世界一のビジネススクールで行われている授業とは

バブソン大学は、マサチューセッツ州ウェルズリーにあるアントレプレナーシップ教育に特化した大学。US News & World Reportの分野別ランキングで、アントレプレナー部門のナンバーワンに30年連続で輝くなど、その教育は高く評価されている。実業界を牽引する大経営者を数多く輩出しており、その中にはトヨタ自動車の豊田章男会長やイオンの岡田元也社長もいる。

そのバブソン大学で絶大な人気を誇る授業を書籍化したのが本書だ。「遊び」「共感」「創造」「実験」「省察」の5つの実践に沿って、43もの演習が収録されている。何より「実践」に重きが置かれているのは、「アントレプレナーは、不確実性や曖昧性の高い状況下で行動を起こす自信と勇気を得るために、アントレプレナー的になる実践を行っている」という考え方に基づいているためだ。

それぞれの演習には、誰を対象にどのように行えばよいかという利用例、学習目標、教材リストに加えて、授業の時間配分が分かるタイムラインが示されており、あらゆるアントレプレナーシップ教育を担う指導者にとって、痒いところに手が届く構成となっている。

例えば「遊び」を実践する「パズルと物語」という演習では、マネジャー思考とアントレプレナー思考の違いを理解するため、「必要だと思うものではなく、持っているものから始める」ことを重視する。オンラインでの実施を想定しており、受講者はまず、Zoomのブレイクルームでジグソーパズルに挑戦する。次に講師から与えられたキーワードに基づき、物語を創作するよう求められる。この2部構成の演習を通し、マネジャー思考とアントレプレナー思考の違いを体感できる仕組みだ。

65分間に想定された授業のなか、どのタイミングで受講生をブレイクアウトルームからメインルームに戻せばいいかという目安も示されている。ワークショップ形式の授業では、時間配分が難しいことを実感している読者も多いだろう。細やかなタイムラインが示されているのは、大きな安心材料となるに違いない。

ほかにも、「共感」の実践演習としては「もし、私が自分自身の顧客だったら?」、「創造」では「国連の持続可能な開発目標を通じて未来を創る」、「実験」では「サプライチェーンのイノベーションによって生態系への影響を軽減する」、「省察」では「なぜあなたに投資する必要があるのか」など、タイトルを見るだけでも刺激的な演習が並ぶ。

本書のアプローチが有効であることは、バブソン大学出身者の成功がすでに証明済み。日本では起業家が育ちにくいと言われるが、本書を活用した授業が各地で行われることで、アントレプレナーシップ教育の新境地が開かれることを期待したい。

 

世界一の
アントレプレナーシップ
育成プログラム

革新的事業を実現させるための必須演習43

  1. ハイディ・M・ネック、カンディダ・G・ブラッシュ、
    パトリシア・G・グリーン 著
    島岡 未来子、朝日 透、山川 恭弘 監訳
    T-UNITE+チーム 翻訳
  2. 本体2,700円+税
  3. 翔泳社
  4. 2023年12月

 

今月の注目の3冊

THINK BIGGER

「最高の発想」を生む方法
コロンビア大学ビジネススクール特別講義

  1. シーナ・アイエンガー 著、櫻井 祐子 訳
  2. NewsPicksパブリッシング
  3. 本体2,200円+税

 

『選択の科学』で脚光を浴びた心理学者、シーナ・アイエンガーの新著。前著では、数多くの選択肢から最良の選択をする能力の高め方を説いた。だが、そもそも選択肢が存在しない場合はどうすべきなのか。新たな選択肢を自分で生み出すにはどうしたらいいのか。そこで必要になるのが「Think Bigger」、すなわち「より大胆に考える」ことだ。

アイデア出しにはブレインストーミングが用いられることが多いが、それは本当に有効なのかと著者は疑う。例えばフォードは、ブレストではなく現実世界にアイデアを求めることで、食肉処理場の解体ラインを発見し、そこから自動車生産ラインを発想した。「箱の外」で思考すること。これが「Think Bigger」の肝となる。

本書が示すロードマップを頼りに、「最高の発想」に挑戦してほしい。

 

創造する人の時代

  1. 茶谷 公之 著
  2. 日経BP
  3. 本体1,600円+税

 

ChatGPTの登場もあり、人間がAIに仕事を奪われる可能性がにわかに現実味を帯びてきた。AIの影響が今後ますます大きくなる中、生き残るにはどうしたらいいのだろうか。歴代プレイステーションの開発責任者を務めた著者によると、その答えは「何かをつくれる人になる」こと。それこそがAIではなく、人間だけにできることだからだ。

だが、具体的な道筋が見えない人も多いだろう。どうすればいいのか。「つくる」には、「知る」「わかる」「使える」の3段階があり、つくれない人は、そのどこかにつまずきがあるという。「つくる」ために何を考えればいいのか、どのような視点を持てばいいのか。本書はそのエッセンスを指南してくれる。「つくる」気持ちを持つことで人生の選択肢は限りなく広がる。そう語りかける本書を手に、新たな一歩を踏み出してみたい。

 

東大教授が語り合う
10の未来予測

  1. 瀧口 友里奈 編
  2. 大和書房
  3. 本体1,800円+税

 

松尾豊氏、暦本純一氏ら東京大学の理系教授が一堂に会し、未来について語り合うYouTubeチャンネル「知の巨人たちの雑談」の書籍化。書籍化にあたり大幅な加筆が施されている。

「異分野同士の先生方が、想像力をフルパワーにし、知的好奇心の赴くままに互いの知見をぶつけ合」ったという編者の言葉通り、人工知能、GAFA、宇宙開発、病気との闘いなど、幅広い話題が奔放に語られる。

1000歳まで生きる人間を作ることは可能か? 空中からエネルギーをとってくる技術とは? 便を移植されると性格が変わる!?など、真面目な研究が一般読者の知的好奇心をくすぐるような角度から多数紹介されており、その中から未来が浮かび上がってくる。

YouTubeとあわせて読めば、より立体的な理解が可能になるだろう。