山梨県笛吹市×NTT東日本 農業と自治体業務のDX

地域課題解決へ向け、地方自治体のDXへの取り組みが進む。事業構想大学院大学では、「自治体DX会議~笛吹市編~」として、山梨県笛吹市の取り組みに注目。笛吹市長とNTT東日本山梨支店長との対談から、同市で進むDXについて、今後の展開も踏まえて紹介する。

左から横山 明正 NTT東日本 山梨支店長、山下 政樹 山梨県 笛吹市長、渡邊 信彦 事業構想大学院大学 教授

笛吹市は人口約7万人、3万世帯が暮らすまち。山梨県のほぼ中央に位置し、首都圏から約1時間半と交通アクセスの良い地域だ。

桃の盗難が大問題に
主要産業である農業を守れ

果物が豊富で、特に桃・ぶどうは栽培面積、収穫量、出荷量ともに全国一。60軒の観光農園、12軒のワイナリーが点在し、石和・春日居温泉郷などとあわせ、果実温泉郷として発展。春の「桃源郷春まつり」、夏の「笛吹川石和鵜飼」「石和温泉花火大会」、秋の「川中島合戦戦国絵巻」と季節を通して催しがあり、多くの観光客が訪れる。

毎年春に開催している「桃源郷春まつり」

そんな笛吹市では2022年、収穫直前の桃の数千個規模の盗難が相次いだ。

笛吹市の山下政樹市長は「今後、主要産業である農業をいかに守っていくかは重要な課題です。人による巡回パトロールなどとあわせて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用したソリューションで、こうした課題を解決していきたい」と話す。

あわせて、昨今全国的に多発している自然災害などを考慮し、防災面でのDXにも力を入れていく方針だという。

一方の、日本の情報通信インフラを地域密着で支えてきたNTT東日本。現在、さらに一歩踏み込み、「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」として、地域の抱える課題に対する解決策を、行政や地域住民と一緒に考える取り組みを進めている。

農作物盗難に対しては、笛吹市内のぶどう農家と協力し、対策ソリューションの実証実験を行った。同ソリューションでは、不審者を検知すると監視カメラが作動し、その映像を農家のスマートフォンにリアルタイムに通報。農家だけでなく、みまもりセンタなどが連携して映像を確認する共助防犯モデルをめざし、実証実験に取り組んだ。

図1 農作物盗難対策ソリューション〔共助防犯モデル〕イメージ

NTT東日本・山梨支店長の横山明正氏は「盗難対策として有効なソリューションであることが確認できたので、来シーズンの収穫時期に合わせ、関係機関の皆さまと相談しながら実用化に向けて取り組んでいきたい」と話す。

導入・提供型から
共感・伴走型へ

山下市長と横山氏のトークセッションでは、笛吹市の自治体DXの今後について話がはずんだ。

笛吹市では、効率化、省力化をめざした農業のDXを推進している。先述の桃の盗難事件をきっかけに、桃畑への「果樹盗難防止システム」の導入を検討している。

「桃畑は面積が広いので、人によるパトロールだけでは網羅できません。人の目の届かない部分について、センサーなどでカバーできないかと考えています。この冬くらいからシステムの開発を開始し、できるだけ早期に導入できたらと思います」(山下市長)。これに対しNTT東日本の横山氏は、「最終的には全てシステムでとなるかもしれませんが、今の段階ではアナログとデジタルを組み合わせたハイブリッド型のソリューションが有効かと思います」と語った。

一方、自治体DXの推進も大きな課題。笛吹市では現在、AIの議事録作成、ペーパーレスの推進など、様々な角度からDXに取り組んでいる。「DXは、行政改革と表裏一体です。DXが進めば、効率化も必ず進みます」(山下市長)。

このような自治体内部のDXにおいては、実際の業務を熟知している職員自らが業務を可視化し、効率化していく取り組みを草の根的に進めていくことが重要だ。

「DXが注目される背景の1つとして、いわゆるプログラミング知識がなくても、自分たちでツールを開発できる環境が整ったことがあげられます」(NTT東日本・横山氏)。

これまで自治体は、外部から調達したシステムを使いこなす立場だったが、今後は、自分たちに合ったツールを自ら作れる時代になっていく。

「NTT東日本もそうしたツールの開発をご支援します」と横山氏はいう。

デジタルとアナログを組み合わせ、いかに市町村独自のしくみを作り上げていくか。民間企業も自治体のニーズに寄り添うことが必要だ。

「効率化を突き詰め、DXを導入しながら独自のシステムを作り上げていくのが、これからの市町村のあるべき姿です。主要産業だけでなく、あらゆる所にDXの可能性を考えながら、取り組みを進めていきたい」と山下市長は抱負を語った。

横山氏は、「自治体とICT企業は、導入する側と提供する側といった直線的な関係から、共感し伴走して一緒に創り上げていく、というあり方をめざすべきかと思います。今後、NTT東日本社員のDXスキルも活かしながら、地域の皆さんと一緒にDXで地域を豊かにしていければと思います」と話した。

防災や高齢者見守りも
デジタルの力で課題解決

NTT東日本では、防災分野の取り組みにも力を入れている。9月には、山梨県とデータ連携プラットフォーム(都市OS)構築に向けて、連携していくことが決まった。

防災分野のDXの事例として、「シン・オートコール」ソリューションがある。最近は避難情報をSNS等で発信することが多いが、高齢者などスマートフォンを持たない世代に対し、AIによる音声での一斉情報伝達を電話機に行う仕組みだ。災害時に電話を自動的にかけ、避難指示などの情報を一斉に伝達できる。

また、電話機とAIを組み合わせた特殊詐欺対策サービスなども展開。通話内容をリアルタイムでAIが解析し、詐欺と判定した場合は、本人だけでなく親族や関係者にも通報する。今後、希望に応じて笛吹市内の利用者宅に設置、笛吹市でも補助を行い特殊詐欺対策に取り組んでいく予定だ。

山梨県では県内企業へのDX浸透・促進をめざす「山梨DX推進支援コミュニティ」を発足しており、NTT東日本は、地域の経済団体、金融機関、ソリューションベンダーと共に一員に加わっている。

「今後も自治体をはじめ、様々な皆さまと連携しながら、DXで山梨を元気にしていきます」と横山氏はまとめた。

 

お問い合わせ


東日本電信電話株式会社
地方創生推進部公共ビジネス担当
chisou_pub-ml@east.ntt.co.jp

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。