幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条 ほか

ウェルビーイングが世界中で関心を集める今、ビジネスセクターにおいても「幸せ」が重要なテーマとなっている。CWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)やCHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)など、専門の役職を設ける企業も、グーグルをはじめ増えている。日本国内でそうした企業の先頭を走るのが、著者の及川美紀氏が代表取締役社長を務める、化粧品製造販売会社のポーラだ。

同社は2021年4月に「ポーラ幸せ研究所」を設立。共著者である、幸福学の専門家の前野マドカ氏らを招き、ウェルビーイングに関する研究を行っている。メンバーが幸せに働け、なおかつ成果も出すチームをつくるにはどうしたらよいかを、同研究所の研究成果をもとに指南するのが本書である。

そのような研究成果のひとつが、直営販売店「ポーラショップ」で働く約2万5,000人の「ビューティーディレクター」を対象に行ったアンケート調査である。ビューティーディレクターは全員がフリーランスだ。自由度が高い働き方ができる反面、固定給などの保証があるわけではない。しかし調査の結果、彼女らの幸福度(その定義についてはここでは置いておく)は一般の働く女性よりも高いことが判明した。

著者らによると、幸せは「ありがとう」因子と「なんとかなる」因子に分解できるという。前者は他者とのつながりや感謝、利他性と関係しており、後者は「何事もうまくいく」と思えるマインドセットと関係している。ポーラでは、自分を必要としてくれる顧客や支えてくれる仲間の存在により「ありがとう」因子が、また目標達成や自己実現などの成功体験により「なんとかなる」因子が育まれ、働く人の幸福度を高めているという。

こうした調査や、メンバーの幸福度が高く、かつ成果を出しているチームのリーダーの行動や特徴の分析から、著者らは幸せな組織を作るための7つの法則を提案。「対話する・目をつむらない」、「任せる・委ねる・頼る」、「経験を教訓にする」、「愛のループを自分から始める」などから成る7か条のそれぞれについて、幸福度と生産性にどう関わるかにも踏み込み、統計的な分析も行っている。

及川氏は、「幸せ」をビジネスの軸に置くようになり、同社では社員の意識が大きく変わったと語る。自分の意志をしっかり持つ社員が増え、社員発の事業改善提案が3倍に、さらに人材育成プログラムに自主的に参加する人は10倍に増加。企業風土の変化から、新卒採用エントリー数は5年で倍以上に伸びたという。

大企業から個人商店まで、規模の大小にかかわらず、組織というものはメンバー全員が幸せを感じられてこそ、最大限の力を発揮できるはずだ。本書に記された知見は、個と組織のWin-Winな関係はどのようにしたら実現できるか考えている人には必見だろう。

 

幸せなチームが結果を出す

ウェルビーイング・マネジメント7か条

  1. 及川 美紀、前野マドカ 著
  2. 本体1,500円+税
  3. 日経BP
  4. 2023年9月

 

今月の注目の3冊

地方創生先駆者モデル

—「共助」が生み出す新たな戦略

  1. EYストラテジー・アンド・コンサルティング 著、地方創生先駆者会議 監修
  2. 中央経済社
  3. 本体3,000円+税

 

地方創生の成功例は「この人がいたからうまくいった」などと属人的に語られがちだ。確かにそのような面はある。しかし、成功例を数多く比較すれば、特定の個人に依存しない、誰にでも再現可能な一般法則が見つかるのではないか? そうした思いから、EYストラテジー・アンド・コンサルティングが立ち上げたのが「地方創生先駆者会議」。その会合や先駆者へのインタビューを書籍にまとめたのが本書だ。

香川県三豊市で「UDON HOUSE」を営み、観光客を5年間で100倍にした古田秘馬氏や、楽天トラベルを立ち上げ、その後独立して国内の民泊のルールづくりに尽力してきた上山康博氏ら、地方創生を成功させた7人からその秘訣を聞き取り、それらに共通する「型」を抽出、一般モデルへと昇華させる。地方創生の新たな教科書だ。

 

A.T. カーニー
業界別 経営アジェンダ
2024

  1. A.T.カーニー 編
  2. 日本経済新聞出版
  3. 本体2,000円+税

 

A.T. カーニーは、1926年に創設されたアメリカの老舗コンサルティングファーム。1972年、日本に進出し、以来50年超にわたって日本の経営陣が抱える課題解決にも取り組んできた。

その知見をもとに、生成AI、通信、半導体、エネルギー、銀行、サステナビリティ、組織変革、ヘルスケアなど21の業界のアジェンダを、その分野を専門とするコンサルタントが解説するのが本書。

可能な限り幅広い産業・サービスをカバーし、そこで起こっている最新のトレンドを俯瞰。特定の産業・サービスについて調べる際には、重要な情報を瞬時に概観でき、利便性が高い。加えて、複数業界を横断して読むことで、そこに通底するメガトレンドやうねりを感じることもできるだろう。

2024年における経営トレンドをつかむ上で、繰り返し参照したくなる1冊だ。

 

世界の
ラグジュアリーブランドは
いま何をしているのか?

  1. イヴ・アナニア、イザベル・ミュスニク、フィリップ・ゲヨシェ 著、鈴木 智子 監訳、名取 祥子 訳
  2. 東洋経済新報社
  3. 本体3,500円+税

 

コロナ禍の発生と終息、DXの進展、サステナビリティの流行といった近年の急速な変化は、流行が目まぐるしく移り変わり、ただでさえ忙しい高級ファッション業界にどのような動きをもたらしたのだろうか?

それについて詳しく教えてくれるのが、ファッション企業専門の経営コンサルタントと、ファッションジャーナリストが業界の最新動向を報告した本書だ。

入念なリサーチとキーパーソンへの取材をもとに、業界が直面する課題とそれに対する戦略を、フランス、イタリア、その他のヨーロッパ諸国、北米、アジア太平洋といった国・地域ごとに詳細に整理。それを通じて見えてくるのは、新たなニーズやルール、基準が支配する「ニューノーマル時代」の到来だ。もちろん、アジア太平洋の章では日本も扱われている。