デジタル庁が進める 地方自治体の基幹業務システムの統一・標準化

デジタル庁が現在取り組んでいる大きなプロジェクトが、地方自治体の基幹業務システムの統一・標準化だ。自治体にとっては、コストや業務負担の軽減につながるものとして期待されるが、課題も山積している。デジタル庁統括官付参事官の浦上哲朗氏が、課題解決の道筋や自治体の果たす役割について述べた。

デジタル庁創設を記念して、学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学では「自治体クラウドの全貌と実装機能」をテーマにオンラインセミナーを開催した。その冒頭、デジタル庁統括官の浦上哲朗氏は、デジタル庁の役割について説明した。浦上氏は、庁内の勉強会で講演した越塚登・東京大学大学院情報学環長・教授の言葉を引用しつつ、「パソコンやスマホではOSというプラットフォームがまずあってその上に豊かなアプリが提供されるように、IT分野はプラットフォームファーストであることは歴史が証明している。デジタル社会の形成のためのプラットフォームとしてデジタル庁が作られました」と紹介。そこで提供するプラットフォームが、政府共通のクラウドサービスの利用環境であるガバメントクラウドだと説明した。

自治体の基幹業務システムの統一化・標準化においては、このガバメントクラウド上に構築された標準化基準を満たすアプリケーションの中から、それぞれの自治体に適したものを効率的かつ効果的に選択することが可能となる環境の整備を目指している。目的とするところは「行政サービスの向上(すぐ使える、簡単、便利)」であり、「効率化(職員がやるべき業務に資源を集中)」であることを浦上氏は強調する。デジタル庁では、その対象業務の範囲は住民基本台帳、国民健康保険、国民年金、生活保護など17業務に加え、戸籍、戸籍の附票及び印鑑登録事務を加えることが検討されている。

地方自治体の基幹業務システムの統一・標準化に向けたスケジュール

自治体の基幹業務システムの統一・標準化に向けたスケジュール。2025年度末までに、全自治体で統一・標準化された基幹業務システムの利用が始まる

出典:浦上氏講演資料

 

3つの課題と目指す姿

浦上氏は、自治体の基幹業務システムについて3つの課題を指摘。まず「アプリケーション」の観点からは、「カスタマイズが多いため、マルチテナント的に構成できず、調達コスト、運用コストが高い」ことを挙げた。また密結合(モノリシック)であるため、一部を改修するのにすべてを修正しないといけない仕組みになっている。そこで、レゴブロックのように標準の共通パーツを積み重ねることで、自治体のシステムを迅速に構築、柔軟に拡張できるクラウド型のプラットフォームが求められていると指摘した。

浦上 哲朗 デジタル庁 統括官(デジタル社会共通機能担当)付参事官(地方業務システム基盤担当 兼 ID/認証・マイナンバー担当)

また「インフラストラクチャ」の観点からは、三層分離(インターネット接続系ネットワーク、LGWAN接続系ネットワーク、マイナンバー利用事務系ネットワークの3つに分かれていること)で、自治体内での事務効率が低下していることなどを挙げている。「データ」の観点からは、中間標準レイアウトなどの標準があるのにカスタマイズが発生し、結果的に標準化されていないとし、データ要件・連携要件の標準の準拠の義務化の必要性を説いた。

そのうえで、自治体の基幹業務システムの統一・標準化が目指す姿として、「複数のアプリケーション開発事業者が標準化基準(標準仕様)に適合して開発した基幹業務等のアプリケーションをガバメントクラウド上に構築し、自治体がそれらの中から最適なアプリケーションを選択することが可能となるような環境の整備を図ります」と話した。

その結果、自治体が基幹業務などのアプリケーションをオンラインで利用することになれば、従来のようにサーバ等のハードウェアやOS・ミドルウェア・アプリケーションなどのソフトウェアを自ら整備・管理することが不要となる。

そして「ガバメントクラウドが提供する共通的な基盤や機能を活用しながら、アプリケーションレベルにおいては複数の民間事業者による競争環境を確保して、ベンダーロックインによる弊害を回避していきます」という展望を述べた。

今後、「標準化対象の事務」について標準仕様を作成し、標準準拠アプリはカスタマイズをしないこと(ノン・カスタマイズ)を徹底すると同時に、標準仕様は、デジタル3原則に基づくBPR(Business Process Re-engineering)のベストプラクティスを反映・随時更新することで品質の向上を図る。標準化対象事務でも、自治体の規模の違いにより事務処理が異なるケースはある。このような場合は、標準オプション機能で対応する方針だ。標準化対象外の事務については、標準準拠アプリをカスタマイズしないよう、標準準拠アプリとは別に、標準準拠アプリとは疎結合した形で別に構築(アドオン)し、標準準拠アプリとAPI等により連携するやり方もできる。

デジタル3原則に基づく
ベストプラクティスを実現

浦上氏は、今後のスケジュールについても説明した。2021、22年度は先行事業期と位置づけており、ガバメントクラウドへの移行を先行事業として実施。課題や手法を整理していく。23~25年度には、標準仕様に準拠した業務アプリがガバメントクラウドに構築される。この期間は自治体が順次、それらの活用を開始する本格移行期としている。25年度末までに、原則、すべての市町村が、ガバメントクラウド上に構築する標準準拠システムを利用できるようにするという。

このような、全国規模の大きなDXプロジェクトを進めていく上で、各自治体はどのような役割を果たすべきなのか。浦上氏はまず都道府県については、「都道府県のシステムだけに目を向けるのではなく、統一・標準化を実行する市町村の全体を管理するPMO(Portfolio Management Office、政府では、府省内全体管理組織のこと)の役割を果たしてほしい」と述べた。

市町村に対しては、「現場を担当する自治体職員の視点だけでなく、行革を担当する自治体職員の視点や、利用者視点に基づくサービスデザイン思考の視点を重視し、デジタル3原則に基づくBPRを導入していきます」と、デジタル化への理解を求めた。その道筋として、標準仕様書をベースに、意欲のある自治体職員を公募し、デジタル庁の民間人材を交えながら、ワークショップ等を開催して、デジタル3原則に基づくBPRの提案を具体的に行うやり方も示した。

また、ベンダーに対しては、「自治体がガバメントクラウドを活用する取組によって、自らクラウド基盤を整備することなく、自社が開発したアプリケーションが全国展開する機会を得られます。一方で、新たなビジネスモデルを模索する必要があるでしょう」と話す。

デジタル庁としては、「標準仕様書を策定する制度所管府省の支援」「データ要件・連携要件の標準の策定」「ガバメントクラウドの活用の推進」を使命として取り組んでいく。浦上氏は最後に「この一大プロジェクトを力を合わせて成し遂げて、将来世代によりよいプラットフォームを残していきましょう」と呼びかけた。