事業構想力を活かして「稼げる観光まちづくり」を目指す

事業構想力を活かして持続可能な観光まちづくりを実現するプロデューサー人材の育成を目指し、「観光まちづくりプロデューサー養成プログラム」が2023年9月、事業構想大学院大学福岡校で開講した。同プログラムの概要と、実施されたフィールドワークの様子を紹介する。

地域で稼ぐ仕組みを発想し、
実践できる人材を育成

わが国では数十年にわたって全国各地で地域活性、地方創生に取り組んでいるものの、なかなか期待以上の成果があげられていない地域も多い。長年にわたって全国各地で「稼げる観光まちづくり」を企画・実践してきたNPO法人自然体験学校の若林伸一理事長は、その要因について、「うまくいっていない地域は、事業構想力が不足していることに加え、持続する上で必要不可欠な、稼ぐ仕組みができていないことに根本原因があるのではないか」と語る。同法人は、沖縄に来る全国の修学旅行生の約10%、年間4万人以上の修学旅行(体験型学習を含む)を受け入れている(コロナ前の実績値)。

そうした「稼げる観光まちづくり」の実践知に基づいて企画されたのが、今回開講された「観光まちづくりプロデューサー養成プログラム」だ。多様なステークホルダーが存在する地域においては、稼ぐ仕組みをアイデア発想し、実現するために地域の関係者をつないで実践するプロデューサー人材が必要だが、同プログラムはそのような人材の育成を目的としている。

同プログラムは、文部科学省「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」に採択され、2023年9月~11月の3カ月間、事業構想大学院大学福岡校で開講されている。募集人数が15名のところ、説明会には300名以上が参加し、書類選考を経て、北海道から沖縄まで全国33名の受講者が合格し、熱心に受講している。

プログラムで基礎を学び、
その後は修士課程に接続

事業構想大学院大学では、2012年の開学以来、社会人を対象に事業構想人材を育成し、600名近い事業構想人材(事業構想修士)を輩出してきた。修了生が取り組む事業構想のテーマのうち3~4割は、広義の観光、まちづくり構想に関連するものだ。

「観光まちづくりプロデューサー養成プログラム」は、NPO法人自然体験学校、信州大学、小樽商科大学との連携のもとに開講されている。同プログラムは事業構想大学院大学修士課程の単位認定プログラムにも指定されており、修士課程の単位(3単位)が付与され、入学後に単位算入が可能となっている。真の意味での観光まちづくりプロデューサーを付け焼刃で育成することは極めて困難だが、同プログラムでその基礎を身につけた後は、引き続き修士課程に進学する道が用意されているのだ(図)。豊富なフィールドを有し、院生の多くが地域活性に関連する事業構想に取り組んでいる福岡校では「観光まちづくり」に特化した科目の開講も予定されており、観光まちづくりプロデューサー養成への道筋が付けられつつある。

図 観光まちづくりプロデューサー人材養成プログラムのスケジュール

出典:事業構想大学院大学

 

福岡県八女市、長崎県西海市で
フィールドワークを実施

同プログラムでは2023年9月24日に福岡県八女市、10月8日~9日に長崎県西海市でフィールドワークが実施された。さらに11月には、沖縄県で3泊4日の合宿が実施される予定だ。

福岡県八女市は古くからの城下町で、福島地区には白壁の町並みが残り、仏壇や提灯などの地場産業が息づく。また、八女茶の産地としても有名だ。同市では八女商工会議所が中心となり、2017年より古民家を生かした観光まちづくりに取り組んできた。フィールドワークでは、受講生たちは古民家を改装した宿泊施設やレストラン、雑貨店などを訪れ、次に八女商工会議所で萩尾猛専務理事より、福島地区の観光ブランド化の軌跡を聞いた。また、同プログラム主任講師の若林宗男事業構想大学院大学特任教授は、自身が八女商工会議所のアドバイザーとして高付加価値型宿泊ブランドを誘致し、それが起爆剤となって周辺施設の開業を誘発したことを事例として紹介した。

福島地区の観光ブランド化を学んだ、八女市でのフィールドワーク

一方、長崎県西海市は、平成の大合併で5つの自治体が合併してできた人口2.5万人のまちだ。リアス式海岸などの複雑な地形を持った海岸線や、点在する大小様々な島、丘陵起伏が続く地形といった美しく魅力的な自然景観を有し、西海国立公園、大村湾県立公園、西彼杵半島県立公園の3つが自然公園に指定されている。しかし、それにも関わらず、長崎県の2大都市である長崎市と佐世保市に挟まれ、通過地点となってしまっていることが課題だった。

松川久和副市長(右)も参加した、西海市でのフィールドワーク

1泊2日のフィールドワークでは、西海市内に数多く点在する「残念な観光地」(若林伸一理事長)を見て歩き、これらの資源をどう生かせばよいかを考え、地元の関係者にアイデアを提案することになった。受講者たちはバスで西海橋、大瀬戸歴史民俗資料館、石原岳森林公園(戦跡)、横瀬浦公園、崎戸さんさん元気らんど、道の駅みかんドームなどを視察し、観光まちづくりのアイデアを考えた。夕食後も夜中までアイデアを練り、翌日は西海市コミュニティセンターにおいて、5グループから具体的な観光振興案が提出された。地元からは松川久和西海副市長はじめ、市の担当部署職員、市議会議員、市民ら約25名が参加して熱心に聴講した。滞在型観光プランや、みかんドームの活用策、地元に伝わる石鍋を活用した料理や観光、コンシェルジュの活用など、多様なアイデアが披露された。松川副市長からは「我々も気がつかない視点からの提案もあり、大変参考になりました。短い時間でよくまとめられており、さすがと感心しました。今後の観光まちづくりに生かしていきたいです」との感想が寄せられた。

同プログラムには、観光まちづくりに携わる有識者および事業構想大学院大学の修了生もアドバイザリーボードとして参画し、伴走支援している。受講者が観光まちづくりプロデューサーとして、全国各地で活躍する日が来ることが期待される。