インバウンドサミット2021 観光再生に向け今すべきこととは

6月19日(土)、訪日外国人向けWebメディアを運営するMATCHAの主催によるオンラインイベント「インバウンドサミット2021」が開催された。本イベントでは基調講演・パネルディスカッションに加え、エリア別・テーマ別のセッションが同時多数開催され、105名が登壇、3500人あまりが参加した。

イベント冒頭、主催者挨拶を行ったMATCHA 代表取締役社長の青木優氏は、日本経済における観光産業のポテンシャルの大きさを解説。政府が掲げる年間6000万人の来訪、消費額15兆円という目標を実現すれば、自動車産業を凌ぐ規模になるというデータを示した。そして、観光産業は世界を相手にしたビジネスであり、観光事業者は、日本人が当たり前に感じている地域の文化こそが資源であることを認識して地域の価値の磨き直しを行うことが必要と呼びかけた。

これをふまえ、『日本のインバウンドは終わったのか』と題したパネルディスカッションにはデービッド・アトキンソン氏、吉田晶子氏、山野智久氏、龍崎翔子氏が登壇。ポストコロナを見据えて“世界に選ばれる日本”のための方策が話し合われた。

まず、JNTOの吉田氏はコロナ禍においてバーチャルツアーとECを組み合わせた事業など、新たな旅のあり方を提案してきたことを紹介。また、JNTOとして市場の多様化・高付加価値化・地方分散を施策の柱とし、支出の多い長期滞在者の増加を目指して中東・中南米に拠点を開設する予定だと説明した。

アトキンソン氏は観光消費の15兆円目標に対し、「高単価客を呼ぶだけでは達成できない」と指摘。既存商品の価値向上による単価引き上げや5つ星ホテル誘致などによる上位クラスの追加、新市場・顧客の創出が重要だと語り、「“今までなかったもの”を作ることも重要。例えばグランピングなどはこれまで市場になかったジャンル。新しいものを作ることは国内産業を作ることにもつながる」とした。

また、“世界から選ばれる”という観点について、龍崎氏は「迎える側に“日本に来て当然”という思いがあるのではないか。例えば訪日中国人観光客は中国人観光客全体の1割程度とされており、非関心層もまだ多くいるという視点が必要」と、需要掘り起こしの可能性を指摘した。山野氏も、「日本には世界的に競争優位なポテンシャルがあるが、その魅力を伝えるコミュニケーションのアイデアが必要」と語るとともに、顧客満足の視点から、決済システム等のDXを進める必要性にも言及した。さらに、「新ジャンル開発による単価向上ができ、アップセルの可能性がある。コロナで需要が落ちている今こそ自社資源を生かした商品開発をしておけば需要の回復期に間に合う」とも語った。

日本の観光産業への提言として、アトキンソン氏はデータや数値に基づいて“ビジネス”をすべき、と指摘。ターゲット設定をきちんとしているところは意外と少ないと指摘するとともに、SNSが発達した現在、ハリボテ的な情報発信は逆効果で、価値を作り込む必要があると語った。

今後の日本経済を牽引する可能性を秘めた観光産業。地域ならではの価値を見つめて磨き上げ、デジタル技術も活用しながら世界に向けて発信することが再生の鍵になりそうだ。

上段左から、モデレーターの青木 優氏(MATCHA 代表取締役社長)とパネリストの龍崎 翔子氏(L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表/CHILLNN, Inc.代表/ホテルプロデューサー)、吉田 晶子氏(日本政府観光局〔JNTO〕理事長代理)、山野 智久氏(アソビュー 代表取締役CEO)、デービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社 代表取締役社長)