加古川市の業務効率改善の取組 DXで最善を尽くす

デジタル技術の活用で、膨大な作業を軽減し、市民側の利便性も向上させた加古川市。コロナ禍における特別定額給付金の事務処理や新型コロナワクチンweb抽選申込システムで注目を集めた。若者がまちづくりに積極的に参加するスマートシティとしても注目を集める、同市の取り組みについて紹介する。

多田 功 兵庫県加古川市 企画部 政策企画課
スマートシティ推進担当課長

兵庫県の南部、神戸市と姫路市の間に位置する加古川市。人口は約26万人。本堂などが国宝指定されている古刹・鶴林寺や、ご当地グルメ「かつめし」でも知られている。

瀬戸内海に面した加古川市は、南の沿岸部は工業地帯、北部は緑が残る阪神間のベッドタウンだ

この加古川市の企画部政策企画課でスマートシティ推進担当課長を務めているのが、セミナーで講師を務めた多田功氏だ。加古川市では、コロナ禍における特別定額給付金の支給をスムーズにするシステムや、新型コロナワクチンの接種予約における効率的な抽選方式を開発し、前代未聞の感染症蔓延における自治体の業務を、デジタル技術の活用で乗り切った。開発したシステムは他自治体にも提供。この取り組みが評価され、多田氏は「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021」と「NECソリューションイノベータ賞」を受賞した。さらに、海外で活用されているオンラインツール「Decidim」を、日本で初めて加古川市に導入。加古川市のスマートシティ構想をけん引する一人となっている。

コロナ給付金支給で
実務負担を軽減

特別定額給付金は、2020年に実施されたコロナ禍における経済対策の1つ。日本の住民基本台帳に記録されているすべての人に10万円の給付が決定した。

この時、給付金支給における実務で多くの自治体が事務に混乱をきたした。「給付金は、政府が開発したマイナポータルでの申請か郵送での申請でした。マイナポータル経由のデジタル申請でも、結局は申請データを印刷してチェックし、またシステムに戻す、というような、手間のかかる作業も行われていました」と多田氏。そもそもマイナンバーカードの普及率は今よりも低く、申請の多くが郵送だった。市民から送られてきた申請書、本人確認書類のコピーと振込口座書類を自治体職員が手作業でチェック。仕事量は膨大となり、大規模自治体ほど支給が遅れるという結果をもたらした。

多田氏が取り組んだのは、まず、マイナポータルにおける申請データの一元管理による作業の効率化。これには、市役所内で使われていたデータベースシステムを活用した。次に、郵便で送られてきた申請書類の処理効率化にも着手。当初はAI-OCRの活用を考えたが、結局は、読み取った内容が正しいかどうか、その確認に時間がかかる。そこで、市民に郵送した申請書の照会番号を活用することを思いついた。

「これはそもそも、自治体側が世帯の情報を把握して発行した番号。だから、照会番号と口座番号を手入力すればいいだけの処理システムを、データベースを使って立ち上げると、作業速度がAI-OCRより断然速いことが分かりました」。

さらに、市民自身が、オンラインで照会番号と口座情報を入力し、スマートフォンで撮影した本人確認書類と預金通帳を送付すれば、処理はもっと速くなると考えた多田氏。翌日には上司や市長の同意を得て、市役所で使用している業務システム、ノーコードツールとその拡張機能でシステムを実装し、すぐに運用を開始した。これにより、マイナポータルを利用しない人も含めたすべての市民がオンラインで申請可能となり、職員はもちろん、市民の負担も軽減された。なんと自治体によっては申請から給付まで一カ月以上かかっていた処理を最短4日に短縮したのだ。

しかしやはり、加古川市でも郵送による申請が圧倒的だった。「私たちはそこにも独自の工夫をし、郵送で戻された申請書にあるバーコードを読み取れば、あとは銀行口座のみ入力すればいいシステムを作り、処理の迅速化につなげました」と多田氏は振り返る。

ワクチン接種予約では
市民の不安を払拭

加古川市では、新型コロナワクチン接種の予約についても、独自方式を開発して運用。多くの自治体では、コンサートチケット予約のような先着順方式を取ったため、争奪戦が繰り広げられた。加古川市が開発した抽選方式は、期間内に一度だけ申し込めば、同じ条件で何度も抽選を行うため、いつかは当たるので待っていればいい、というもの。

「これで、高齢者の皆さんのいつ接種できるのかという不安を払拭できました。また、ご夫婦一緒に、または近所の人と一緒に接種したい、という高齢者も多くおられました。ご夫婦なのに別々の日となると、送迎をするご家族も大変です。そこで、1人の抽選につき、もう1人対象にできる形にしたところ、これも好評でした」。加古川市で迅速にこの方式を導入できた理由として、「他自治体もそうしているから、という空気に左右されず最善を目指したこと。ノーコードツールでシステムを開発するスキルがあったこと」などを挙げた多田氏。この抽選方式には首相官邸も注目しツイッターで発信された。

日本初、Decidim導入で、
市民の市政参加を促進

次に多田氏が紹介したのが、市民参加型合意形成プラットフォーム。加古川市は現在、市内に1475台の見守りカメラを設置している。この導入にあたっては市民との間に合意形成が図られ、その取り組みにより、加古川市は、スマートシティ推進自治体として認知されるようになってきた。

さらなる取り組み推進に向けスマートシティ構想を策定することとなった加古川市が、日本で初めて導入したのがDecidimだ。スペイン・バルセロナで開発された、市民が参加し、より民主的な意思決定が行えるデジタルプラットフォームである。日本にも、自治体が何かを提案し、それに対し市民が意見を寄せ、さらに自治体が見解を述べるというパブリックコメントの仕組みはあった。多田氏は、「一往復半の議論であるパブリックコメントに対し、Decidimでは、自治体と市民、もしくは市民同士が繰り返し議論することが可能で、得られる納得感が違う」と話した。

Decidimを使った加古川市スマートシティ構想の策定では、市が基本的な目標を最初に掲げ、それに対し、市民がアイディアや意見を述べブラッシュアップ。さらにワークショップなどを開催し議論を収束させた。「現在、加古川市のDecidimには、市内市外関係なく、約1200名が参加されています。特徴的なのは、10代と20代の若い世代が約4割を占めていること。若い世代の参画は重要だと考えています」。

最後に多田氏は、「自治体も、デジタルを活用した様々な施策が必要です。とはいえ、何をどうすればいいのか分からないということも多い。いきなり最上段に到達できるわけではないので、まずはスモールステップを踏み出すことが大事だと思います」と話し、講演を締めくくった。