大阪・関西万博を共生のモデル発信の場にするプログラム、スタート

大阪・ 関西万博は、2030年のゴールを目指すSDGs の取り組みを加速する絶好の機会でもある。理想とする未来社会を実現する「TEAM EXPO 2025」プログラムは、万博の仕掛けの1つ。(公社)2025年日本国際博覧会協会 企画局長兼広報戦略局長の堺井啓公氏が、そのねらいや進捗について語った。

聞き手   小宮 信彦 事業構想大学院大学特任教授

 

(公社)2025年日本国際博覧会協会の堺井氏(右)と、事業構想大学院大の小宮氏

小宮 まず「TEAM EXPO 2025」プログラムを始めた経緯を教えてください。

小宮 信彦 事業構想大学院大学 特任教授
株式会社電通 ソリューション・デザイン局
2025事業推進グループ統括
チーフ・ビジネス共創ディレクター
日本マーケティング学会 常任理事

堺井 大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、「未来社会の実験場」をコンセプトとしています。このテーマやコンセプトを実現するために、万博が開催される前から何ができるのかを議論しました。そのなかで、多様な立場の人が2025年の大阪・関西万博に向けて動き、その活動を支える場をつくることができないかと考えたのが出発点です。「こんな世の中にしたい」という思いを持っている高校生がいたり、1970年の大阪万博を子どもの頃に体験した人で、大阪・関西万博を盛り上げたいと考えている人がいたりと、さまざまな人が万博に期待をしています。

堺井 啓公 (公社)2025年日本国際博覧会協会 企画局長兼広報戦略局長

宣言、アクション、共創、 そして実現へ

小宮 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsに向けた取り組みのステップとして大阪・関西万博を位置付けることもできるわけですね。

堺井 大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会」に導いていくための「未来社会の実験場」であり、まさにSDGsを達成するための仕組みでもあります。そのためには2025年、そして2030年に向けて今から動き出さなければなりません。

そのためにどんな仕掛けが必要かと考えた時、皆の前で宣言してもらうのはどうかと。子どもも大人も、世の中をこうしたいんだということをはっきりと宣言し、有言実行でそれに取り組んでもらえばいいんじゃないかと考えました。テーマとしては少子高齢化、ジェンダー、環境保全などがあり、そのやり方もDXを活用して見える化して行動変容を助けるようにするなどいろいろあります。

明確な目標、熱い思いをもって動いている人を見たら、応援したいという人も現れてくるでしょう。それならば、はじめにこういう人に協力してほしいということまで含めて宣言し、多くの人の助けを得られるような仕組みにすればいいんじゃないか。そう考え、宣言、アクション、共創、実現する場として「TEAM EXPO 2025」の枠組みを作りました。

「TEAM EXPO 2025」プログラム全体概要

TEAM EXPO 2025のタイムライン。会期後にもレガシーとして継承していくことを目指す。

提供:2025日本国際博覧会協会

 

小宮 2020年10月からスタートしたということですが、具体的にどのようなかたちで宣言、アクション、共創の仕組みを作っているのでしょうか。

堺井 「TEAM EXPO 2025」には、共創チャレンジもしくは共創パートナーとして参画していただきます。

共創チャレンジは、大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するため、自らが主体となって未来に向けて行動を起こしている、または行動を起こそうとしている活動のことを指します。個人グループの活動(2人以上)のほか、企業・団体のプロジェクト等の単位でも登録できます。活動はこれから進めるものでも、既に取り組んでいるものでも構いません。

登録にあたっては、「目指したい未来社会はどんなものか 未来への宣言」「そのために今何をしているか」「未来に向けてどんな人たちと共創を進めたいか」など、チャレンジの内容を明らかにしていただきます。

共創パートナーの役割
未来に向けたチャレンジを支援

一方、共創パートナーは、自らのリソースを提供して共創チャレンジを生み出し、また自らが創出した共創チャレンジや他の共創チャレンジを支援する法人・団体等のことです。他の共創パートナーとも連携して、「TEAM EXPO 2025」を育て、盛り上げていただきます。すでにそれぞれの登録がスタートしています。

