過疎・島嶼地域の水課題を解決 ソフトバンク×利島村

過疎地や島嶼部を中心に、自治体の水インフラは財政面で深刻な課題を抱えている。ソフトバンクは水インフラの財政赤字に悩む東京都利島村と連携し、住宅から出る生活排水を100%近く再生可能にする「小規模分散型水循環システム」を活用した新たな水インフラの検証を開始した。

村山将人 利島村長(左)、
河本亮 ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部 第一ビジネスエンジニアリング統括部 統括部長(右)

造水コストは水道料金の14倍

東京から南に約140kmに位置し、面積4.04km2、人口約300人の小さな島である利島村。この島の水問題の解決に向けて、ソフトバンクなど民間3社と利島村は、「小規模分散型水循環システム」を搭載して給水を自給できる「オフグリッド居住モジュール」の実証を開始した。全国初の取り組みに大きな注目が集まっている。

利島村で実証中の「オフグリッド居住モジュール」

 

「小規模分散型水循環システム」のイメージ

利島村の村山将人村長は、島の水課題について次のように説明する。「利島村は円錐型の形状になっており急こう配で平地が少ない島のため、雨水を貯める能力が乏しく、何度も水飢饉を経験しています。貯水池は2か所のみで、海水を汲み上げて淡水化する仕組みを併用している状況です。この淡水化装置ですが、住民に請求する水道料金が1m3あたり200円なのに対して造水コストは2800円と、14倍もの費用がかかっています。使えば使うほど大幅な赤字財政となっており、これを村で賄っている状況です」

また、島全体の水インフラを2名で管理保全しており人手不足や属人化が深刻化していることや、土地の確保やインフラ整備が難しくIターン・Uターン者を受け入れる住宅建設に制約があることも課題だった。「そんなときにソフトバンクから水問題の解決を目指す事業のご提案を頂き、今回の取り組みをスタートしました」(村山村長)

水道課題が懸念される過疎地に
新しい水インフラの選択肢を提供

通信会社のイメージが強いソフトバンクは、なぜ水インフラ問題に挑んでいるのか。同社デジタルトランスフォーメーション(DX)本部の河本亮氏は「ソフトバンクのDX本部は、社会課題解決を目的とした新規事業開発がミッションです。通信やIoT、AIなどの技術を有する弊社と、各分野の先駆者企業やスタートアップとの共創により、一社単独では解決できない社会課題に挑んでいます。着目した社会課題のひとつが水インフラです。水道管の老朽化による修復コストの増大や人口減少による料金収入の減少で、日本全体の水インフラ事業の赤字額は1.2兆円に達しており、解決が急務です」と説明する。

事業参入に向けてソフトバンクは2021年5月、東大発スタートアップのWOTAと資本業務提携を締結。WOTAは膜処理や生物処理によって生活排水の100%近くを再利用可能にする独自の水循環再生技術を保有している。

「先に述べた社会課題に対しては複数の水道事業で事業統合を目指す広域化という施策がひとつの有効な手段となりますが、過疎地の水道事業の統合には莫大な水道管の敷設コストがかかり、逆に非効率となるケースもあります。過疎地には、より人口の増減に柔軟に対応できるモデルが必要です。WOTAと共に小規模分散型の新しい水インフラの選択肢を提供し、水インフラを通信と並ぶソフトバンクの事業の柱にすることを目指しています」

水・電気をオフグリッド化

今回の実証では、ソフトバンクが全体統括(PM)を担い、WOTAと岩手県でガス事業や移動型住居モジュールの開発を手掛ける北良が連携し、本年6月から「オフグリッド居住モジュール」の検証を開始した。本モジュールにはWOTAが開発する「小規模分散型水循環システム」や太陽光発電システム、ソフトバンクの通信機器などを搭載し、居住に必要な水・電気・通信のすべての機能が搭載されている。本モジュールを希望する住民に一定期間提供し、水道インフラの整備にかかる費用や工期を省略できる住環境が、深刻な水道財政問題の解決に有効なソリューションになり得るかをコスト・安全性・運用性の面で検証することが目的だ。

実証の進捗状況について村山村長は「種水としている雨水から飲用水や洗濯機・シャワー・トイレといった生活用水含めて現状安定した水量および水質の供給を実現できています。また電力についても、直近の実績で使用電力量の89%を太陽光発電で供給できており、1人のオフグリッド生活を賄うためには十分なシステムになると実感しています」と手応えを話す。「実証にトラブルはつきものですが、居住者の方とのコミュニケーションを重ねフィードバックを頂きながら改善を進めています。島民の関心もかなり高く、モジュールの存在を通じて水循環による島の課題解決と負担軽減の可能性を知ってもらえているという意味でも、非常に良い効果が出ていると思います」

利島村の成果を全国へ展開

利島村とソフトバンクは検証の結果を踏まえて、利島村の今後建設予定の公共施設への「小規模分散型水循環システム」の実装を検討し、利島村の水インフラに関する課題解決を目指していく方針だ。

「この取り組みによって実現したいのは、住民の皆様が少しでも水に苦労する事の無い環境づくりです。また、水循環システムと太陽光発電を組み合わせる事で、災害に強い島づくりも可能と考えているので、住民の皆様がより住みやすい環境を構築して参ります。その結果、単純に水インフラの財政課題を解決するだけではなく、地域の活性化や持続可能な島づくりに取り組みたいと考えております。また、ソフトバンクとの連携は村職員にも大いに刺激になっています。今回の実証に限らず、世界的な企業としての知見を活かして、地域活性化におけるさまざまな取り組みにもご協力頂きたいと考えております」と村山村長。

ソフトバンクの河本氏は「私たちの生活に欠かせない水インフラは、財政面で深刻な社会課題を抱えています。利島村の課題は日本全国の問題の縮図であると考えており、まずはここで課題解決モデルを創出するために、今回の取組みの成功に向けて邁進していきたいと思っています」と意気込みを語る。「また、現在ほかの自治体様とも協議の場が増えてきていますが、利島村の実証に対する関心は非常に大きく、同じように課題を抱えている自治体様は数多くいると肌で感じております。規模の大小を問わず、水財政問題を抱える自治体様ともコミュニケーションを進め、日本全国で顕在化する水の社会課題の解決に尽力したいと考えています」。水道や配管の工事が不要で、人口減少時代にも柔軟に対応できる次世代型水インフラの開発に、大きな期待が集まっている。

 

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