住民・企業に寄り添う自治体の電子契約/デジタル文書活用

行政手続きのオンライン化を進めていく手法や、円滑な導入に必要なツールについて、自治体DXの専門家と電子サインを提供しているアドビ、ITシステムの開発・提供と導入・運用支援を行う京都電子計算の担当者が、実務に役立つソリューションの知識や導入のポイントを議論した。

左から、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会代表理事(直方市 DX推進本部 CIO補佐官)の森戸 裕一氏、アドビ株式会社デジタルメディア事業統括本部 営業戦略部 ビジネスデベロップメントマネージャーの岩松 健史氏、京都電子計算株式会社企画営業本部営業部部長の竹内 有一氏

住民の利便性向上と
行政の業務改革を両輪で

地域情報化アドバイザーとして全国20以上の自治体のデジタル化(DX)を支援している一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会代表理事(直方市 DX推進本部 CIO補佐官)の森戸裕一氏は、まず「自治体の職員の方々が地域課題と向き合う時間をつくるために、行政手続き、窓口手続きをオンライン化もしくは簡素化していくことが重要。まず身近なところから脱ハンコ、ペーパーレス化」と述べ、トークセッションを開始した。

中でも脱ハンコについては、マイナンバーカードをいかに組み込むかがポイント。その普及に向けては、住民の利便性の向上、行政運営の簡素化・効率化などのメリットを説明しながら情報公開していくことが必要だと述べた。

一方で、行政手続きのオンライン化の障壁である書面、押印、対面規制の撤廃に向けては、そもそも申請自体を不要にできないか、申請しないとどうなるのか、認印などのハンコを使わずともサインもしくはマイナンバーカードで本人確認できれば済むのではないか、と根本を問う姿勢を強調した。事例として、3904件における押印廃止対象の様式を公開した福岡市の取り組みを紹介した。

福岡市では、業務改革を行うにあたって一人ひとりの業務を書き出し、無駄な業務を見直したうえで、AI、ロボティック プロセス オートメーション(RPA)を導入した、という経緯を解説し、「そうすることで新たに生み出された時間を住民との接点、本当に困っている方々に寄り添うことに充て、そのうえで住民視点でのサービス提供のために押印をどう減らすか、本人確認の認証をどう進めていくのかを検討していったのです」と続けた。

Adobe Acrobat Signを
活用したソリューション

続いてアドビ株式会社デジタルメディア事業統括本部 営業戦略部 ビジネスデベロップメントマネージャーの岩松健史氏が、デジタルドキュメントの活用による自治体業務を効率化について説明した。自治体における紙の業務のデジタル化については①調達・入札などの契約業務②住民、企業からの申請業務③行政機関からの認可や認定、3つに分けられるとし、それぞれのソリューションを紹介。

①では、民間の事例となるが、電子化による業務効率化の事例として、ソニー銀行における住宅ローンの電子化の結果、契約取り交わしのプロセスが従前の1~2週間から即日に短縮できたほか、実印・印鑑証明書が不要となり、最大で6万円要していた印紙税も課せられないというメリットを示した。

②については、Adobe Acrobat SignのWebホーム機能を活用したソリューションを紹介。申請書の様式を作成し、これをWeb上でリンクを貼ることで利用者が入力でき、署名についてもキーボードで入力できる。メールアドレスを入力してもらうことで、後で確認メールを送り、リンクをクリックしてから申請を受け付けることもできるほか、マイナンバーカードや免許証の写真を貼り付けることもできる。

③については、認可証発行の際、企業から認可申請があった場合に、行政担当者が業務システム上で許可すると、システム上でAcrobat Signを呼び出して、証書を自動で発行。行政担当者が必要な政府認証基盤(GPKI)、地方公共団体組織認証基盤(LGPKI)などの電子証明を付与して返し、署名をしてもらうことができる流れを紹介した。「最後にドキュメントに封印シールを貼って、以後一切改ざんができない形にしてドキュメントを最終化し、申請者に返すことができます」メリットについて触れた。

LGWAN-ASPに
Adobe Acrobat Signを追加

最後に京都電子計算株式会社企画営業本部営業部部長の竹内有一氏が登壇した。自治体では三層分離の環境下で、インターネット上で提供されているクラウドサービスを業務運用に利用することが難しい状況にある。京都電子計算ではインターネット上で展開されている様々な先進的な技術やパッケージ、クラウドサービスを、LGWAN経由で自治体にLGWAN-ASPサービスとして提供するCloud PARK事業を展開しており、AI手書き文字認識サービスをはじめ計6サービスを提供し、自治体向けパッケージおよびクラウドサービス利用をあわせ、全国640自治体に採用された実績を持つ。

このCloud PARKで提供するサービスラインナップにAdobe Acrobat Signを追加した。これに伴い自治体からαモデルの環境で通常業務をしているLGWAN端末から契約書などの電子書類のやり取りや電子契約が可能となり、契約業務の電子化に活用できる。Adobe Acrobat Signは、マイクロソフト製品をはじめ、他社システムと柔軟に連携することが可能だ。これにより「契約業務一連の流れを電子化するために大規模なシステムを導入することなく、ローコード・ノーコードのサービスで実現することも可能になる」と述べた。Adobe Acrobat Signは、年内に提供予定だという。

続いてディスカッションが行われ、まず自治体の立場を代表して森戸氏が、サービスの導入検討から運用開始まで期間について尋ねたのに対し、アドビの岩松氏は「導入や運用の要件にもよりますが、過去の実績では、標準機能の利用だけであれば、約1 週間程度、電子化にあたって事務処理規定等を作るとなると1カ月、システム構築が伴う場合は2~3カ月程度といった導入期間になると思います。もちろん、大きなシステムの改編の中で、契約の電子化を組み込むとなると、システム全体の構築に半年~1年がかかる場合もあります」と回答。導入前に実証実験ができるのかという質問には、アドビ、京都電子計算共に実証実験の機会を提供し、「事前に使っていいただいてから本契約する流れです」と京都電子計算の竹内氏が回答した。

続いて岩松氏からの「LGPKIの職責証明書を付けて署名を行うやり取りが本当に必要なのか」との質問に対し、森戸氏は、自治体によって考え方は異なるという前提のもと「LGPKIと民間公開鍵基盤(PKI)を使うケースで判断が分かれるが、京都電子計算のシステムのようにLGWANの中に認証局を置いて全てを完結しておけばその議論にならない。そのための検討の協力もしたい」と述べた。

京都電子計算の竹内氏からは「自治体にとってLGWAN-ASPを利用するメリットについてどう思うか」との質問に対し森戸氏は「地域住民には『便利な一方で怖い』という意識はあるので、自治体の内部統制も含めセキュアな環境を作るかが重要。それができれば庁内DXが進んだといえるでしょう」と述べた。

 

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