共通基盤パッケージを無償提供 ガバメントクラウド対応を進めるポイント

自治体は人手不足のなかで令和7年度末に迫るガバメントクラウドへの移行を進めている。埼玉県戸田市も実施しているが、一部が令和8年度に後ろ倒しになるなど、現場は対応が求められている。ウェビナーでは戸田市デジタル戦略室長(CDO)の大山水帆氏が登壇し、現状や対応のポイントを解説した。

大山 水帆(戸田市 デジタル戦略室長[CDO])

戸田市が進める
ガバメントクラウドへの移行

自治体は令和7年度末までに住民基本台帳関連業務や税関連業務などの基幹業務20種類を、政府により構築された情報システム「ガバメントクラウド」へ移行することが求められている。ウェビナーでは、移行を進める埼玉県戸田市の状況と、その取り組みのポイントが紹介された。

登壇者である大山水帆氏は、埼玉県戸田市デジタル戦略室長(CDO)として移行を推進するとともに、総務省地域情報化アドバイザーや、自身が立ち上げた一般社団法人デジタル広域推進機構(DWPI)代表理事などの業務を通して、住民5万人以下の中小規模の自治体を中心にDXの支援を行っている。

「自治体は人材不足と言われています。特に中小規模の自治体はDXに関わる人材が非常に不足しており、1人情シスという言葉もある状況のなかで、情報システム標準化やDXを推進していくのは大変困難な状況と認識しています。そのために支援を行うDWPIを立ち上げました」

まずは、戸田市が進めている情報システム標準化のロードマップを提示した。当初、同市は令和7年度末までに20業務全ての標準化を完了させる予定だったが、税関連業務の移行が遅れ、令和8年度以降に実施する状態になったという。

「完全に移行できなくなると過渡期連携というものが発生します。ガバメントクラウド上で一括管理できないため、うまく連携するための仕組みを一時的に構築する必要があるのです」

当初、ガバメントクラウド連携の概念図の構想は、移行予定の業務は全てAWSに移行し、庁内のオンプレミスに残る20種以外の業務に対応するため、オンプレミス上にガバメントクラウド対応の新たな共通基盤システムを構築し、従来の共通基盤システムは削除してシステムの連携を図ることだった。だが、過渡期連携が発生することが確定したため、さらに「過渡期連携の仕組み」を構築しなければならない状態になった。

「新しい共通基盤システムは予定通りオンプレミス上に構築しますが、過渡期連携のためにそれに加え、従来型の共通基盤システムも残して、引き続き連携を行うことにしました。そうすることで移行のタイミングのずれを解消しようと考えているところです」

図 電子政府・電子自治体からデジタル・ガバメントへ

ガバメントクラウドへの移行とともに削除予定だった従来の共通基盤と、移行に伴い構築する新たな共通基盤の連携が必要になった。完全移行するまでは両方の基盤を利用するように変更を加えている。移行後のアフターガバメントについても、構想を描いている。

 

共通基盤パッケージを
DWPIが無償提供

過渡期連携のために継続利用が決まった従来の共通基盤システムは、20業務を含め全てのシステムがオンプレミス上にあることを前提とした連携の仕組みが構築されている。だが、今後は20業務がガバメントクラウドに移行することにより、データ連携のやり取りができなくなる。

「そこで新たな共通基盤システムでは、ガバメントクラウド上のオブジェクトストレージの連携データとオンプレミスのデータをシームレスに連携させる仕組みとしています。そうすることで、オンプレミスの環境においてもガバメントクラウド上の連携データを取得できることになります。それに加え、従来の共通基盤システムにも引き続きデータを連携する仕組みを構築することで、新旧両方の共通基盤システムのデータが更新され、利用できるようになります。これを実現することで、過渡期連携におけるデータ連携のタイムラグを解消する計画を立てています」

今回新たに構築する新しい共通基盤システムは、DWPIが作成したSQLServerベースの自治体向け共通基盤システムのフリーアプリケーション「DWPIガバメントクラウド対応共通基盤パッケージ」を利用する予定だ。

「このアプリケーションは共通基盤の機能やテーブルの内容をパッケージングしたもので、統合宛名を自動生成をする機能があります。データベースやテーブルの設計は戸田市が行い、具体的な作業や保守作業が委託することを想定しています」

その特徴は、CreateTableなどの一式が同梱されているため最短30分と迅速な導入が可能であること。また、統合宛名や氏名索引、異動累積がトリガーで自動生成されるため、別途システム構築することなく統合宛名が利用可能になることなどがある。

「たとえば住民情報を更新した場合に、その更新を検知して自動的に統合宛名でデータを編集してデータベースの更新まで行います。時系列で移動を追いたいというニーズもありますので、累積テーブルも自動でつくる想定にしています。これをDWPIが自治体向けに無償で提供する予定です」

アフターガバメント対応
将来はモダナイズ版の導入

DWPIガバメントクラウド対応共通基盤パッケージは今後、データ連携の標準化の流れにあわせて、定額給付金システムなども全国の自治体で共通利用できる仕様にすることも検討中だ。

「DWPIガバメントクラウド対応共通基盤パッケージのテーブルには、基本的にはガバメントクラウド上の基本データリストベースで作成をされています。同時に、デジタル庁が今後配布する予定の行政事務標準明朝と、それに準拠したフォントファイルも現在既に無償で配布をしていますので、興味のある方はホームページからダウンロードしてお使いいただければと思います」

最後に「今後のアフターガバメントクラウド対応は大きなスパンで考えなければいけない」と大山氏は話す。

「令和12年を目途により近代化されたモダナイズ版の標準システムに更改する計画を立てていきます。また、ガバメントクラウド対応の共通基盤をベースとした全国共通のアプリケーションの構築も考えているところです。ガバメントクラウド対応の共通基盤をベースとしたAPI連携を行うことにより、いわゆる公共サービスメッシュの考え方にプラスをしたローカル・サーサービスメッシュの構築も可能ではないかと考えています。さらに、ローカル・サービスメッシュを利用して、情報連携基盤において基本的な20業務の情報も容易に参照できるようになり、デジタルガバメントを推進していくことができると考えています」

 

大山 水帆(おおやま・みずほ)
戸田市 デジタル戦略室長(CDO)