スマートシティ実現に向けたWell-Beingなまちづくり
地域の人々が地域や社会で主体的にかかわりながら地域創生を行うための学びの場を提供してきた地域創生Coデザインカレッジ。今回は「スマートシティ実現に向けたWell-Beingなまちづくり~LWC指標・生成AIの活用~」をテーマに福岡市内で開催した。
トークセッション
Well-Being×生成AIの可能性
今回の地域創生Coデザインカレッジ(以降、「カレッジ」)では、一般社団法人 スマートシティ・インスティテュート 専務理事で、スマートシティ分野の第一人者である南雲岳彦氏と日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パートナー事業本部 副事業本部長 エンタープライズパートナー統括本部 統括本部長で生成AI分野でのパートナーとの事業化支援の推進を担当する木村靖氏が登壇し、「Well-Being×生成AIの可能性」というテーマでトークセッションを行った。
<司会>
地域創生Coデザイン研究所 Coデザイン事業部 担当部長 渋谷 勝也氏
<パネリスト>
南雲 岳彦氏
木村 靖氏
NTT西日本 ビジネス営業本部 エンタープライズビジネス営業部 地域プロデュース担当 担当課長 浪江 俊信氏
渋谷 浪江さんはNTT西日本で、自治体のデータ連携基盤をベースにしたスマートシティの取り組みをけん引されています。その中でどのような課題を感じていますか。
浪江 スマートシティに取り組む自治体の担当者からはどのようなテーマで進めていけばよいかわからないという悩みをよく聞きます。南雲さんはスマートシティ実現の課題は何だと感じておられますか。
南雲 幾つかの課題がありますが、顕著なものとしては、市民参加が進まないことです。Well-Being指標はまさに市民参加に焦点を当てたソリューションと位置付けています。具体的なデータのかたちで市民にとって最も重要なWell-Beingの因子が見えてきます。
渋谷 市民参加という課題において特に若い世代を巻き込むにはどうすればよいでしょうか。
南雲 Well-Being指標を使えば、自分の住む地域の市民にとってのWell-Beingの因子がわかります。自分の住む地域のことであれば面白いと感じるはずです。小学校ぐらいから年代に応じてそのような活用を教育に導入すればおのずとまちづくりに関心が向くのではないでしょうか。
浪江 自治体が生成AIを導入するにあたっての課題は何でしょうか。
木村 大きなハードルは三層分離の制約がありクラウドで動く生成AIを自由に使えないというところです。現在、デジタル庁に働きかけ、ゼロトラスト(クラウド利用や社外アクセスを前提としたセキュリティ対策)ベースで使う基盤ができつつあるので、そこから自治体にも広がっていくという見通しを持っています。
渋谷 市民参加を促すうえでの生成AI活用の可能性についてはどのように感じていらっしゃいますか。
木村 台湾で生成AIを先行して利用している自治体があります。入電情報を基に市民からどのような問い合わせがあるかをデータ化し、そこから課題に優先度をつけて施策に反映させています。
浪江 スマートシティを持続的に進めていくためには何が大事でしょうか。
南雲 これまでの経験から感じる、スマートシティをうまく進めていくためのポイントは、地形的な境界が明確で運命共同体意識があること、経済合理性を超えてでもまちに尽くしたいと考える「旦那衆」とでもいうべき人たちが大人の部活動的にまちづくりに関わっていること、地域が元気になるWell-Beingの因子を見つけることなどです。 Well-Beingの因子と結びつかないテクノロジーの実装を急ぐと、実効性があがらないだけでなく、デジタルツールのランニングコストが無駄にかかる結果となる傾向があります。まずは市民にとってのWell-Beingの因子が何かから考えてほしいと思います。
浪江 政策を考えていくうえでの生成AIの活用のポイントを教えていただけますか。
木村 まずは、その地域でどのようなビジョンを掲げどのようなアウトカムを出したいのかを明確にすることが重要です。そのうえで生成AI を手段として上手に活用してほしいと思います。NTT西日本とパートナーシップを結んでの自治体向けワークショップも定期的に開催しています。
浪江 NTT西日本では地方分散化社会の実現をテーマにスマートシティの取り組みをサポートしています。ベースとなるデータ連携基盤やサービスを導入しながら、地域創生Coデザイン研究所と連携し、戦略、ルール作成についてもサポートしていきたいと考えています。
