日本型雇用に求められる変革『ジョブ型vsメンバーシップ雇用』

大企業で導入が進むジョブ型雇用

人口減少や高齢化、労働市場の流動化、グローバル化の進展等に伴い、メンバーシップ型の日本的雇用システムが大きく揺らいでいる。こうした中で近年盛んに話題にあがるのがジョブ型雇用だ。長期雇用や年功賃金をベースとしたメンバーシップ型に対し、同一労働同一賃金のジョブ型は、従業員の評価基準の明確化やその専門性の向上に寄与し、グローバル人材獲得等にもつながるとされており、国内では日立製作所やKDDI、富士通などが相次いでジョブ型雇用を導入している。ただ、ジョブ型雇用の必要性が強く叫ばれる一方で、導入で生じるであろう様々な問題については十分に議論がされていない。

本書は、慶應義塾大学産業研究所HRM(人的資源管理)研究会を編者に、同分野の研究者や実務家がジョブ型vsメンバーシップ型雇用をテーマに、それぞれのメリット・デメリットや、ジョブ型雇用が日本的雇用制度をどのように変えるのかについて、多角的な議論を行っている。

ジョブ型とメンバーシップ型の
メリット・デメリットを整理

第一章では清家篤氏(慶應義塾前塾長、日本私立学校振興・共済事業団理事長)が、「ジョブ型雇用の経済分析」をテーマに、ジョブ型雇用が日本的雇用制度にどのような影響を与えるかについて理論的に検討している。

第二章では濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構研究所長)が労働法の観点から、ジョブ型雇用が目新しいものでは決してないことを指摘し、ジョブ型雇用の就職や採用、解雇に関する問題を解説した。

第三章は中村天江氏(連合総合生活開発研究所主幹研究員)が、日本の大企業のジョブ型雇用導入例をもとに、企業の人材獲得能力やキャリア形成のオーナーシップという視点からジョブ型雇用を議論。大企業は高付加価値のタレントを育成するためにジョブ型雇用を導入しており、ジョブ型雇用の拡大は日本に上方移動型(キャリアアップ型)の転職を広げる機会になると解説している。

第四章では植村隆生氏(人事院事務総局企画法制課長)がジョブ型雇用の公務員人事制度に与える影響について分析する。

そして第五章では、人事コンサルタントとして長年活躍してきた山本紳也氏(HRファーブラ代表取締役)が実務家の観点からジョブ型雇用導入の実態や、社員意識や組織風土等に与える影響を解説している。

本書はジョブ型雇用を褒め称えるのではなく、メンバーシップ型からの雇用制度転換における課題など様々な論点を冷静に整理し、読者に一つの選択肢としてのジョブ型雇用を示している。人事制度改革を迫られる経営者や人事部門担当者に有益な視点を与えてくれる一冊だろう。

 

ジョブ型vsメンバーシップ雇用
日本の雇用を展望する

  1. 慶應義塾大学産業研究所HRM研究会 編
  2. 本体2,800円+税
  3. 中央経済社
  4. 2022年5月

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今月の注目の3冊

2030年の
「東京」未来予想図

  1. 市川 宏雄、宮沢 文彦 著
  2. クロスメディア・パブリッシング
  3. 本体1,580円+税

 

日本の首都であり、世界有数の競争力を持つ都市、東京。コロナ禍の影響で2022年1月の人口は26年ぶりに対前年比で減少したものの、企業の「東京離れ」はほとんど起きず、都内では依然として多数の再開発プロジェクトが進行しており、人口1400万人を回復するのは時間の問題だろう。

人と企業を惹きつける東京はこれからどう変わっていくのか。都市政策専門家の市川宏雄氏らによる本書は、「2030年の東京」をテーマに、変貌する東京の都市空間と不動産市場の展望、地方との関係性や東京一極集中の是非、海外都市と比較した競争優位性、東京に拠点を持つ企業経営上の意味や未来の働き方、今後東京で求められるリスクマネジメントなどを解説している。

首都・東京の今後10年の変化を知ることで、新しいビジネスチャンスも見えてくる。ビジネスパーソンに是非手にとってほしい。

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リノベーション・スタートアップ

買収して「起業」する
新しいビジネスのつくり方

  1. 田中 伸明 著
  2. アルク
  3. 本体1,700円+税

 

M&Aは大企業やスタートアップのみならず、事業承継が社会問題化する中で、徐々に中小・零細企業にも普及してきた。M&Aマッチングサイトも多数登場している。このような環境変化を踏まえ、本書はM&Aを利用して起業を行う「リノベーション・スタートアップ」を、ゼロイチ起業とは別の選択肢として提示。土台や骨組みがすでに構築されている事業をもとに、ビジネスモデルを時代に合わせて更新し、事業の効率と成功確率を上げていく起業方法にチャンスがあると説く。

著者の田中伸明氏は2000年にフリービットを創業し2007年に東証マザーズに上場、現在は日本事業承継アントレプレナーズの代表取締役を務める。ITを中心とした豊富な経営経験をもとに、M&A起業の優位性や事業買収成功の秘訣、資金調達やIPOを目指した経営ノウハウなどを解説している。

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ソーシャルX

企業と自治体でつくる「楽しい仕事」

  1. 伊藤 大貴、伊佐治 幸泰、梛野 憲克 著
  2. 日経BP
  3. 本体1,800円+税

 

ESG経営やSDGsの潮流によって、あらゆる企業に社会課題の解決への貢献が求められるようになった。一方で自治体の財政難や人手不足は加速しており、官民共創によるサービスデザインや社会課題解決が重要になっている。ただ、行政のアウトカムと企業のビジネスを両立させることは簡単ではない。

本書は、官民共創の現在と未来、成功させる方法等について、その社会的背景から概説しながら解説している。企業と自治体の課題およびアイデアを繋ぐ官民共創プラットフォーム「逆プロポ」を運営するソーシャル・エックス社の創業者らが、官民共創の現場での経験も活かしながら執筆している。官民共創を成功に導く6つのポイントの解説や、官民共創のタイプ別分類、具体的な事例紹介、中央省庁や地方自治体、企業のキーパーソンへのインタビューなどが掲載されており、企業と自治体に多数のヒントを与えてくれる。

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