Web3.0は社会を変えるか 新規事業のチャンスを分析

ブロックチェーン技術によって実現する次世代インターネット「Web3.0」が注目されている。Web3.0は単なるバズワードで終わるのか、それともビジネスと社会を一変させるのか。その要素技術や注目のキーワード、政府・自民党のWeb3.0に関する動きを解説する。

ブロックチェーン技術を基盤とした分散型インターネット「Web3.0」は、デジタル経済圏の姿を大きく変える可能性を持つ(写真はイメージ)

Web3.0とは何か

Web3.0(ウェブスリー)とは何か。その明確な定義はないが、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型インターネットの姿を指す言葉として使われることが多い。Web1.0(電子メールとウェブサイトの世界)、Web2.0(スマートフォン・SNSの世界)に続くWeb3.0は、現在のGAFAMなどの大手プラットフォーマーが情報やユーザーを囲い込むWeb2.0時代のデジタル経済の構造が根本から覆され、個⼈がデータ主導権を取り戻すことができる。そして特定のプラットフォームに依存することなく、自立したユーザーが直接相互につながる新たなデジタル経済圏が構築されると考えられている。

Web3.0を生み出す背景にあるものが、ブロックチェーンとメタバースなどのXR技術である。データを分散化・暗号化できる技術や、デジタル空間を組成する技術が確立されたことで、インターネット上でもトークンによりデジタルコンテンツの資産性が担保され、これまで無償だったデジタル上の活動でユーザーが“稼ぐ”ことも可能になる。さらにXRなどによる体験価値の向上で、インターネット上にトークンと紐づいた新たなコミュニティが生まれてくる。

Web3.0の特徴のひとつが、ユーザーとサービスの関係性の変化だ。日本総合研究所創発戦略センターマネジャーの中村恭一郎氏は、Web3.0によって「Webサービスのユーザーになると同時に、自ら望めば、そのサービスの開発や運営に参加する道が開かれている」「参加方法として、出資など金銭的な方法だけでなく、アイデアの提供やサービス運営のサポートなど非金銭的な方法も選択できる」「参加し、貢献した対価として、金銭や運営(ガバナンス)に関与する権利など、何らかのインセンティブを得られるようになる」と、ユーザーに3つの変化が起きると指摘している(2022年5月11日「Web3.0は何を変えるのか」)。個々のユーザーが持つクリエイティビティやスキルを活かし、サービスに主体的に関与することで関係性の強固なデジタル経済圏や、新しい組織ガバナンスやプロジェクト遂行の形が生まれると考えられる。

図 Web1.0からWeb3.0への進化

出典:2022年3月、自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PT「NFTホワイトペーパー(案)~Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略~」よりATカーニー提出資料

Web3.0を支える技術と
キーワード

Web3.0の基盤となるブロックチェーン技術にはNFTやDeFiなどが存在する。関連する技術やキーワードを紹介する。

▶NFT

NFT(Non-Fungible Token:⾮代替性トークン)とは、デジタルコンテンツの所有状態を改ざんが困難なブロックチェーン上に記録し、発⾏される権利の証明書(トークン)のこと。半永続的に権利を証明することができ、NFTを売買することも可能である。

2020年に400億円弱だったNFTの市場規模は、2021年に4.7兆円以上とわずか1年で100倍超に成長した(Chainalysis社レポートによる)。ゲームをプレイしながら仮想通貨を稼ぐことができるNFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)も多数登場している。

日本でも2021年にデジタルアートを中心にNFTプラットフォームが続々と立ち上がった。例えばLINEは今年4月からNFT総合マーケットプレイス「LINE NFT」のサービスを開始した。吉本興業やテレビ朝日など17のコンテンツホルダーと連携し、エンターテインメントやスポーツ、ゲーム、アーティスト、アニメなどの7ジャンルで100種類以上の NFTを順次販売する。今後はソフトバンクと連携した動画NFTの取り扱いや、ZOZOとのファッション領域におけるNFTの協業も検討しているという。

LINEは2022年にNFT総合マーケットプレイス「LINE NFT」をスタート。
吉本興業などと連携してNFTコンテンツを提供している

集英社は2021年3月に新事業「集英社マンガアートヘリテージ」を開始。
ブロックチェーンNFT証明書発行サービスを採用している

このほか、メルカリはプロ野球パ・リーグ6球団が合弁で設立したパシフィックリーグマーケティングと共に、パ・リーグの名場面やメモリアルシーンをコレクションできる「パ・リーグ Exciting Moments β」の提供を開始した。