2025年には大阪・関西万博の会場からその活動を発信して、世界中の人に注目してもらい、行動変容につながっていく流れを作りたいですね。皆さんに、大阪・関西万博という場所を最大限活用してほしいという意気込みで取り組んでいます。

小宮 1970年の大阪万博では、未来を見せ、そこに導いていくというコンセプトでした。今回の大阪・関西万博はその考え方から180度変わって、参加した一人ひとりが自分自身でこれからの未来を考え、つくっていくというところが大きな特徴です。開催前に着手して、出来上がったところまでを会期期間に見せ、さらにその先につなげていく、そこに挑んでいく姿そのものが共感を呼ぶし、勇気を与えるでしょう。その思いに賛同し、行動する人が増えれば、世の中を変える大きな力になっていきます。参加型万博の醍醐味ですね。

堺井 そうですね。今後は国内だけでなく、海外の人に対しても参加を呼び掛けていきます。国内外から集まった共創チャレンジにおいて、より実践的で優れた取り組み(ベストプラクティス)については、会期中に会場内のベストプラクティスエリアで発信できるようにし、来場者はそれらを見て、体験することができる場にしたいと考えています。

万博会場のベストプラクティスエリアのイメージ(提供:2025年日本国際博覧会協会)

半年間のイベントが終わった後に、それらを見た人がそれぞれの国に持ち帰ってその国の人々に行動変容を促すことで世界に広がっていくことになります。ぜひ参加していただき、自ら世界を変える主人公、プレーヤーになっていただきたいと思っています。

価値観の異なる人との共創で
良い方向に社会を変える

小宮 もう1つのポイントは、宣言した人がそのテーマに対して「この指とまれ」で賛同者を集められるところです。世の中の課題はより複雑化、多様化してきています。課題を定義することも、解くことも難しくなってきています。その中で、自分とは異なる価値観、自分とは違う得意技を持った人がチームになって課題の定義、解決に当たっていくやり方は、今の時代だからこそのアプローチだと思います。

そのようなチームの多様性は放っておいては生まれないので、素晴らしい仕組みだと思います。たとえて言うなら、桃太郎が、おじいちゃんおばあちゃんが大切にしている田畑を荒らす悪い鬼を退治しに行くという志に対して、途中からイヌ、サル、キジが加わって、それぞれに強み、弱みはあるんだけれどもみんなで得意技を駆使して最後に鬼を倒すというストーリーに近いなと感じました。

堺井 どんな未来社会にしたいのかという考えもどんどん変化するし、なかなか統合していかないのです。しかし、その中で最大公約数というか、こういう解決の仕方がいいのではないか、ということがだんだんとそろってくると思うんです。そこに至るまでにさまざまな立場、価値観の人が関わってそれを実現していってほしいのですが、そういう意味では今回の大阪・関西万博は社会の変え方の実験場でもあるのかなと思っています。

今までの日本は、社会がこういう状態にあるからその中で自分はどうしようかと考える人が多かったと思うのですが、そうではなくて、やはりこうあるべきだという理想の未来社会をデザインし、それを掲げて、賛同者を得ながら社会を変えていく。そういう仕組みはこれまでの日本の社会ではなかったアプローチであり、ぜひそれを「TEAM EXPO 2025」で実現できたらと考えています。

発信、マッチングで思いを後押し
登録数は200件を超える

小宮 登録数はどのくらいまで増えていますか。また、どのような方々が登録されていて、どのような思いでこの活動に取り組んでいるのでしょうか。

堺井 2021年5月末時点で、共創チャレンジが154件、共創パートナーが75団体の計229件です。年齢層は幅広く、昔の大阪万博を思い出すという方や若い人で万博が好きでたまらないという方たちが最初に入ってこられました。例えば、高校生で万博応援ソングを作ったので、万博の成功に向けて歌い続けたいという方もおられました。

また、すでに活動をしているけれど、今回のプログラムを知ってさらに活動を進めるためにがんばるきっかけにしたい、と登録された方もいます。

企業の参加も増えています。SDGsの達成に向けて取り組んでいる企業や、万博のテーマを意識して社会課題解決に向けて率先して行動変容を起こし、理想の未来社会造りをしようとする企業も出てきています。

