市で、自治体が旗振り役となり、ものづくり企業連携DXがスタートしている。

小澤 直義 燕市産業振興部 商工振興課
新産業推進係 係長

市内の企業をクラウドでつなぐ

高度で多様な金属加工技術が集まるものづくりのまち、燕市。スプーンやフォークなどの金属洋食器の国内シェアは約90%で、ノーベル賞の晩餐会や2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村食堂で燕市の製品が採用されるなど、その品質の高さでは世界的評価を得ている。

燕市産業振興部の小澤直義氏は、「製造業の事業所数は市内で約40%を占めています。製造業の半数が金属製品を扱っており、曲げ、溶接、磨きといった各工程を個々の事業者にわたしながら1つの製品を作っていく、分業体制が確立されています」と、同市の状況を説明する。

中小製造業が分業、連携し、クオリティの高い製品を作り上げていくのが燕市のものづくりの強み。一方で、企業間のやり取りは、FAXや電話、紙を使ったアナログな手法に頼っており、人口減少・高齢化が進むなかで、生産性を上げるための効率化や合理化が大きな課題となっている。

こうした課題をデジタルやIoTの力で解決していくべく、2019年10月に経済産業省の認定を受け立ち上げたのが「燕市IoT推進ラボ」。IoTをはじめとした最新技術の動向や活用事例の情報共有、産学官によるネットワークづくり、市内の先進的なプロジェクトを推進し、未来(次世代)に向けた価値を創造するものづくり産地を目指すのが、IoT推進ラボの目的だ。

 

燕版共有クラウドの受注確認画面(下)。地域の中小製造業間の受発注をデジタル化することで、
連携を強化した

燕市の強みである企業間の連携をより効率化し、相互の力を集結するコミュニケーション力を上げるためには、各社が個々でDX化に取り組むだけでは難しい。そこで、「燕市IoT推進ラボ」では、製造業全体のデジタル化を目指し、市内の製造工場をIoTでつなぐ、「燕版共用受発注システム(SFTC:Smart Factory Tsubame Cloud)」の構築を、企業のDX推進を支援する地元IT企業であるウイングの力を借りて、ローコード開発ツールを活用し進めている。

本格運用に向け、準備着々

「燕市IoT推進ラボ」が取り組むのは、企業間受発注の伝票の流れをクラウドとインターネットを使って刷新する、スマートな工場。

例えば、調理器具やアウトドア商品を扱うある企業は、300社との取引があり、取引伝票は1000枚/月にのぼる。注文書作成、印刷、FAX、保管だけで大変な業務量だ。現在、紙で行っているこれらのコミュニケーションをデジタル化するのがSFTC。受発注データを一元管理し、記入ミスや発注後の確認・修正作業を軽減、紙伝票の保管業務もなくす。

自治体が中心となり、企業間連携DXを推進する取り組みは全国でも珍しい。

「燕市はこれまで、デジタルに親しみの薄い土地柄でした。中小製造業のみなさんが、より安心して新たな取り組みに挑戦できるよう、公的機関である市が旗振り役となりました」(小澤氏) 

活動を始めて2021年で3年目。2019年から実際に5社が入り、調整しながら受発注に特化したクラウドシステムの構築を進めており、2022年4月からの本格運用を目指す。本格運用に向け2021年10月に行った説明会には、2日間で100社以上の企業が参加。説明会後のアンケートでは20社近い企業が、「システムを早速入れてみたい」と回答。実際の導入に向け、ウイングを中心に調整を行っているところだという。

デジタル化からAI、IoTの活用へ

SFTCのシステム構築にあたり、ウイングが採用したのが、ローコード開発ツール「GeneXus(ジェネクサス)」。Webアプリケーション、モバイルアプリケーション、ウェアラブルアプリケーションなど、あらゆる種類のアプリケーションが提供可能で、世界で30年以上も愛用され続けている。

ジェネクサス・ジャパン、常務の諸橋隆也氏は「『GeneXus』の良さは、きめの細かさと、今後、企業間のやり取りを受発注に限らず、さらに発展させていくときのツールとしても使い勝手が良く、さまざまな形で貢献できると考えています」と話す。

もともと「燕市IoT推進ラボ」が目指すところはIoTの推進だ。ただ、現状、現場ではIoTの前にデジタル化が必要であり、まずは受発注の部分にメスを入れた。

 「SFTCの今後の構想としては、蓄積されたデータをAIで解析し需要予測に活用したり、IoTの面で言えば機械化されている所から自動的にデータを収集し実績を見える化して業務の流れをよくしていくといったプラットフォームにしていきたいという燕市の要望や企業のDX推進に応えていけるようサポートを行います」と現場でシステム構築のサポートをするウイングの恩田実氏は語る。

今後、用途を広げていくにあたり、スピード感を持ってシステムを修正、改修しリリースしていくという部分でも、ローコード開発が大きな役割を果たす。

自治体や企業のDXを進める上で、デジタル人材の確保、育成は大きな課題。その点、「GeneXus」の場合、多岐にわたる技術を学ばなくても、「GeneXus」自体を扱える技術を身に付ければ、新たなサービスやシステムをある程度柔軟に作っていける。「DX推進による地域活性化に、システム面と人的な面で『GeneXus』が裏方として貢献できればと思います」(諸橋氏)

一方、『燕市IoT推進ラボ』としても、SFTCの幅広い企業への導入へ向け、人材育成は考えていくという。 「導入企業数としては、まずはアンケートで要望のあった20社。その先は100社を目標に掲げています。また、燕市にはOEMで世界的な仕事を受けている企業も多く、将来的には、市内企業だけでなく全国、海外の企業とも繋げていきたいという希望も持っています」(小澤氏)。

アナログからデジタルへ、そして真のDXへ。燕市をあげての企業連携DXの取り組みは、始まったばかりだ。

 

お問い合わせ先


ジェネクサス・ジャパン株式会社
URL:https://www.genexus.jp/
問い合わせURL: https://www.genexus.jp/contact


株式会社ウイング
URL: https://weing.co.jp/
問い合わせURL: https://weing.co.jp/contact/

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