エージェンティック・コマースの時代を見据え 商取引ルールを構想する

3年目を迎えた「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」(主催:事業構想大学院大学事業構想研究所)。1回目の会合は、AIエージェントが人の意図を汲み取って自律的にショッピングを代行する新しい商取引の形「エージェンティック・コマース」をテーマに議論した。

左から、田中里沙 事業構想大学院大学 学長、関孝則 事業構想大学院大学 特任教授、福田好郎 一般社団法人キャッシュレス推進協議会 事務局長・常務理事、北村慎也 QUICKデータソリューション事業本部 データ分析G・ナレッジコンテンツ本部 シニアマネジャー、平将明 衆議院議員・前デジタル大臣、若目田光生 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト、平井卓也 衆議院議員・初代デジタル大臣、飯髙和也 ビザ・ワールドワイド・ジャパン プロダクト本部 本部長 日本・韓国・モンゴル統括、シータン・キトニー ビザ・ワールドワイド・ジャパン 代表取締役社長、谷本龍哉 事業構想大学院大学 事業構想研究所 客員教授、山本覚 電通デジタルCAIO兼 執行役員

世界の行く末を左右するAI
国家戦略としての取り組み

2026年4月28日、事業構想大学院大学で開かれた研究会の冒頭では、初代デジタル大臣で衆議院議員の平井卓也氏があいさつした。そして自民党AI・web3小委員会で約半年にわたって議論を重ねてきた「AIホワイトペーパー2.0(案)」がこのほど公表され、その中でエージェンティックAIが大きなテーマの1つになったと明らかにした。「特に、先行している金融分野における社会的インパクトは非常に大きいため、セキュリティや、AIが人間と同等の決済をしてしまうことに対する責任分界点はどこにあるのかなどを議論しています」。

続いて前デジタル大臣、衆議院議員の平将明氏が直近のAI政策動向を解説。平氏は、2024年にAIセーフティ・インスティテュート (AISI)を、25年には国家サイバー統括室(NCO)を設置した経緯を説明。そのうえで、この4月にアンソロピックが発表した「Mythos(ミュトス)」を受け、米国政府が金融システムを守るためのプロジェクトを設けたことを念頭に、その日本版組織の立ち上げについて議論を始めたことを紹介した。また、AIとブロックチェーンが好相性で、金融機関でこそその付加価値を生かすことができるとの観点から、党内に検討のためのプロジェクトチームを発足させた。「これらのテーマが今後国家の戦略になっていく」という。

平 将明
衆議院議員、前デジタル大臣

小売では検証できる仕組みが必要
すでに覇権争いは進んでいる

続いて、ビザ・ワールドワイド・ジャパン プロダクト本部 本部長で日本・韓国・モンゴル統括の飯髙和也氏が商取引の未来について講演した。同社が委託して実施した消費者に対する調査によると「AIに購買を任せてよいか」との問いに「良い」と答えた人は14%にとどまっていることに触れ、消費者の不安を解消する制度設計が求められていると指摘した。消費者から複数のエージェントを介して店舗に至るまでの経路に潜むリスクが顕在化したとき、その責任の所在を明らかにするため、あとから検証できる仕組みを導入することが重要になる。「エージェンティック・コマースを本格的に普及させるには、こうした信頼を実現できるオンチェーンのインフラが適しているのでは」と同氏は述べた。

飯髙 和也
ビザ・ワールドワイド・ジャパン プロダクト本部 本部長、日本、韓国、モンゴル統括

次に講演した電通デジタルCAIOの山本覚氏は、エージェンティック・コマースについてすでに規格の覇権争いが進んでおり、独自のクローズドなAIで顧客を自社経済圏に囲い込むアマゾンに対し、グーグルやウォルマートなどはAIがどの店舗とも会話でき、決済まで完結できる共通規格を作っている現状を説明した。

山本 覚
株式会社電通デジタル CAIO 兼 執行役員

AIエージェント普及の中
日本企業の果たす役割はどこに

続いて議論に入り、まず、エージェンティックAIの時代に日本の企業が果たす役割について意見が交わされた。日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリストの若目田光生氏は、エージェンティックAIが安さ、効率を優先して選ぶと、必ずしも売る側のメリットにつながらない点に着目。「売り手と消費者の間の不安やトラブルを解消する中間プラットフォーマーの役割が重要になってくるでしょう」と述べた。山本氏は「データの参照などで独自の付加価値を事業会社が出したり、国内でセキュアに扱うことが求められる分野について国内企業が活躍する余地はあります」と展望する。

さらに、平氏は「特定分野の深いデータを扱うバーティカルAI、日本が強みを持つIPの価値を最大化する形のAIエージェントも考えられる。たくさんのGPUを動かして電力を消費するAIの競争とは別に、小さくても信頼できるAIは日本ブランドだからこそできる分野では」とし、一般社団法人キャッシュレス推進協議会 事務局長 常務理事の福田好郎氏は「エージェンティックAIの時代になると、注文の間違いを確認するとか、そろそろこれを買いませんかと提案するなど、丁寧なサービスを作るのは日本企業の得意とするところでは」と話した。

国際的なルール作り
日本が主導権を取るには

一方で、エージェンティックAIが普及することによって生じるリスクについて福田氏は「国内で独自のプラットフォームができたとしても、決済の世界がそうなっているように結局は国境を越えてしまう。国際的なルールの明記が必要」と指摘。個人が仕組みを意識しないままに使うことで生じるリスクをふまえ、国民のナレッジを上げていくための教育の必要性を説いた。

国際的なルール作りでは、衆議院議員の神田潤一氏は「何か問題が起きたときに、誰がその責任を持つのかについて主要国間で制度をハーモナイズしていく必要がある。そこで日本が主導権を取っていけるように議論を進めているところ」と強調。平氏も「G7広島サミットで立ち上げた、AIを巡るルール形成を協議する広島AIプロセスでは人間中心のAI、信頼できるAIといった価値観を共有することで一致した。イギリスやオーストラリア、カナダなどミドルパワーの国と連携してあるべき姿を考る必要がある」と日本の果たすべき役割を話した。

最後に、研究会に協賛しているビザ・ワールドワイド・ジャパン 代表取締役社長のシータン・キトニー氏は「キャッシュレスとデータを合わせることにより、どのように持続可能な形で経済の進展に貢献できるかについてコミットメントしていくためにも、業界を超えて意見を聞き、検討するこのような機会を持つことが非常に重要だ。当社としても、安全で、だれも取り残さない先進的な決済エコシステムをつくることで役割を果たしていきたい」と述べ、2026年度第1回目の議論を締めくくった。