NTT東日本グループ 地域に伴走して「自治体DX」を実現

NTT東日本は、ICTを活用した地域活性化の取り組みを実施する「地方創生推進部」を設置し、庁内業務・地域産業・住民生活のDX、さらにはスマートシティ構築までを支援している。2022年7月に地方創生推進部長に就任した澤出剛治氏に取り組みを聞いた。

澤出 剛治 NTT東日本
ビジネスイノベーション本部 地方創生推進部 部長

業務改革コンサルティングで
「自治体DX」の実現を支援

地域の人口減や税収減などを背景に、自治体は職員を増やすことができず、人手不足が進んでいる。一方、コロナ禍により社会のニーズも変化し、デジタル技術を用いた業務効率化や非対面による住民サービスなど新たな対応が求められるようになった。

「複雑化・多様化する業務を限られた職員で対応していくために、自治体では業務プロセスの見直しやITツールを活用した業務効率化などにより、人員配置を最適化しながら、住民の期待に応えていきたいというニーズが高まっています。地域の課題を解決しつつ職員の負担を軽減するには、自治体DXの推進が欠かせません」とNTT東日本地方創生推進部部長の澤出剛治氏は話す。同部は、AIやIoTなどのICT技術を活用したソリューションで地域活性化を推進すべく、2020年7月に新設された。

澤出氏によれば、自治体DXを推進する上では「庁内業務のDX」「地域産業のDX」「定住強化に向けた住民生活のDX」の3つの視点が重要だという。

庁内業務のDXに向けては、課題を整理した上で方向性を明確にすることがポイントとなる。

「例えば、神奈川県綾瀬市ではBPR(業務の可視化・改善)のアプローチを活かしたコンサルティングを通じて業務課題を洗い出し、全体最適の視点で抜本的な業務効率化をサポートしています。全業務をDX化しようと思うと多大なコストと時間が掛かりますが、業務プロセス全体を可視化し、『ボトルネックになっているのはどこか』『多くの人手や時間を要しているのはどこか』にフォーカスして無駄な業務を再設計することで、効果的な業務効率化が可能になります」

また、NTT東日本は内閣官房・内閣府の地方創生人材支援制度内のデジタル分野(デジタル専門人材)に協力し、2020年度から18自治体にのべ19人の社員を派遣、各自治体のDX担当部署を伴走支援している。東日本全域に支店を置き、DXの知見と技術を有するNTT東日本が、地域の実情を踏まえた上で各地の自治体DXに伴走することは、DX推進人材が少ない自治体にとって大きな支えとなるはずだ。

地域産業にICTを実装し
夢のある“儲かる地域”に

一方、地域産業のDXについて、澤出氏は深刻な労働力不足を指摘した上で、不足する労働力をICT・AI・ロボティクスの力で補うことが重要だと示唆する。

「日本の生産年齢人口(15~64歳人口)は1995年の8,726万人をピークに減少の一途を辿っていますが、特に問題視すべきは地方の中で広がる地域間格差です。北海道で例えるならば、札幌市は仕事が多く、比較的賃金も高いため、周辺自治体からどんどん労働人口が札幌に集まる。首都圏においても同様の現象が加速しています」

特に、多くの地域において基幹産業となる一次産業は高齢化が最も速く進む産業であり、ICTを活用した労働力不足への対応が喫緊の課題だ。

「IoTセンサデータやAIを活用することで作物ごとの生育ステージを予測し効率的な営農計画を立てたり、農作業を遠隔監視制御のロボット農機により自動化することで、耕作面積を大幅に引き上げることが可能です。1人当たりの所得も向上し、新しく農業に参入する若者も増え、地域が活性化するといった好循環が生まれると考えています。事実、私が実証代表を務める岩見沢市のプロジェクトを視察した農業高校の生徒たちは、そのインパクトに目を輝かせていて、自らの未来に期待を抱いてくれています」

澤出氏は、NTT東日本が2019年にグループ初の農業×ICT専業会社「NTTアグリテクノロジー」を設立し、農業分野における各種DXにチャレンジしていることを述べ、こう続ける。

「我々の重要な取り組みの一つは、AIやIoTを地域産業に実装することで、働き手減少の中でも地域の総生産を維持し、地域住民の所得を上げるチャレンジです。テクノロジーの力で地域の豊かさをそのままに、都市とは違った “儲かる地域”をつくることができれば、人口流出は食い止められるはずです。そんな夢のある世界を実現していくことが、政府が掲げる『デジタル田園都市国家構想』とも重なっていくのではないでしょうか」

DX推進支援コミュニティで
地域全体のデジタル活用を推進

そして定住強化に向けた住民生活のDXでは、都市部と地域での格差が大きな教育、医療・介護、安心・安全などの領域で、ICTの活用によるサービス向上や効率化が求められる。防災無線のデジタル化やGIGAスクール構想の支援などNTT東日本は多数の実績があるが、近年は自助・共助のまちづくりに向けて、デジタル地域通貨の活用に関する相談が多く寄せられているという。

「例えば、富良野市では市民がスマホアプリを活用し、ウォーキングを通じてポイントを獲得すると、そのポイントを地域内での買い物や飲食に利用できるという実証実験を実施しています。他にも、草刈りや雪かき等のボランティア活動でポイントが付与されるモデルを検討する地域もあり、デジタル地域通貨を活用した様々な地域活性化の取り組みが進んでいます」

NTT東日本は、NTTグループの地域フロントとして、グループ会社や連携会社とともにこの数年で、庁内業務・地域産業・住民生活のDXに関する多数の成果を自治体や企業と共に生み出してきた。澤出氏は次のフェーズとして、「地域とコミュニティを構築し、DXを広く浸透させるような取り組みを進めたい」と語る。

その一つが山梨県での事例だ。NTT東日本グループや山梨中央銀行、山梨県商工会連合会など11社・団体が連携し、県内中小企業のDXを支援する組織「山梨DX推進支援コミュニティ」を設立、2022年8月には活動の基盤となるポータルサイト「やまなしDXエンジン」を開設した。同サイトを通じて県内企業からDXに関する相談を受け付けるほか、先進事例やセミナー・研修などの情報を発信し、地域全体のDXレベルの底上げを図る。

「将来的には医療・交通・防災・観光・一次産業の活性化などの地域課題の解決に向けて、都市OS(データ連携基盤)を整え、消費者や住民ニーズにマッチしたデータ駆動型・エビデンスベースの地域の価値創造や行政サービスの最適化をお手伝いする考えです。より幅広いステークホルダーが、互いの得意・リソースを持ち寄りながらシナジーを形成していくことで、山梨の事例がスマートシティのモデルケースになることを期待しています」

最後に澤出氏は「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業として、このモデルを他地域にも水平展開し、将来に夢や希望を感じられる社会づくりに貢献していきます」と語った。

図  NTT東日本グループの地域活性化への貢献

 

1/25開催 地域創生DX会議
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