効率化+新価値創造をめざすDX 市川市×NTT東日本
千葉県市川市は、全国で初めてのLINEによる住民票申請の実証実験、「市川市DX憲章」の策定など、行政サービスのDXを意欲的に推進している。そこには、サービスの質向上に向けた市長の強い意志がある。今後のDXのあり方などをテーマに行われたトークセッションをレポートする。
「DX憲章」で職員の意識改革
千葉県北西部の市川市は、都心から20km圏内とあって文教・住宅都市として発展を続け、人口は約49万人を数える。
昨年7月には新たな第1庁舎が完成し、2021年1月から全フロアで業務を開始した。市のめざすDXのあり方などをテーマに行われた村越祐民市長へのインタビューと、石渡琢朗NTT東日本千葉西支店長を交えたトークセッションは、この新庁舎で行われた。
市川市は昨年、住民サービスの向上や業務の効率化を実現するために、DXの目的や基本方針などを明文化した「市川市DX憲章」を策定。村越市長へのインタビューは、自治体として極めて珍しいこの取り組みの狙いを尋ねることからスタートした。
村越市長によると、「職員の意識を変革して、市民の皆さんに喜んでいただける仕事をすること」が、その目的だという。「同じ仕事を繰り返してつつがなく会計年度を終えるだけではなく、自分たちの仕事を絶えず見直し、改善して、少しでも業務効率とサービス品質を高める。そうして生まれたリソースを、市民ニーズの高い部分に振り向ける。そのためには、まず職員の意識を変える必要があると考えました」
DX憲章のもと、業務効率化を進めることで実現したい新たな市役所の姿を、村越市長は「市民が来なくて済む市役所」と表現する。「住民票の申請や各種の届け出などはデジタル化して、わざわざ市役所に来てもらう手間をなくし、市民の時間を無駄にしないようにする必要があります。市役所はむしろ、市民の交流や文化芸術活動など、新たな価値を生み出すための場所として使っていただきたいと考えています」
2019年には住民票申請がLINEで行える全国初の実証実験を行い、2021年からは、転出入や出生、国民健康保険、子育て・介護などの各種手続きが、それぞれの窓口を自分で回ることなく、一か所で行える「ワンストップサービス」を開始した。
単に従来の延長線上で業務を進めるのではなく、そもそも従来の方法が正しいのかどうかという問題意識に立った上で、DXを改革のための道具として位置づける。それが市長の考え方の根底にある。
業務効率化と新たな価値の創造
トークセッション冒頭では、DXを推進する市川市に対し、NTT東日本はどのような貢献ができるのかについて、石渡支店長からいくつかの提案があった。
市川市のDX憲章では、DXの目的を「投資対効果の向上」と「価値創造」の2つを両輪としている。石渡支店長も、自治体におけるICT活用には2つの価値があると賛同する。1点目が市民サービスの質向上や業務効率化など、現状の改善だ。2点目が今までにない市民サービスの創出など、新しい価値の創造である。
前者の事例が、AI-OCR(人工知能を使った光学文字認識)による手書き帳票のデジタル化や、RPA(業務の自動化ツール)による事務処理の効率化だ。人口規模で市川市の3分の1程度の自治体において年間1,332時間の稼働削減効果、年間10,000枚の紙削減効果があったことなどが報告された。
一方、新しい価値創造の事例として、AI活用による特殊詐欺対策についての提案もあった。「市川市様とは2020年5月より電話de詐欺撲滅に向けた広報活動に関する協定を締結させていただいておりますが、新たなサービスとして、通話録音機能付き端末(特殊詐欺対策アダプタ)から、録音した通話内容をクラウド上に転送し、AIで詐欺犯の声やキーワードなどを検知・分析、詐欺が疑われる場合は契約者様本人や親族にアラートのメールを送るというものがあります。特別な操作など必要ありませんので、ITが苦手な年配の方でも問題なく利用できます」と支店長は語る。
さらに、ICTによる地域文化芸術を通じた地方創生に向けて、NTT東日本が現在力を入れているデジタルミュージアムの事例についても紹介された。「たとえば古い絵画などを、20億画素の高精細レプリカで再現して展示できます。貴重な文化遺産を守りながら、上質な文化芸術体験を提供できる仕組みです。市川市の名誉市民である東山魁夷画伯の作品展示などにも活用いただけると思います」
デジタルアーカイブ(ミュージアム)の概要
先進の行政サービスに向けて
村越市長へのインタビューとNTT東日本からの提案をふまえたディスカッションでも、市長からは文化芸術分野でのICT活用に対する期待が示された。
「我々は文教都市を標榜していますので、市民が古今東西の作品に触れ、味わっていただく取り組みには力を入れたいと思います。時間や場所を超えて価値あるものに触れられるのがデジタル技術の大きな利点ですし、本市の持つ貴重なリソースとも親和性が高いと思っています」
ICTは、市民に心豊かな生活を送ってもらう上でも大きな可能性を秘める。石渡支店長も「商店街などの小規模店舗のキャッシュレス化やeスポーツ振興、市庁舎や公民館のテレワークスペース構築など、さまざまな可能性を秘めています。デジタルミュージアムも含めて、地域における、新しい価値の創造に向けた取り組みに寄与できればと考えています」と語る。
業務効率化による市民サービスのレベルアップのみならず、産業、働き方、教育、医療、防災など、さまざまな分野において実効性の高いソリューションを提供するために、NTT東日本では地域の実状に合わせた、地域完結型の柔軟なネットワーク基盤を用意している。「自治体と連携し、地域に暮らす子どもからお年寄りまで、ITリテラシーの高低に関わらず誰もが使えるソリューションの提供をめざしていきます」と石渡支店長。
「デジタルによって、今までできなかったことをやりたい」と語る村越市長のような新しい時代のリーダーの強い意志と、先進のICTにより、さらに一歩進んだ行政サービスが生まれることを期待したい。
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