地銀行政の中核を担った者達からの重厚なメッセージ

地域金融への深い洞察と愛情

本書は、元金融庁長官で現在はソニーフィナンシャルグループ会長などを務める遠藤俊英氏、広島銀行から転じて金融庁の初代地域金融企画室長などを経て、現・商工中金の社外取締役の日下智春氏、日本経済新聞にて20年間、金融行政などの取材を続けてきた金融エディターの玉木淳氏による450頁を超える力作だ。

地銀改革史というタイトルのとおり、地方銀行、地域金融行政に長く関わってきた3氏により、1980年代から現代に至るまでの約40年を、金融自由化の時代、金融処分庁の時代、金融育成庁の時代、金融共創の時代、金融挑戦の時代に区切りながら、地銀と金融庁を巡る我が国における激動の金融史の裏側で起きていた多くの苦悩と決断、そして教訓が綴られている。

本書は、地銀経営者や現役銀行員、金融行政に携わる方は勿論のこと、地銀の取引先や地方自治体に務める方などを対象にしている実務書であり地域金融の辞典でもある。しかしながら、地銀や地域金融のあり方についてこんなにも長きに渡って、深く考え悩み、緻密に組み立て、試行錯誤しながら実行してきた人々がいるのかと、熱い思いが伝わってくるノンフィクションでもある。

北洋銀行、埼玉りそなや銀行、足利銀行など各銀行の内実や特色ある活動なども紹介されており、興味深いものばかりだ。遠藤氏の金融庁時代の出来事や、日下氏の広島銀行と金融庁での体験などは、それだけで自叙伝が出版できそうな読み応えある内容だ。

これからの地域金融への道標

人口減少と過疎化、低金利環境に加え、デジタル化が急速に進むなか、地銀や地域金融の将来を懸念する声も少なくない。地銀による店舗統廃合に加え、新規ビジネスへの参入や、合従連衡なども進展しているものの、中途半端なものも多くある。銀行免許を持ち、多くが上場する株式会社である地銀の最大の強みは、信用力と人材にあるはずだ。日下氏や遠藤氏のように、地銀や金融庁には、地域を想い、日々地域金融のあり方について考え行動に移している人材が多くいるという。

法人向け貸出や個人向け資産運用など、地銀の主要なビジネスモデルが、ネット銀行やスマホアプリなど、異業種の金融DX企業など競合先に代替されつつあるなか、この先、地銀再編がどのように進むのか、地銀の新しいビジネスモデルとは何か、を考える上でも、本書は大いに参考になろう。

なお、随所に差し込まれた「BOX」という名のコラムなど、解説や回想、対談などが混在している構成には少し整理整頓が必要ながら、各章各項目は独立しているので、どこから読んでも地銀金融の世界に没入できるはずだ。

デジタルイノベーションを活用しながら、「顧客目線と収益目線」を持つ「稼げる地銀」には、明るい未来が待っていることを期待したい。

 

地銀改革史

回転ドアで見た金融自由化、金融庁、そして将来

  1. 遠藤 俊英、日下 智晴、玉木 淳 (著)
  2. 本体 3630円+税
  3. 日経BP 日本経済新聞出版
  4. 2023年9月

 

今月の注目の3冊

スキルシェアのすすめ

なぜ知の共有がウェルビーイングを
向上させるのか

  1. 青木 慶 著
  2. 千倉書房
  3. 本体2,500円+税

 

スキルシェアとは、個人の知識や経験を他の人に共有すること。ここで言う知識や経験は、職業上の専門性だけに限らず、趣味、家事、育児など普段の生活の中で培ってきた知識も含まれる。

著者の調査結果から、知識を他者に共有することで、本人のウェルビーイング(幸福度)が向上することが分かってきた。「他者貢献」と「楽しさ」が拠り所となっており、有償でも無償でもウェルビーイングが増すことがデータで示された。なかでも、有償でスキルシェアを行っている場合ほど、他者貢献の意欲が優位に高くなる結果になったという。謝礼を受け取ることで、自分の知識が他人に認められていることを確信できる点が、他者貢献の意欲をより高めたと推測している。

このほか、レゴ愛好家へのインタビューなどを通して、スキルシェアとウェルビーイングの関係性を解説している。

 

チョコレート・タウン

〈食〉が拓いた近代都市

  1. 片木 篤 著
  2. 名古屋大学出版会
  3. 本体6,300円+税

 

外来ノンアルコール飲料として、コーヒー、茶、カカオの受容が進み、「飲む」ココアと「食べる」チョコレート製造の機械化、工業化が進んだ。これらのチョコレート工場を中核として築かれた新たな都市「チョコレート・タウン」。

ムニエ社とフランス・パリ近郊のノワジエル、キャドバリー・ブラザーズ社とイギリス・バーミンガム近郊のボーンヴィル、ラウントリー社とイギリス・ヨーク近郊のニュー・イアーズウィック、ハーシー・チョコレート社とアメリカ・ペンシルバニア州ハーシー。本書ではこれら4社が創業した都市を取り上げ、チョコレートの受容から製品化、工業化と都市・建築デザインの変遷、産業衰退後の都市計画を解説する。

付章にチョコレートの〈衣〉と「衣服改良(ドレス・リフォーム)」も収録されており、外来の「食」が「住」だけでなく「衣」をも刷新していく歴史にも言及している。

 

消齢化社会

年齢による違いが消えていく! 生き方、
社会、ビジネスの未来予測

  1. 博報堂生活総合研究所 著
  2. 集英社インターナショナル
  3. 本体880円+税

 

消齢化とは、生活者の意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなる現象。本書では、これが進んでいる社会を「消齢化社会」と定義している。

著者である博報堂生活総合研究所が実施した、30年に及ぶ膨大な生活者データの分析により、さまざまな項目で、年代間の数値差がなくなり、違いが小さくなっているという特徴、つまり消齢化が進んでいることが明らかとなった。

本書では、消齢化により、生活者の行動やビジネスはどう変わるのか、消齢化が進んでいる背景、今後の日本に起こりうる変化の仮説などを紹介している。このほか、各界の有識者5名に行ったインタビューを通して、消齢化社会の時代で新たに生まれる可能性について探っている。

「少子高齢化社会」を「消齢化社会」として捉え直し、新たな機会と考える発想転換のヒントも満載の一冊となっている。