日本は漫画やアニメ、ゲームなど国際的競争力を有する知的財産を持つため、NFTビジネスで世界をリードする大きなポテンシャルを秘めている。ただし日本の既存のNFTプラットフォームは暗号資産・パブリックチェーン上での直接取引に対応していないケースが多く、国際化という面で課題を抱えている。

NFTはコンテンツ領域だけでなく、不動産や教育、観光、行政など幅広い分野に活用できると見込まれている。

国内でのユニークな事例が、新潟県長岡市山古志地域におけるNFTの発行だ。旧山古志村は世界中に愛好家が増えている「錦鯉」発祥の地だが、2004年の新潟県中越地震以降、人口減少と高齢化が加速し消滅の危機にある。長岡市公認のもと山古志住民会議が発行したNFT「Colored Carp」は、錦鯉をシンボルにしたデジタルアートであると同時に、電子住民票も兼ねている。世界中のNFT購入者はブロックチェーン上に可視化され、グローバルなデジタル関係人口が生まれ、NFTの販売益をベースに山古志地域に必要なプロジェクトや課題解決を独自財源で押し進めることが可能になる。地域再生へのアイデアや事業プランをデジタル住民専用のコミュニティチャット内で展開し、メンバーからの意見の集約や投票など、民主的な手法を取り入れた地域づくりを目指すという。将来的には、NFT購入者が滞在できるレジデンスの建設や特別な体験提供など、デジタル住民向けのリアルサービス開発も進める方針だ。

▶DeFi

DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)とは、ブロックチェーンを活用することで金融事業から運営者を排除した、非中央集権型金融システムを指す。

特徴は大きく3つある。まず、サービス開発の手軽さだ。全てのサービスは共通基盤で統一され相互互換性があるため、自前で作り込まず他のサービスに接続することで簡単に機能を拡張することができる。また、全てのDeFiサービスは「スマートコントラクト」と呼ばれる自動実行プログラムによって構築されるため、人手を介することなく金融サービスが瞬間的に自動実行されることも特徴だ。そして3つ目がアクセシビリティの向上だ。本人確認や審査が不要で、インターネットを通じて誰でもどこからでも金融サービスへアクセスが可能である。

DeFiサービスとしては、異なる暗号資産を交換できる分散型取引所や、暗号資産のレンディングサービスなどが存在する。2021年の市場規模は11兆円と言われ、前年から5倍の成長となった。

2021年6月には日本でのDeFi普及を目的に一般社団法人 Japan DeFi Associationが設立されており、今後、さまざまな分野で金融サービスとの接続が期待されている。例えばtechtec社は教育・金融分野でのブロックチェーン活用を進めている。同社のeラーニングサービス「PoL(ポル)」は、学習データをブロックチェーンに記録することで、学習者ごとの学習履歴を改ざん困難な状態で学習者自らが管理することができる。さらに、この学習履歴をDeFiと接続することで、「学習するほど金融サービスを享受できやすくなるサービス」の実装を目指すという。

▶DAO

DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)とは、NFTや暗号資産をコミュニティの会員証明や報酬に利用することで、コミュニティのミッションや志に賛同する多様なステークホルダーが参加可能な、新しい組織ガバナンスやプロジェクト遂行の形を指す。多くのDAOではガバナンストークンが発行・配布され、DAOの意思決定に投票することができ、株主や経営者が必ずしも存在しなくても、透明性が高く公平な組織運営を行うことができるとされる。ガバナンストークンは組織への貢献度によって付与されることが多い。

DAO(分散型自律組織)のカオスマップ。サービス開発やメディア、
教育など多様な目的でDAOが立ち上がっている
出典:steventey / DAO Central

トークン開発やメディア制作、資金調達、インターネットサービス開発、教育など様々な目的を掲げたDAOが世界中で立ち上がっており、自分好みのDAOを探せるウェブサービスも存在する。

日本国内での事例のひとつが「Ninja DAO」だ。IP(知的財産)ビジネスを目指してアニメPV化やブロックチェーンゲーム化を展開している日本発のNFTコレクション「CryptoNinja」が運営するコミュニティであり、現在17,000人を超える国内最大規模のコミュニティを形成している。クリエイターやマーケター、プランナーなど様々な専門的な見地から「CryptoNinja」のIP活用に関する研究が進められているという。

また、マサチューセッツ工科大学メディアラボの元所長である伊藤穰一氏が主宰するWeb3.0コミュニティ「Henkaku」もDAOの一種と言える。「Henkaku」はプロジェクトベースでWeb3.0について学ぶ学習コミュニティであり、コミュニティ内のWEB開発プロジェクトなどに貢献したメンバーに対して金銭的価値のないソーシャルトークンを発行している。トークン流通によって学習や開発のモチベーションを高める仕組みであり、DAOの可能性に一石を投じるプロジェクトである。