渋谷 皆さまと共創しながらWell-Beingな社会を創っていきたいと思います。
カレッジに参加した
自治体首長・担当者の声
福岡県東峰村 村長 眞田 秀樹氏
── カレッジに参加した理由についてお聞かせください。
眞田 NTT西日本とICT連携協定を結びデジタル化に取り組むなかでWell-Being というキーワードを聞くようになり、それについて深く知ろうと思い参加しました。役場の職員は50人と少ない。生成AIについてはネガティブなイメージを持っていましたが、今日の話を聞いて生成AIを活用しながら、業務の効率化も進めていきたいと考えています。
福岡県嘉麻市デジタル戦略課 課長補佐兼デジタル戦略係長 古賀 義宏氏
── 今後どのようにスマートシティの取り組みを進めていきたいとお考えでしょうか。
古賀 現在、当市ではデジタル推進計画を策定しているところです。
市民の皆さま、審議会、関係各所よりさまざまなご意見をいただき、「誰一人取り残されない」の理念を基礎として、本市が誇るべき、豊かな自然や伝統、歴史、文化といった数多くの資産を強みとし、デジタル技術を活用してさらに魅力あるものにすることを念頭におき、「デジタル・人・自然が融合するまち、嘉麻。」を実現していくこととしています。
この計画を基に、嘉麻市長が掲げる日本有数のデジタル先進地方都市をめざし、スマートシティの取り組みを推進していきます。
福岡県福智町総務課DX推進係 係長 村上 慶孝氏
── カレッジに参加した感想についてお聞かせください。
村上 町民の満足度が高く、住み心地の良いWell-Beingな町をめざしたいという思いを改めて強くしました。また今後のスマートシティの取り組みについて、町では『DXで、もっと快適、効率的に。~ サービス・システム・スキルの向上 ~』をめざす姿として掲げています。セキュリティリスク、デジタル格差、財源の調達など課題は多いですが、『役場に行かなくても手続きができる窓口』の構築を進めていきたいです。
デジタル化を推進、
市民の幸福感を測定し高める
基調講演では、「市民の幸福感を高めるまちづくりの思想」をテーマに、南雲氏が話した。
世界におけるスマートシティは人口がますます集中する都市部が抱える課題に対しテクノロジーをどう使うかという文脈で語られるが、日本では逆で、人手不足を解決する文脈で進められている。データ連携基盤を置き、そのうえに観光、ヘルスケア、防災など複数のテクノロジーソリューションを実装するモデルやそのノウハウの形式知化は、ほぼ終わっており、今はそれを実装し、横展開するフェーズに入っている。
南雲氏は、そのなかで近年注目されているのが「Well-Being(心の豊かな暮らし)」というキーワードだと指摘する。これは、デジタル田園都市国家構想の3本柱の1つにも掲げられている。つまり、デジタル化した結果、幸せになるか、暮らしが良くなるか、生活の質が上がるのか、が問われているのだ。
世界保健機関(WHO)は「Well-Being」を「身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること」と定義している。また、健康の社会的決定要因として「個人または集団の健康状態に違いをもたらす経済的、社会的状況のこと」とも述べている。個人の内面だけでなく、住んでいる地域の人間関係や生活環境が変わらないと幸せは実現できないということだ。
これらのことをふまえ、南雲氏らはスマートシティの施策が、客観的幸福(所得額、出生率、労働時間などの客観的データに基づくもの)、主観的幸福(満足度や感情・思考に関するもの。アンケート調査が主な手法)につながっているかを測る「Well-Being指標」をつくった。
例えば、交通施策で、自動運転のバスを導入したときに、渋滞が解消された、移動がしやすくなったという客観データをもとに、好きなときに好きなところに移動できているかを問う。そして「地域の暮らしで満足していますか」、という問いへの回答を計測し、これらが整合的につながっていることが統計的に証明されれば、政策は当たっているということになる。
かつてはまちづくりを行った後に、市民に対して幸せかと問うていた。データが取れるようになった現在、まずWell-Beingの因子を見つけ出してから、それに合うような政策をつくる「Well-Being by Design」というアプローチに変わりつつある。
