産学官で住民が主役のまちづくり NTT西・熊本スマートシティ
NTT西日本による地域活性化推進活動の一例が、熊本スマートシティ構想の推進だ。産学官連携で協議会等を通じて、住民参画を促す多様なサービスの創出を目指すとともに、地域企業のDX支援や産業振興も図っていく。
人口減少や社会インフラの老朽化、自然災害の多発など、さまざまな地域課題が顕在化する中、ICT技術を街全体で活用するスマートシティの取り組みが広がっている。地域課題は医療、交通、防災など複数分野にまたがることが多いため、これらの課題解決には、都市に存在する膨大なデータを蓄積・分析し、他の自治体や企業、研究機関と連携するためのプラットフォーム「都市OS」の整備が重要となる。
うした中、NTT西日本が地域活性化推進活動の一環として推進しているのが「熊本市スマートシティ構想」だ。これは熊本商工会議所と熊本経済同友会が2018年1月に発表した「熊本市中心市街地グランドデザイン2050」に端を発する。当面10年間に取り組むプロジェクトについて提言を行うための組織として設置された産官学連携のワーキンググループに、地域の中核企業としてNTT西日本も参画。地域のデータ収集・活用、地域企業のDX支援、産業振興などを通じ、地域活性化に貢献していく考えだ。
「熊本城を有する中心市街地は城下町として発展し、熊本の政治・経済を牽引してきました。そうした地域の歴史・文化・自然の魅力を活かすと同時に、若い世代が生き生きと活動する生活基盤を整えることで、住民が自慢できる城下町都市を実現したいと思っています」と熊本支店長の朝倉順治氏は話す。
この取り組みを加速するため、今年10月、熊本市「スマートシティくまもと推進官民連携協議会」が設置された。今後は協議会を通じて産官学の連携により地域課題の解決に向けた事業案を具体的に検討し、住民参画を促す多様なサービス創出に向けた取組みをおこなう考えだ。
住民が主役のまちづくりを
「協議会」を通じて実現へ
全国各地でスマートシティの実証実験が行われているが、熊本市におけるスマートシティの取り組みは社会実装の段階に移るべき時機にある、と朝倉氏は力を込める。
「幅広いステークホルダーに参加してもらい、ICTやデータを活用しながら全体最適化が図られる持続可能なまちづくりを目指していくことが重要です。新たに設置された協議会を通じ、より多くの行政や産業界が連携し最先端技術やデータ、経営資源を持ち寄ることで、さまざまな地域課題を解決すると同時に、消費行動を喚起する取り組みが一層進められるものと考えています」
さらに朝倉氏は、住民が自慢できる城下町都市を実現するためには、住民が主役の、住民によるまちづくりを進める必要があると強調する。
「議決した内容をただ報告するだけの会議のように、一部の人しか発言できない雰囲気のままでは、誰も使わないサービスが創出されるだけでしょう。協議会の発足は、住民から直接困りごとやニーズを聞く機会を持ち、住民目線で使い勝手などを議論することも必要だと考えています」
まずは住民や企業と意識合わせをする場を設け、地域の「らしさ」を活かしたまちづくりを進めていくという。また、ノウハウがないためにデジタル化の取り組みに課題を持つ地域企業は多い。地域創生Coデザイン研究所担当部長の渋谷勝也氏は、「地域が持つデータやアセットを、都市OSを介して付加価値の高いサービスに置き換えていくには、異なる業界・業種のデータをどう連携させ活用していくか、スマートシティにどうつなげていくかを議論することも必要です。そのため、業界・業種ごとに異なるデジタル化の状況を踏まえ、自治体や地域企業のDX推進の支援をしていきたいと考えています」と語る。
社会課題解決+体験価値提供で
中心市街地活性化
すでに熊本市では、交通・消費、防災、エネルギーなどの分野別に、データ利活用を通じた地域課題解決に関する取り組みが進められている。
なかでも、中心市街地活性化の一環として熊本商工会議所と事業構想大学院大学教授・Psychic VR Lab COOの渡邊信彦氏と協働で検討を進めているのが、「全国都市緑化くまもとフェア」(2022年3月~5月)に合わせたXRを用いた企画だ。緑化フェアだけでは伝え切れない熊本や中心市街地の魅力を、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのXR技術を使って発信する。たとえば、子どもが描いたくまモンの絵を花と融合したデジタルアートにしたり、歴史を辿って会場や中心市街地を周遊する謎解きツアーを提供するなど、ワクワクする仕掛けが多数検討されている。
図 共創DX社会の実現に向けたアプローチ
「一般的にスマートシティと言うと、防災やMaaS(次世代移動サービス)といった社会課題の解決に直結した取り組みが中心ですが、それだけでは住民主体の持続可能なまちづくりにはつながらないでしょう。XRを用いた企画のように、デジタルを活用して若者が参加したくなるような体験価値を提供し、まちに賑わいを創出すると同時に、産業振興やデジタル人材育成にも役立てることで、リアル空間とサイバー空間が共存できる世界をつくりたいと考えています」と朝倉氏は話す。
後に渋谷氏は「スマートシティを実現するためには地域の特長を活かしたビジョンを持ち、住民が主体となって取り組んでいくことが重要です。今後、地域創生Coデザイン研究所では、スマートシティを始めとした西日本30府県での地域活性化推進活動のノウハウを活かし、他の地域でも住民が主役となる街づくりの支援をしていきたいと考えています」と抱負を語った。
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