2021年5月号

新規事業開発のための広報視点

コロナ後の未来変化に対応する広報 安心社会から信頼社会へ

北見 幸一(社会情報大学院大学 客員教授)

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リモートワークが浸透し、直接顔を合わせずとも仕事の成果が求められるようになった。会社は、個人のつながりを生み出す場となり、組織中心から個人のつながり重視へと大きく価値観が変化。そんな中、広報の対応力が試されている。

新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、世の中の価値観は急激に変化を遂げようとしている。これまでも、気が付かないうちに緩やかに変化しつつあったのかもしれないが、その変化スピードが格段に加速している。

北海道大学の山岸俊男先生(社会心理学)が生前提言されていた「安心社会から信頼社会へ」の移行*1が本当に必要になったと言っても過言でないであろう。日本は、これまで自分に害を及ぼすかもしれないよそ者を排除し「仲間内」で確実な安心社会を築く傾向にあった。しかし、現在はその誰かが安心を提供してくれる時代は崩壊しつつある。個人が相手の人格や行動傾向の評価に基づき、信頼(確実な確証はないが、相手は自分に対してひどい行動はとらないだろうと判断すること)できるつながり、「信頼社会」への移行が必要不可欠な時代に変化している。

ウィズコロナ時代3つの変化

また、具体的なウィズコロナ時代の未来に向けた環境変化としては、⑴会社・組織中心の価値観から、個人のつながり重視の時代へ ⑵集中・閉密・効率から、分散・開疎・質の時代へ⑶時間(働く・楽しむ)・場所(居る・動く)・言語がボーダレスの時代へという3点が挙げられるであろう。

⑴については、これまでは会社・組織に属していれば年功序列、終身雇用でずっと安泰であったがそんな時代は終わっている。会社・組織は個人のつながりを生み出す場に過ぎず、個人が重視される。個人が社内外で誰と仕事をするのか、誰から評価されるのかが最大の関心ごとになる。だからこそ個人の働き方は一律ではなく、多様性を伴う。仕事ができる人はもっと多くの仕事が集まっていくことになるであろう。個人の多様なつながりがイノベーションを生むことになる。

⑵では、従来、会社に行き、密閉された部屋に集い、会議を行い、仕事の効率性を高めていったものが、ウィズコロナ時代では分散、開疎が求められる。リモートワークがその典型であろう。直接顔を合わせていなくとも仕事の成果(質)は求められる時代となるであろう。

そして最後の最も大きなインパクトは⑶であろう。実はコロナ前の2018年頃、著者も日本広報学会の研究会を、Zoomを使ってリモートで実施したことがある。その時は回線接続の問題なのか、あまり上手くいかず、リモート会議が容易にできるのもだいぶ先の未来のことかと思っていた。しかし、2年間の技術進歩とコロナの影響によるユーザー数増加で、非常に使いやすいコミュニケーションツールに生まれ変わったと思う。

5Gの世界が到来し、今後数年のうちには、ストレスの全くないリモートワーク環境が実現するだろう。そこでは時間や場所に拘束されない。もっと自由になる。そして、オンライン上では言語の壁を超えたコミュニケーションが実現できる。すべての言語は瞬時に翻訳され、相互に理解できるのだ。時間・場所・言語のボーダレス化は確実に起こってくるだろう。

広報のあり方はどう変わるか

このようなウィズコロナ時代の環境変化を予見するとしたら、広報としてどのようにあるべきなのであろうか。個人的には、①組織内外のコミュニケーション・デジタル・プラットフォームの構築②「個人の能力」を尊重した組織文化と理念の浸透の2点が重要になると考えている。

①については、会社と従業員、会社とステークホルダーとつながるためのプラットフォームを構築すべきであろう。そのためには広報のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が必要である。ここで言っているのは、社内報をデジタルに置き換えるという意味ではない。組織の接点をすべてこのデジタル・プラットフォームに集約させるべきということである。

今後、企業はこのプラットフォームを持っているか否かで組織の成長は劇的に変わっていくだろう。これは広報部門だけでは達成できるはずもなく、経営者の総指揮のもと、経営企画部門、財務部門、人事部門、事業・営業部門、情報部門と一緒に行う必要がある。これまでの広報領域の仕事を超えたデジタル・トランスフォーメーション(DX)が求められる。

②であるが、ウィズコロナ時代は前述の通り、分散・開疎し、時間・場所・言語がボーダレス化していく、個人のつながりが重視されていく時代である。組織で事業を行うにしても、組織がどこに向かっていこうとしているのか、個人のベクトルと組織のベクトルを合わせる必要があるだろう。

そのために組織の理念(ビジョン・ミッション・バリュー・パーパスなど)を社内に浸透させなければならない。理念の浸透には理念の「自分ごと化」が大事であり、自分ごと化を促進させるためにも、従業員が理念に共感するような仕掛けが重要になる。この仕掛けを生み出して実践していくことがこれからの広報に求められてくるであろう。また、そのためには「個人の能力」を尊重した組織文化の形成が欠かせないことが我々の研究で示唆されている。新規事業開発にもインターナル・コミュニケーションの視点は重要である。

「つながり」「信頼」「共感」

ウィズコロナ時代の環境変化と広報のあり方を述べてきたが、変わらないものは「つながり」「信頼」「共感」の重要性である。むしろコロナ禍によって、より一層その重要性を増している。

冒頭、「安心社会から信頼社会へ」の移行の必要性を指摘したが、信頼社会に必要なものはまさに「つながり」「信頼」「共感」である。共感がなければつながる誘因に乏しく、信頼がなければつながりは維持できない。「つながり」「信頼」「共感」を生み出すためにも情報の透明性・一貫性をもった情報開示や戦略的な広報・コミュニケーションが一層必要不可欠な時代になるだろう。


*1 山岸俊男著『安心社会から信頼社会へ――日本型システムの行方』(中央公論新社、1999年)

 

北見 幸一(きたみ・こういち)
社会情報大学院大学 客員教授

 

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