AIは将棋研究に役立つだけでなく、将棋の新たな楽しみ方を提示した

千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」で2023年6月1日、将棋棋士の藤井聡太氏と、将棋 AI「Ponanza」開発者でTuring社CEOの山本一成氏が対談。AIが人生や将棋に与えた影響などについて語り合った。

将棋棋士の藤井聡太氏(左)と、Turing株式会社CEOの山本一成氏(右)。今回初対面だったが、将棋とAIという強い共通点によってすぐに打ち解け、終始和やかな雰囲気で対談は進んだ

藤井氏は2016年頃から
AIを将棋の研究に活用

藤井氏は2023年5月28日、第8期叡王戦で「叡王」のタイトル防衛に成功した。今回の対談はこれを記念し、「未来への挑戦、AI が人生に与えた影響とは」をテーマに、三井不動産の主催により行われた。藤井氏はさらに、6月1日に第81期 「名人戦」ヘ初挑戦し、「名人」を獲得と同時に、最年少で七冠を達成している。

一方、山本氏は、2017年に「名人」を倒した将棋AI・「Ponanza」(ポナンザ)の開発者。現在は、完全自動運転の電気自動車(EV)量産を目指すスタートアップ、Turingを経営している。同社が拠点とし、今回の対談場所にもなった「柏の葉スマートシティ」(千葉県柏市)は、環境共生・健康長寿・新産業創造をテーマに公民学が連携し、「世界の未来像をつくる街」を掲げ、先進的なまちづくりに取り組んでいることが特徴だ。

山本氏は元々将棋好きで、大学時代は東京大学の将棋部に所属。大学ではプログラミングやAIについて学び、将棋AIの開発を始めた。一方、2016年頃から将棋の研究にAIを活用するようになったという藤井氏は、「AIは局面の評価値を数値で判断してくれるので、それを参考にして自分自身の形勢判断の力を伸ばせたと思います」と語った。

山本氏は自身が開発したPonanzaが、「名人」の棋士を倒せる程の強さを備えたことについて「Ponanzaは、Ponanza同士の対戦による何十億もの棋譜によって、自分で賢くなっていきます。その結果、まだ人間が知らなかった手筋や戦法を見つけ、すごく強くなりました」と説明した。

AIにより、棋士の最高峰の
戦いを誰でも観戦可能に

世界では現在、EVや自動運転の分野で非常に多くのプレーヤーがスタートアップとして活動している。しかし、国内にはそのようなプレーヤーが少なく、「私がやらなければと思いました」と山本氏は言う。「自動運転に限らず、実際に車を作って量産するという一昔前は不可能と思えたようなことも、現代のスタートアップの技術や色々なものを使えば可能だと思い、この事業を始めました」(山本氏)

対談に続く質疑応答では、藤井氏はAIを使う頻度について問われ、「愛知県に住んでいて他の棋士の方と直接お会いして指す頻度が少ないこともあり、普段はAIを活用した勉強がメインになっています」と回答。

また、山本氏はAIを活用して将棋の評価値を観戦画面に出せるようになったことについて、「野球のようにスコアが見える世界になり、誰でも棋士の最高峰の戦いを観戦できるようになりました」と解説。藤井氏も、それによって「将棋ファンの層がすごく拡がったと実感しています」と語り、AIが将棋の世界に与えた影響を評価した。