山梨県・アドビ 観光DXの未来 データ活用で観光客体験価値を向上

山梨県は、独自のコロナ対策や高付加価値化と、PRで地域ブランディングと観光産業の活性化を進めている。その山梨県知事と、観光業界でデジタルマーケティングソリューションを展開するアドビが、「『データ×コンテンツ』による新たな観光客体験価値の向上」と題し、トークセッションを実施した。

長崎 幸太郎 山梨県知事

山梨県知事の長崎幸太郎氏は、トークセッションの冒頭で「山梨県の観光の復興と新戦略」について熱く語った。

山梨県の観光客数は、コロナの影響を受けピーク時の50%、インバウンド観光客数はほぼゼロとなった。一方、観光消費額は対前年比35%程度減に留まっており、コロナ以前も観光客の消費額が低かったことを示している。こうした状況を改善するためには、団体旅行などの「薄利多売型」を見直し、「高品質型」へ転換し、収益力を向上させ、観光産業全体の「高付加価値化」を進めていく必要がある。

また山梨県には、富士山やワインなど世界に誇れる地域資源が豊富にあるが、同県のイメージと直結しないという悩みがある。そこで2020年に「やまなし地域プロモーション戦略」を策定し、庁内のプロモーションを司る部署でブランド管理を徹底するようにしている。

品質向上が著しい山梨県産のワイン。長崎知事は2019年、
同県が「ワイン県」であることを宣言している
(写真:山梨県提供)

さらに、コロナ対策については、他県に先がけて進めてきた、県が感染症対策を調査し、お墨付きを与える「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」の付加価値を高めるため、新技術や製品を使い、利用者の快適性や対策への費用対効果を向上させる取り組みを進めている。

ンバウンド誘致においても、キーワードは「高付加価値化」。海外富裕層を意識した「高品質型」への転換、安心安全な滞在環境、利便性の向上を柱とした収益力の向上を目指している。コロナ禍での情報発信はデジタルを活用し、中国向けには、3億人の会員をもつ中国最大手の旅行サイト「Ctrip」を有するTrip.com グループと連携したプロモーションを実施。今後、訪日観光客が増えると予測される中東諸国へのプロモーションも注力し、ハラール食対応などを行ってきた。

長崎氏は「将来を見据えた受入環境の整備も重要で、多言語の観光ホームページのリニューアルや、事業者向けのメニューの多言語化、非接触キャッシュレス決済の促進などにも取り組んできました。また二次交通の環境改善も進めており、ルート検索・予約・支払を一括で行う『やまなし観光 MaaS』を整備し、本県を思う存分、周遊・滞在してもらえるよう取り組んでいきたいです」と展望を述べた。

データとコンテンツの両輪で
観光客体験価値を向上

続いて、やまなし大使でアドビのマーケティング本部バイスプレジデントの秋田夏実氏が「観光産業におけるデジタル技術の活用」について説明した。

秋田 夏実 アドビ マーケティング本部 バイスプレジデント

2022年で設立から40年を迎えるアドビ(アドビジャパンは30周年)は現在、写真や動画の編集をはじめあらゆる表現ができるAdobe Creative Cloud、電子サインなど、文書プロセスのデジタル化で生産性を高めるAdobe Document Cloud、データを活用して個別の顧客体験をリアルタイムで提供するAdobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスを提供している。

「観光業とアドビの関わりは非常に深く、世界の大手ホテルグループ、大手航空会社、大手クルーズラインなどで、デジタルマーケティングの基盤として、アドビのソリューションを導入いただいています」(秋田氏)。

コロナ禍でホテルなどに対し、衛生強化はもちろん、非接触の決済やサービスへの要望が強くなっていることが複数の調査結果から明らかになっている。こうした流れの中では、スマートフォンの活用が重要になってくる。

先進事例として、ロンドンのヒースロー空港では、コロナ前の2013年から同社のサポートにより、ウェブサイトやアプリをはじめ、あらゆる顧客体験最適化を進めており、同空港の小売店舗の売上は、同等規模の空港と比べ約3倍を達成している。

また、旅のプロセスは「タビマエ」「タビナカ」「タビアト」と3つのフェーズに分けられ、コロナ以前は「タビナカ」サービスがとりわけ関心を集めていた。しかしコロナ禍においては「タビマエ」が重要となり、「タビナカ」「タビアト」の旅行者の鮮度の高い情報がより重視されるようになっている。「タビナカ」「タビアト」の旅行者の情報発信をいかに活用し、「タビマエ」の旅行者を惹きつけていくのか。

同社がサポートするオーストラリア政府観光局は、顧客行動データやコンテンツ基盤などを整え、リアルな滞在体験談を1日当たり5000件以上集めるなどして、コンテンツ制作費用や広告費の削減も達成した。

秋田氏は「観光客体験価値の向上にはデータとコンテンツの両輪が不可欠です。中でも情報のハブであるスマホを介した非接触サービスの提供が今後より一層重要になります。そこからデータを収集し、分析結果をもとに利用者ごとに最適なコンテンツを、最適なタイミング、タッチポイント、チャネルで提供することで最高の体験を作れると当社は考えます」と総括した。

仕組みを作り、好循環を生み出す

長崎氏と秋田氏によるトークセッションでは、まず全国的な課題でもある高付加価値化について議論した。長崎氏は「現状は薄利多売の脱却を拒否する例もあり、行政も含めた意識改革から始めることが重要です。そのためには成功モデルを作ることが効率的で、より高い価値を提供するシステムを作り、そこに参加することがメリットになる仕組みをデジタルで作っていきたいと考えています」と力を込める。

これに対し秋田氏は「グリーン・ゾーン認証制度は、富裕層の家族連れなど、外国人旅行者にとって高付加価値になり得るので、どれだけ安心して滞在できるかを訴求していくことが重要です。国内のリモートワーカー向けには、山梨は首都圏へのアクセスが良好なので、衛生面も安心して滞在できることは高付加価値になります。また移動手段の整備も付加価値を高めます」と述べた。

更なる魅力を作り上げるための方針について、長崎氏は「地元、提供者目線ではなく観光客、利用者目線をもっと取り入れていきたいです。外の目から見て魅力的な情報を的確に捉え、来訪者目線で良さを磨き上げていくシステムを作りたいです」と話す。

秋田氏は「一見ではないリピーターを作ることが大切です。旅の感動や興奮を共有してもらい、県などがその発信を取り上げ、発信者を味方にすることでファンを増やし、リピーターになる循環を作れば、その輪は広がっていきます。そのためには体験を集める仕組み作りと同時に、集まった情報、データをもとにコンテンツを充実させていくことが重要です」と提案した。

長崎氏は「さまざまな取り組みを進めていくために、デジタル技術やデータを積極的に導入し、安全・安心で快適な受入環境を十分に整えていきます」と締めくくった。

 

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