小宮 「TEAM EXPO 2025」がキーストーンになって、自分たちの取り組みの正当性や、自分たちが何を目指しているのかを確認するための鏡になり、あるいは大阪・関西万博が1つのアンカーになって、そこを目指して頑張っていこうという後押しになっている感じですね。

堺井 普段の活動だけではなかなか多くの人に知ってもらえることはありませんし、知ってもらうためのやり方がわからないという方も多いと思います。「TEAM EXPO 2025」では専用Webサイトを設け、共創チャレンジの1つひとつについて活動を紹介する専用ページを開設することができます。このような、より多くの方に活動を知ってもらうためのサポートの仕組みについても評価をいただいているようです。

小宮 共創チャレンジの主体が何をしたいかを宣言し、賛同者を募ることで、今まで出会うことのなかったような主体、例えば、企業と市民、学生と大人といった出会いが生まれるところも期待が大きいのではないでしょうか。

堺井 共創パートナーには、支援のために提供できるもの・ことを発信するよう依頼しています。例えば、人の知恵やネットワークであったり、情報発信する媒体を持っていることであったり。企業であれば試験設備の提供、自治体であれば実証のフィールドの提供、資金が必要であればクラウドファンディングのリソースを活用して資金調達を支援する、というものもあります。 共創チャレンジと共創パートナーが理想とする未来社会を共創する機会を、どんどんつくっていきたいと思っています。

また2021年度からは海外の方への呼びかけも始めます。今年の10月から始まるドバイ万博では、2025年の大阪・関西万博は参加型万博であり、「TEAM EXPO 2025」にぜひ参加してくださいとのメッセージを届けたいと思っています。

小宮 「TEAM EXPO 2025」の取り組みについて大阪・関西万博ではどのように発信しようと考えていますか。

堺井 会場で見せられるものはそこから発信していきますが、活動が進んで実際に行動変容を起こして社会が変わっていく現場と会場をオンラインで結んで発信するということも考えられます。ケースによっては実践の取り組みを今から撮りためてそのプロセスを含めて会場で映像を見せるということもやりたいですね。

自分たちで社会を変える
実感を持てる機会を

小宮 人類共生の1つの形を世界に発信するというモデル自体、過去の万博に比べて大きく進化している印象を受けます。また、その主体についても、以前であれば企業や団体などの組織が表に出ていたと思うのですが、大阪・関西万博では個が主役になっていて、とくに若い人にとってはやりがいを感じられる場になるのではと可能性を感じています。

堺井 次代をになう子どもたちに向けた取り組みとして、「教育プログラム」を行っています。小学生、中学生を対象に、授業を通じてSDGsについて学び、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」のためのアイデアを考えてもらい、その成果を「ジュニアEXPO」という発表の場で共有します。この中から生まれたアイデアや活動を、大人も一緒になって共創チャレンジに登録してくれたらいいなと思っています。自分たちの力で社会を変えられるんだという経験をそこでしてもらうことができたらうれしいですね。

小宮 SDGsの発想の根本には、自分たちが社会を変えることができると信じることこそが社会を変えていく力になるという思想が流れています。まさにそのような場になるということですね。2025年までに描いている展望があれば教えてください。

堺井 社会を変えていくためには、今の法律や規制が壁になってしまうことがありますが、国も大阪・関西万博の担当大臣を置いてこれを推進しようとしています。2025年、2030年に向けてあるべき社会の姿をしっかり議論をして、マイルストーンを決めて変えていくべきものは変えていくという流れになることも期待しています。

小宮 最後に共創チャレンジ、共創パートナーへの登録の呼びかけも含め、メッセ―ジをお願いします。

堺井 大阪・関西万博は国家イベントであり、世界に発信するイベントです。ぜひ全国、そして世界の皆さんにとって、それぞれのエリアでより良い未来社会をつくるためのアイデアを出してください。

理想の未来社会をつくるためには何よりもあなたの第一歩が大事です。このような社会であってほしいという気づき、思いが芽生えたなら、ぜひ行動を起こしてください。それを後押しするのが「TEAM EXPO 2025」です。 万博への参加はここから始まります。皆さんが主人公となってあるべき未来社会に向け、世界を変えていきましょう。そのような思いを持った方はぜひ参加してください。