コロナ禍の物産展中止に対応 ネットで県産品を約29億円販売

2020年5月、「楽天市場」に〈福岡県ウェブ物産展〉を立ち上げた福岡県。コロナ禍で百貨店での物産展が次々と中止になるなか、県産品の売上減少に歯止めをかける。行政と地元企業、楽天が一体となり、目の前の危機を乗り越える。

ウェブ物産展には、加工食品や伝統工芸品など、様々な商材を揃えた

緊急事態宣言下の2020年5月2日、福岡県はインターネット・ショッピングモール「楽天市場」内に〈福岡県ウェブ物産展〉をオープンした。同県ではこれまで、県の補助金を受けた福岡県物産振興会が中心となり、首都圏の百貨店を中心に物産展を開催してきた。売上は年々伸びており、2018年度のピークには、年間約15億円に達していた。

2019年の終わりに新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、2020年1月頃から物産展が軒並み中止。再開の見通しが立たず、このままでは15億円の売上を失う危機に直面した。物産振興会と協議の上、対面での販売ができないなら、ネット通販をと、5年ほど前に事業で関わりを持ったことのある楽天に相談。初回の相談から約1か月と異例のスピードで、「楽天市場」内でのウェブ物産展をオープンした。

〈福岡県ウェブ物産展〉では、既に「楽天市場」に出店している県内事業者はクーポンを活用し、物産展のサイトから購入を誘導。ECを活用したことのない事業者については、「楽天市場」内にオープンした公式アンテナショップ「福岡県よかもんショップ」へ出品してもらうことで、商品のEC販路を確保した。

福岡県観光政策課の眞鍋孝博氏は「もともと物産展に出店していた事業者のほとんどは、対面販売が中心でネット販売をしたことがありませんでした。よかもんショップをオープンすることで、ネット販売が未経験の事業者の商品の受け皿を作ることができました」と話す。

福岡県ウェブ物産展トップページと、福岡県観光政策課の眞鍋 孝博氏

この「福岡県よかもんショップ」の運営に、県と物産振興会、楽天が協議の上で白羽の矢を立てたのが、有限会社久松の松田健吾社長。同社は和風総菜(おせち)などを販売する企業で、「楽天市場」のベストショップを表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」の受賞歴もある。2020年4月に打診され、詳細は何も決まっていない中、地元福岡のため「やる」と即決。「前例のない中で、県も楽天も我々も、『何としても成功させねば』というスタートでした」と振り返る。

久松の社長を務める松田 健吾氏

EC参入なら常に「今」がベスト

2020年1月~3月、対面での物産展がなくなり先の見通しが立たないなか、「困窮する事業者への支援策を至急考えよ」というのが、福岡県庁としての方針となっていた。通常、年度始めの定例議会は6月のところ、コロナ対策の事業者支援のため、急遽4月に議会が開催され補正予算が成立。事業をすみやかに執行する流れができていた。

「我々としては、5月の連休の巣ごもり需要を見込み、ゴールデンウイーク前に事業を開始したいと考えていました」(眞鍋氏)。

庁内での意思決定は早く、協議開始から約1カ月、自治体としては異例のスピードで事業開始を実現した。

ウェブ物産展の成功には、いかに多くの出店者、出品を集めるかがカギとなる。そこに大きく尽力したのが、運営を担った松田氏。ECを活用したことのない事業者への説明から、ページ構成、出品商品集めなど、タイトなスケジュールの中、膨大な仕事を県や物産振興会と連携し進めた。

久松は、1982年の創業から、おせちや本格和食、総菜などを販売してきた。2004年には経営難に立ち向かうため、当時20歳だった松田氏が「楽天市場」でのネット通販をスタート。できうる限りのデータ解析をし、年末のおせち2500個を完売して、廃業の危機を乗り切った経験を持つ。

現在、「福岡県よかもんショップ」には200社、約720品目が出品されており、売上は1年間で約5億円にもなる。これだけの物量、注文数にも関わらず、購入者からの評価も高く、購入者の感想(レビュー)は5点満点の4.6と非常に高い。(※通常は4.5を超えれば顧客対応が非常に素晴らしいといわれるレベル)これは、一重に松田氏が自身のEC事業の中で、変化の激しい顧客のニーズに細やかに対応してきた知見があったからこそと言える。

「20代の頃、無力でお金もないなかで、唯一できたのがネット通販でした。『あの時、ネット通販に踏み切っていなかったら今はない』という想いが、この事業を引き受けた理由の1つです。今のコロナ禍の状況は、自社の危機を乗り切った時の状況と同じです。『今さら出品、出店は遅い』ではなく、ネット通販を始めるなら『今がベストタイミング』だと、多くの事業者に伝えたいと思っています」(松田氏)。

「出品」から「出店」へ意識を醸成

「福岡県ウェブ物産展」の成果としては、まずコロナ禍での売上の確保がある。2020年度の「楽天市場」における福岡県ウェブ物産展には、延べ1,145 店舗が参加、延べ 8,158 商品を販売し、売上合計は、目標の15億円を大きく上回る、約29億円に致達した。さらに、これまでネット通販に取り組んでこなかった県内の事業者が、その価値、優位性に気づいたこと、これまでは対面でしか販売されてこなかった福岡の知られざる名産を全国に広く認知拡大できたことも大きい。

加工食品や伝統工芸品に加え、県農林水産部の扱う博多一番どりなど、県庁内の各部局が、様々な商材をショップに出品させた。「県庁全体で危機感を共有し、横の連携で事業を進めたことで、商品の幅と売上を伸ばすことができたと感じています」(眞鍋氏)。

今後は、「福岡県よかもんショップ」への出品をきっかけに、自身で「楽天市場」へ出店しようという事業者が出てくるのが理想だ。新たなEC事業者が増えることで、福岡県全体のECの裾野が広がり、レベルが上がっていく。これはまさに、楽天が目指してきた自治体や地域事業者が自走できるEC環境づくり、に当てはまる。

「県の事業をきっかけに、ネット通販に挑戦しようという事業者が出てくることは、どこにとってもメリットかと思います。そうした事業者には私たちもサポートしていくつもりです」(松田氏)。

コロナ禍の収束の兆しはまだ見えず、対面の試食や実演で顧客と交流できた以前の状態が戻るのは先になりそうだ。県の物産を今後も振興し、販売していくのに、ネット通販の活用は不可欠になる。

「今後は、よかもんショップの商品点数を増やしていくことに加え、ネット通販の特性を掴み、ネットだからこそ届けられる福岡県の魅力を伝えていきたいです」(眞鍋氏)。

「福岡県ウェブ物産展」に関しては、2期目の事業が2021年3月1日から始まっている。1年目の成果をもとに、次年度は伝統工芸品や農林水産物により注力。農林水産部と連携し、旬の素材を時季ごとに販売していく。

「過去1年の成果をいかし、楽天さんの知見や統計データを活用して、今年度以降に繋げていきたいと思います」と眞鍋氏は話した。

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