主流化するESG経営 開示を求められる「ビジネスと自然資本」

企業と自然との関わりを評価し開示する取り組みが始まる。気候変動だけでなく生物多様性等も含め自然全体に配慮する機運が高まったためだ。環境とビジネス双方の持続可能性を担保する新たな動きについて、枠組みに詳しいWWFジャパンの橋本氏と松田氏に聞いた。

橋本 務太(WWFジャパン 自然保護室 金融グループ長)

世界の富の半分は、自然資本に依存

この6月に『自然関連財務情報開示タスクフォース』(TNFD)が立ち上がった。金融機関や事業会社が、自社事業と自然との関わりをステークホルダーに開示する世界的イニシアチブで、橋本氏はこの目的を「最終目標は、自然にとってポジティブな資金の流れをつくることです」と話す。TNFDと聞いて、気候変動による自社事業へのリスクと機会を分析し開示する『気候関連財務情報開示タスクフォース』(TCFD)を思い起こされる方もいるだろう。TNFDは、TCFDに続く位置づけでもある。

まずはこのTCFDについておさらいしてみよう。TCFDでは、気候変動が企業の事業活動に与えるリスクと機会の開示を推奨している。企業はこのリスクと機会を事業戦略・計画に織り込み、指標・目標、意思決定のあり方なども含めステークホルダーに開示する。ここではCO2排出削減目標でも活用される『科学と整合した目標』(SBT)などをベースに、平均気温が1.5℃、2℃、または3℃上昇したケースなど、各ケースにおける事業戦略や対応策を描くシナリオ分析も求められている。G20の要請を受け発足したTCFDは2017年の最終報告書でこうした情報開示について提言を行い、国内外で賛同する金融機関・事業会社は年々増加している。特に大手企業とそれに連なるサプライチェーンにとっては、無視できない存在だ。

一方で世界のGDPのうち約50%が、水や大気、土壌、森林・海やそこに生息する生物などの自然資本に依存しているというデータもある。自然資本の毀損と経済成長の関係については、10年ほど前からエコロジー経済学などの観点から指摘がなされてきたが、SBTやTCFDなど気候変動への取り組みが先行していた。

こうしたなかWWFフランスが発表した、企業と自然に関する情報開示の必要性を訴えるレポートが2019年のG20の議論で取り上げられたことが転機となる。さらにCOVID-19以降、世界経済フォーラムや世界銀行、OECDなどからも経済と社会の持続可能性を高めるために自然資本を再評価し必要な措置を講じるべきとの提言が相次いで発表される。

金融業界の動きも後押しとなった。ESG投資が活発化するなか、気候変動以外の要素も包括的に評価する必要があるとの声が高まっていたのだ。

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