酒田市×NTT東日本 農業や医療で多角的なDXを推進

山形県酒田市は、産業振興と既存産業の拡大、住んで幸福だと思えるまちづくりをめざして多角的なDXを推進している。DXにかける市長の思いや施策、それを支援するNTT東日本の考え方をテーマに行われたトークセッションについてレポートする。

「三本柱」を軸に進めるDX

酒田市は人口約10万人。県北西部に位置して日本海に接し、北に鳥海山、南に出羽三山を臨み、最上川流域の庄内平野の肥沃な土壌が育む庄内米など、全国的に知られる農産物も数多い。

酒田市のDXについて、丸山至市長は「全国から見て周回遅れであることを実感しています」と危機感を持つ。2020年に庁内にデジタル変革戦略室を新設、さらに地域課題の解決に向けてNTT東日本、NTTデータ、東北公益文科大学と産学官共創の連携協定を締結し、DXの推進体制を整えた。

丸山 至 酒田市長

「酒田市では住民サービス、行政、地域を『DXの三本柱』に据えています。利便性の高い住民サービスを、少ない職員数で効率的に提供し、産学官共創で地域の持続可能性を追求するという考え方です。行政手続きのオンライン化も進めており、マイナンバーカードの普及率も25%を超えて県内3位です(2021年3月1日時点)。このマイナンバーカード活用が、今後のDXの鍵になると見ています」

地域のDXにおける最大の課題として丸山市長が挙げるのは産業振興だ。

「新たな産業を興し、また既存産業を拡大していくために、2018年に産業振興まちづくりセンター『サンロク』を開設しました。IT企業の誘致など、若い世代を中心とする新たな産業を生み出すことが狙いで、センターを軸に民間企業と協定を結ぶことで、ビッグデータ活用やRPA導入の促進を図っています。また、酒田は『日本一女性が働きやすいまち』を標榜していますので、今後の産業政策の中でも女性の能力活用に力点を置いて施策を進めています」

一方、米どころとして持続的な農業を可能にする環境づくりにも力を入れる。「スマート農業研修センターを立ち上げて、ドローンやセンサーによる肥料や生育状態の検証、データに基づく土づくりなど、若い世代に科学的な農業を学んでもらうことで新時代の農業経営者を育成し、いわゆる『デジタル農業』の振興をめざしています」

医療・介護の分野でも、山形県・酒田市病院機構「日本海総合病院」を中心に地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」と連携し、電子カルテの地域共有システムである「ちょうかいネット」の整備に加え、2018年に構築した薬剤情報に関する「地域フォーミュラリ」の仕組みづくりを支援している。

酒田市はある民間調査でシニア世代の「住みたいまちランキング」1位となったが、「移住・定住政策はもちろん、医療・介護資源、健康維持の仕組みが大きな要因」だという。

デジタル農業の多様な可能性

このように多面的なDXを推進する酒田市に対して、NTT東日本山形支店の渡会俊輔支店長から、いくつかの提案があった。

渡会 俊輔 NTT東日本 山形支店長

「農業に関しては、ICTやデータを駆使して農作業を効率化することに加えて、農産物の流通や販売、さらには農業を観光や雇用を含めた地域活性化の起点にしていくお手伝いができればと思います。庄内産の農産物は味が良く、首都圏などの大消費地において高い評価を得ているため、デジタルの力で営農者の連携を強化し、生産性を向上させるとともに、流通もDXを進めて、首都圏のスーパーなどに地域一体で直売コーナーを設けるといった展開も考えられます。

図 農業×ICTを起点としたエコシティイメージ

出典:NTT東日本

 

また、豊かな自然や観光資源を呼び水として、都市部の方にワーケーションで来ていただき、その中で、酒田市のスマート農業研修センターでICTを活用した農業体験をしていただくことで、就農へのハードルを低くし、将来的に移住・定住や就農人口増加につなげる、いわば『アグリケーション』のような形も考えられます」

渡会支店長は、これからの農業は、さまざまな分野の技術とのつながり・活用が重要になってくると述べる。

「例えばセンシング技術は、単に農作物の育成状況の把握などだけでなく、盗難防止や鳥獣害防止、さらには防災などにも活用できます。また、農業のDXには、ドローンの活用やエネルギーの調達なども必要になってきますが、NTT東日本グループには、ICTに限らず各分野に特化した関連会社がありますので、グループの総力を結集して、酒田市のお手伝いができればと考えております」

住んでいて幸せが感じられるまちへ

続くディスカッションでも、新しい農業の形や移住政策などについて活発な意見が交換された。丸山市長が強調したのは、ICTと内外のさまざまな人・組織の力を結集して、地域の魅力を向上していくことの重要性だ。

「酒田では、地元営農者向けに農業新聞が発行されてきた歴史があり、先人たちの農業の知恵が蓄積されています。これをデジタルアーカイブ化して、若い営農者に役立ててもらうといったことにも取り組んでいきます。また、全国の意欲あるシニアが活躍できる場をどんどん設けて、シニア層の移住を促進し、シニアの皆さんの知恵を地域の若い世代が吸収して活躍してくれるようなまちづくりの仕掛けとして「生涯活躍のまち」構想の実現に力を入れたいと考えています」

渡会支店長も、そうした取り組みの基盤づくりに貢献したいと語る。

「酒田市の場合、医療や住環境などの移住にふさわしい条件は揃っているので、そこに就農支援などをセットにすることができれば、シニア層が充実したセカンドライフを送れる、日本で有数の地域にしていけるでしょう。酒田市はSNSを使った情報発信や行政手続きのオンライン化、電子マネー活用など、市民がデジタルを活用する環境の整備を進めています。その土壌をフルに活用し、住民の知恵を活かしながら地域を活性化していく。そこに私どもNTTグループの力を結集したいと思います」

セッションは、「最終的な目標は、これからデジタル変革が進む社会の中で、住民がここに住んでいて幸せだなと思っていただけるかどうかです。そこに向けて、やれるDXを一つひとつやっていきたい」という丸山市長の言葉で締めくくられた。酒田市のDXの今後のさらなる進展に期待したい。

 

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