「スマートシティ名護モデル」の実現とOpenRoamingの活用
デジタル技術やデータを活用したまちづくりを行う「スマートシティ」が日本各地で行われている。沖縄県名護市もその1つであり、企業と連携しながら地域課題に寄り添い、データドリブンによる地域活性の実現を目指す。その戦略やポイントについて名護市 地域経済部長兼企画部参事の宮城浩二氏に聞いた。

名護市 地域経済部長兼企画部参事 宮城 浩二氏
スマートシティ名護モデル
“響鳴都市”をスローガンに
沖縄県名護市は、デジタル技術を活用したまちづくり「スマートシティ名護モデル」の確立に2023年度から取り組んでいる。以前より企業誘致を積極的に行い、50社以上1200名以上の雇用を創出してきたなかで、さらなる企業誘致や地域活性に取り組むためには新しい社会潮流と技術革新に適応した新たな仕組みづくりが必要という構想のもとに生まれたモデルだ。
「名護市を良くしたい、もっと輝くまちにしたいという想いを持つ企業や団体などのパートナー、そして名護市がそれぞれの得意分野を生かしながら共創、協業していく『“響鳴都市”名護』をスローガンとして取り組みを進めています」と名護市 地域経済部長兼企画部参事の宮城浩二氏は話す。
「スマートシティ名護モデル」の目指す姿 “響鳴都市”名護
響鳴都市は、オープンにされた地域課題に対して自治体と企業が密接に連携し、双方のノウハウを活用して解決に取り組むことを重視している。その実現のために「ニーズ先行型、課題先行型」を掲げ、地域住民が感じる不便に対してテクノロジーを活用し解決を図る。データドリブンによる地域活性に取り組むことで、幅広い課題に対応が可能になり、企業誘致にもつながるという狙いがある。
「その一環として今年度はコミュニティバスの本格運営を開始しました。以前よりバスが時間通りに来ないという課題があり、それに対してバスロケーションというシステムを導入し、キャッシュレス決済にも対応することで運営を効率化し、課題解決を行っています」
スマートシティ名護モデルの推進に向けて、名護市にある名桜大学、またコンセプトに“響鳴”した7つの企業が中心となり昨年1月に「一社法人名護スマートシティ推進協議会」を立ち上げ、産官学連携で進めている。
「この組織は役所と両輪となってスマートシティの取り組みを推し進めていただく文字通りのエンジンとしての役割があります。一社法人の配下に設置した会員制の名護スマートシティコンソーシアムには既に80近くの企業や団体に加入いただくなど、大きな手ごたえを感じています」
サイネージ実証に導入された
OpenRoaming(オープンローミング)
スマートシティ名護モデルの立ち上げの前年2022年度から、名護市はデジタル田園都市国家構想交付金の採択を受け、スマートシティに関する実証事業をスタートしている。
「その中のひとつの事業としてスマートサイネージ実証があります。タッチ式の多機能サイネージを名護市及び周辺地域の観光地などに設置し、名護市の魅力をタイムリーに発信することでさらなる周遊促進を図るとともに、サイネージから取得できるビッグデータを活用することで地域住民への還元や観光施策などに活用することを目的としています」
このサイネージには「OpenRoaming」対応のWi-Fiが内蔵されている。OpenRoamingとは、登録を一度だけすれば異なるSSIDも自動で接続し、高速かつセキュアなネット環境を実現する次世代公衆Wi-Fiだ。
「OpenRoamingにより利用者にシームレスなフリーWi-Fiを提供するとともに利用者の移動データを取得することが可能になりました」と話す宮城氏は、これまでも長年にわたり名護市のインフラ整備に関わってきた経緯がある。
「名護市は平成12年から総務省主導の地域イントラネットによりインフラ整備を進め、さらに観光促進のために沖縄の北部12市町村も対象に広げてきました。OpenRoamingはこれまでの公衆Wi-Fiサービスの課題であった接続までの煩雑さとセキュリティ面での不安という問題を解決しています。また、既存のサーバーなどの設備とスムーズに接続できるので、これまでに整備してきたリソースを活用できるところも自治体にとっては大きな魅力でした」
現在、名護市はOpenRoamingの実証実験の先行地域となり、本格的に導入する翌年度に向けて整備を進めている段階だ。
企業誘致・デジタル活用により地域活性化を加速する名護市
自治体が抱える
データ活用の課題を解決
宮城氏はOpenRoamingの活用により、シームレスなネットの環境の実現に加えて、さらに期待を寄せていることがある。それは多くの自治体に求められているデータ活用だ。
「自治体としては利用者の行動分析やロケーション分析などを用いた高度なデータ分析が行える利点があります。データがないことは自治体に共通する課題で、それがわかっていても取得できない状況が続いていました。スマートシティを推進する上で重要なデータ基盤の一部として非常に期待しています」
また、企業誘致を重視する同市は、地域事業の活性化にもつながると捉えている。地域の課題を明確にし、OpenRoamingによるシームレスな接続とデータ活用によりビジネスエコシステムのサイクルへとつなげていく方針だ。
「そこで重要になるのが“響鳴”です。企業と協力してスピード感をもって取り組み、そのステップが着実に積みあがっていくことで地域住民への還元や企業誘致につながります。現在は5台のサイネージのみがOpenRoaming対応ですが、名護市及び北部地域に既に整備済の公衆Wi-Fiを活用して広く展開することで、より大きな効果が得られると考えています」
来年2025年度は名護市全域にOpenRoamingを導入予定だ。北部12市町村や観光施設、テーマパークなどとの連携はさらに加速していくだろう。
「加えて、他の自治体との連携も期待しています。より多くの観光客をはじめとする利用者がその恩恵を受けることが出来るとともに、県域を跨いで移動データを共有し、全国でデータに基づいたさらにきめ細やかなサービスが展開出来れば、日本全体の観光活性化にも寄与するものになるはずです」