神戸の産官学プラットフォーム オーダーメイド越境学習で企業人材育成

コロナ以降の働き方の変化を通して、市民生活や経済活動のあり方が見直されているが、2023年11月、企業と神戸市、大学が連携する「大学都市神戸 産官学プラットフォーム」が新たに設立された。同プラットフォームと、関連する越境学習リカレント教育プログラムの内容や意義について、神戸市に聞いた。

神戸市企画調整局 リカレント教育コーディネーター 坪田 卓巳氏

神戸市内の大学、高専など
学生の約7割が参画

海と山に囲まれ自然豊かでありながら、海外に開かれた港湾都市である神戸。貿易や造船、鉄鋼、観光、日本酒など多彩な産業が存在する一方、神戸市内だけで大学・短期大学は23、学生数は約7万の大学都市であることでも知られている。

それにもかかわらず、市が抱えている問題は深刻だ。「学生は多いが、卒業後に東京や大阪、市外へ出てしてしまう」と、神戸市企画調整局の坪田卓巳氏は語る。実際、他府県への人口流出は加速傾向にあり、神戸市内の大学生の市内企業への就職状況は約17%(2016年度)。18歳人口も、30年前から約40%減少している(2019年時点)。

この地域課題の解決に向け、産官学が連携する「大学都市神戸 産官学プラットフォーム」が、2023年11月に一般社団法人として設立。2024年1月29日に行われたオープニングイベントを皮切りに、いよいよ今年、活動が本格始動した。

オープニングイベントの様子。左より、田中 悟氏(神戸市外国語大学学長)、中村 恵氏(神戸学院大学学長)、久元 喜造氏(神戸市長)、髙士 薫氏 (神戸新聞社相談役)、藤澤 正人氏(神戸大学学長)、中井 伊都子氏(甲南大学学長)

参画団体は神戸大学や神戸学院大学、甲南大学、兵庫県立大学、神戸市外国語大学などの10大学・1高専に加え、損害保険ジャパンなど25社(2024年1月29日時点)。なお、参画する大学等の学生数は神戸市内の7割を占める。

三宮に交流拠点を置き
迅速かつ柔軟に事業実現

大学都市神戸産官学プラットフォームが目指すのは、「優秀な人材の獲得」「人材育成と定着」「地域社会への貢献」を3本柱とする「チャレンジし続けるグローカル人材の育成・定着」だ。事務局には神戸市から3名、大学から3名、企業から1名の計7名を配置し、より連携を深める組織体制を構築する。

同プラットフォームの、現在の主なプロジェクトは4つある。1つ目は、「大学カリキュラムとインターンシップ、就職活動との接続」。大学単位認定措置との連携や企業からの採用優遇措置の設計、有償型プログラムの提供など、採用直結型とペイド型(報酬型)の2軸で展開する。2つ目は「リカレント教育プロジェクト(=社会人のための学び直し)の強化」。複数の大学が連携を取ることで、脱炭素、環境、農業、DX、多文化共生などといった企業のニーズに合わせたリカレント教育プログラムを作る。3つ目は、将来の生産年齢人口の減少を見据えた「神戸外国人高度専門人材育成プロジェクト」で、介護分野に加え、観光分野も検討中だという。4つ目は「灘の酒」が神戸ブランドとして持続的な発展ができるよう、国内はもとより世界に発信し、神戸の活性化を目的とした「灘の酒プロジェクト」。

鍵となるのは、プロジェクトごとの企業・行政・大学による産官学チームの形成だ。

「企業のニーズ調査や個別ヒアリングを元に、プロジェクトを開発し、大学や行政、金融機関の関連する部局と調整。評価指標や継続的な取組みとなるような出口設計をあらかじめ行い、事業実現につなげます。プロジェクトを進めるにあたって、産官学連携のプロジェクトをマネジメントできる人材の創出にもつながればと考えています」と坪田氏。

また、産官学プラットフォームの活動・交流拠点としては、三宮駅前のセンタープラザ9階に「KOBE Co CREATION CENTER」を新たに設けた。

左/プラットフォームの活動・交流拠点「KOBE Co CREATION CENTER」 右/「産官学連携による越境学習リカレント教育プログラム」では異業種の参加者がデザイン思考などを学んだ

「働く企業の方々にも学生や大学研究者にも交通利便性が高い場所です。講義室や会議室、交流スペース、コワーキングスペースを備えているので、企業の方には仕事帰りの学びの場として活用いただいたり、学生の方には自習スペースとして利用していただいたりするだけではなく、社会人と学生がフラットな形で、日常的に交流できるような場になればと願っています」

事務局も常駐しており、世代や立場を超えた交流から新たなプロジェクト組成につながる関係づくりを目指し、スピード感のある連携を期待する。

企業ニーズに合わせた
オーダーメイド型リカレント教育

神戸市では2023年度、文部科学省の「地域ニーズに応える産官学連携を通じたリカレント教育プラットフォーム構築支援事業」に採択を受けており、先述の一般社団法人立ち上げに先行して、産官学からメンバーを募り、リカレント教育プロジェクトチームを設置。複雑で先の見えないVUCAの時代、新たな事業をセクターを超えて共創できるようなイノベーション人材を育成していきたいという企業のニーズを踏まえて、大学だけでなく地域のNPOの協力も得ながら、2024年1月に、第1回目となる「産官学連携による越境学習リカレント教育プログラム」を実施した。

参加者は、20代から30代をメインとする神戸市内企業の次世代リーダー候補者や神戸市職員ら20名(男性12名、女性8名)。ヤマガタデザインの山中大介代表取締役や神戸大学大学院経営学研究科・V.Schoolの内田浩史教授、認定NPO法人まなびとの中山迅一理事長などを講師に迎えた。

「このプログラムはリカレント教育に越境学習の要素を組み合わせ、地域のNPO団体と連携して社会課題に取り組むというのが特徴」と坪田氏。デザイン思考などを学んだ上で、フィールドワークやワークショップを取り入れたアクティブな学習でビジネス視点を取り入れた社会課題を解決するアイデア・プランを構築していく、計5日間のカリキュラムを実施した。

「今回は市内在住のバングラディッシュやネパールからの外国人留学生にご協力いただき、生活する上での課題についてグループで直接ヒアリングを行っていただきました。非漢字圏の学生が抱える日本語習得の難しさなど、外国人留学生を取り巻く課題は解像度を上げていくとかなり複雑です。今回のプログラムを通して、参加者の社会課題を見る粒度が上がったのではないでしょうか」

企業がソーシャルセクターと連携し、社会課題解決とビジネス創出を目指す「共助資本主義」の流れもあり、ビジネスセクターとソーシャルセクターを分ける垣根は近年かなり低くなっているように感じる。

「今はSDGsと言っても、寄付や社会貢献という文脈で支援していくのではなく、事業の中で取り組まないといけない時代です。社会課題の最先端の取り組みをしているNPO団体と連携することは、企業の方々にとっても有意義な越境体験、越境学習の場となり、時代を担う人材となっていくと考えています。今後もぜひ、様々な業界の企業にご参加いただきたいです」

 

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神戸市企画調整局
TEL : 078-322-6581

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