伊藤穰一氏が主宰するWeb3.0学習コミュニティ「Henkaku」は、
メンバーに対して金銭的価値のないソーシャルトークンを発行

このほか、未来を担う表現者のNFTプロジェクトの支援・育成を目的とした活動団体「TNZ NFT DAO」が立ち上がり、博報堂グループや寺田倉庫などの異業種が参画するなど、日本でもDAOは盛り上がりを見せている。

▶メタバース

メタバース(Metaverse)とは仮想現実空間を利用し、ユーザー同士のコミュニケーションや現実さながらの生活を可能にする世界を指す。XR技術の進化や、クラウドや大容量通信の普及によって仮想現実が利用しやすくなったことに加えて、ブロックチェーン技術を活用したNFTの登場によってデジタル資産の透明性や流通性が向上したことなどにより、メタバースとWeb3.0がセットで語られるケースが多くなっている。メタバースはユーザーコミュニティの存在感が高く、クリエイターがコンテンツを自由に開発できるケースが多いため、NFTやDAOとの相性が良いと考えられる。

メタバースには多額の投資が集中。大規模VRイベントの主催やVRコンテンツ開発エンジンの開発を手掛けるHIKKYはNTTドコモなどから70億円を調達

海外ではIT業界やゲーム業界の大手企業が相次いでメタバースに参入、日本でもソニーがメタバースに大型投資を行っているほか、通信キャリアや電機メーカーがデバイスやサービスの開発を進めている。日本のスタートアップでは、世界最大級のVRイベントを主催し、VRコンテンツ開発エンジンも開発するHIKKYが注目されている。同社はシリーズAでNTTドコモなどから総額70億円を調達している。調査会社のEmergen Researchは、メタバースの世界市場規模は2028年に8280億ドル(106兆円)に達すると予測している。

現在のメタバースはVRゲームやIP主導のコンテンツだが、今後はNFTやDAOを活用したWeb3.0ベースのメタバースが成長すると考えられる。個人がクリエイティビティを発揮して活躍する新たなメタバース経済圏の確立が期待される。

政府・自民党の動き

自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PT(平将明座長)は3月30日に「NFTホワイトペーパー(案)~Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略~」をとりまとめ、4月21日には岸田文雄総理に対し、PT中心メンバーである平井卓也議員(前デジタル大臣)と平議員がホワイトペーパーや日本のWeb3.0戦略に関する説明を行っている。

ホワイトペーパーでは「Web3.0時代の到来は日本にとって大きなチャンスだが、今のままでは必ず乗り遅れる」とし、NFTビジネスの推進を新しい資本主義の成長戦略の柱に据えることや、イノベーションを推進するために社会基盤やルールを直ちに整備することを求めた。具体的には、①Web3.0時代を見据えた国家戦略の策定・推進体制の構築、②NFTビジネス発展に必要な施策、③コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策、④利用者保護に必要な施策、⑤ブロックチェーンエコシステムの健全な育成に必要な施策、⑥社会的法益の保護に必要な施策、という6つのテーマについて課題整理と提言を行っている。

NFTを巡っては、ランダム型販売と二次流通市場を組み合わせたNFTビジネスの賭博罪該当性が懸念されていたり、スポーツ・エンタメ業界などでNFTの二次流通にかかるロイヤリティ収受の権利関係の整理が十分にされていないなどの課題がある。

また、自社発行の保有トークンに対する時価評価課税の負担が非常に重く、ブロックチェーン・NFT領域の優秀な起業家やエンジニアが海外流出しているという問題もある。一方、NFTがマネーロンダリングやテロ資金の供与に利用されないために、本人確認義務など防止のための規制や仕組みを早急に構築することも求められる。

ブロックチェーンやDeFiの業界団体も政策提言を行っている。今年3月には一般社団法人DeFi協会とブロックチェーン推進協会が共同で『日本社会のWeb3.0開国にむけたステーブルコインに関する提言』を公表、税務会計上常に1円で計算できる円ステーブルコインの普及や、法人のトークン発行による資金調達時の年度末含み益課税問題の解決、Web3.0の国家成長戦略への重点施策化とWeb3.0特区の設置を提言した。

これまで見てきたようにWeb3.0は有望なビジネス領域だが、市場の健全な発展のためにはビジネス環境の整備や権利者・利用者の保護、犯罪防止のための規制等が必要であり、政府の早急な取り組みが求められている。