南雲氏は、2023年、8万5000人を対象に幸福度、生活満足度の調査を行った。その結果、幸福度については、健康状態、自己効力感、公共空間、教育機会の豊かさ、地域とのつながり、多様性と寛容性が、生活満足度では、公共空間、教育機会の豊かさ、地域行政、事故・犯罪、事業創造が上位に挙がった。これらに合う施策を考えていけばよいということだ。ただ、地域の中でもエリアによってその優先順位は異なる。そこで私たちは、市民が政策作りにかかわれるよう、データからまちを俯瞰し、その中から重要なフォーカス領域を導き出し、政策に落とし込むOASIS(オアシス)研修(下図)を各地で行っているところだ。
OASIS 研修の基本設計(5つの標準ステップ)
幸福度調査については、1741の基礎自治体ごとに結果を公開している。「誰もが見られるようになっているのでぜひ調べて、施策づくりに生かしてほしい」と南雲氏は呼びかけた。
生成AIを活用
より複雑な仕事に注力
特別講演では、「生成AIを活用した自治体の働き方改革」と題して、木村 氏が事例を紹介した。
生成AIの最大の特徴はプロンプト(ユーザが入力する指示や質問のこと)にあると木村氏はいう。特殊なプログラミングやデータサイエンスなどの知識がなくとも、自然言語によるチャットのようなやりとりでデータを呼び出してさまざまなタスクができるようになった。1億ユーザーを達成するのに、Instagramは30日、TikTokは9日を要したが、ChatGPTはわずかに2日だったところにインパクトの大きさが表れている。企業の意思決定者の83%が「今年のAI支出を増やすと決定している」と述べている。
「マイクロソフトは、ChatGPTを開発したオープンAI社と独占的かつ戦略的なパートナーシップを結んでおり、2023年2月にクラウド上で利用可能なサービス『Azure OpenAI service』をリリース、2300社にご利用いただいています」と木村氏は紹介した。このサービスは国内のデータセンターの閉じた環境で処理を実施しており、データガバナンスやセキュリティも担保。生成した著作物は、著作権の侵害の心配なく利用できる。
マイクロソフトのサティア ナデラCEOは「マイクロソフトはあなたの仕事をサポートするAIの副操縦士 =コパイロットになる」と述べている。つまり操縦士である人の横でさまざまな仕事の手伝いをするということだ。自然言語でワード文書やパワーポイントのプレゼン資料の作成、要約ができるし、プログラミングやローコード開発もできる。エクセルにまとめたアンケート結果を分析し、改善点の提案までしてくれる。会議の要約をしてくれるだけでなく、次に起こすアクションも提示する。さらに、マイクロソフトのさまざまなアプリケーションを1つのクラウドのプラットフォームで使うと、AIはより品質のよい回答を出すようになる。
「ルーティンになっている作業はどんどん生成AIに任せて、人でしかできない仕事ができるようサポートしていきたい」と木村氏は話す。実際に導入した事業所のうち77%は「業務に不可欠」、70%が「生産性向上を実感」、68%が「仕事の質が改善した」と答えている。
生成AIは、定型的な業務フローが多く、顧客や住民からの問い合わせが多い金融機関や自治体の仕事との相性がいい。デジタル庁の河野大臣も強いリーダーシップで生成AIの活用のあり方について検討を進めている。神戸市は、AIの活用などに関する条例を制定し、東京都は文章生成AI利活用ガイドラインを策定している。大阪府とはAI の利活用推進に向けた事業連携協定を結び、活用を後押ししている。
また、NTT西日本とパートナーシップを結んで、生成AIについてもアライアンスを組んでいる。NTT西日本は、自治体の生成AI利活用に資する導入コンサル・お客さま環境構築支援・テキスト生成AIサービスをリリースしており、約50件の案件が進行中だ。実際のユースケースとしては、チャットボットによる問い合わせ対応、政策文書の要約、政策提言の作成などが考えられる。「今後、公共分野におけるユースケースというのがどんどん出てくるはずです。パートナーさまとともに発信し、自治体における生成AIの普及に努めていきたい」と同氏は展望を語った。
イベント当日は、「LWC指標を活用したOASIS研修」の他、「地域オペレーション・音声アシスタントサービス」「デジタル地域通貨・ポイント」など、地域創生Coデザイン研究所をはじめとしたNTT西日本グループ各社によるスマートシティ実現を支援する各種事例・ソリューション展示も行われ、参加者は熱心に聞き入っていた。
お問い合わせ
株式会社地域創生Coデザイン研究所
地域創生Coデザインカレッジ
こでざと事務局
MAIL:codezato-inquiry@west.ntt.co.jp
URL:https://codips.jp/college/
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