酒販から総合販売プラットフォームへ、株式会社ひとまいるの挑戦
104年の歴史を持つ老舗酒販企業が、総合販売プラットフォームへの大転換を進めている。2025年7月に「株式会社ひとまいる」へ社名変更した株式会社カクヤスグループ。「変わり続けることが、私たちが今ここにいる理由」と代表取締役社長 兼 CEO 前垣内 洋行氏は語る。幾多の困難に直面しながらも常に変化をし、進化を遂げてきた。そして今、新たな価値を創造する第二創業期へ。持続可能な成長に向けた構想とその覚悟に迫る。
「変わり続ける」ことで磨いた強み
―老舗酒販企業が挑む、物流を軸としたプラットフォーム企業集団への転身
1921年、東京都北区で創業した同社は、町の酒屋として地域に寄り添い、2代目・佐藤安文氏のもとで業務用酒販事業を拡大し成長を遂げた。しかし、安定していた酒販業界は、1998年の酒類販売自由化の決定、2003年のその全面施行により競争が激化した。異業種からの参入も進む中、低価格だけでは勝ち残れない市場へと変化した。
「安売りやナショナルブランドの商品だけでは差別化が難しい。配送サービスで新たな価値を創造しようという発想から、東京23区全域への配達サービスを開始しました」と語る前垣内氏。東京23区内では「ビール1本でも配達無料」という取り組みを実施し、100店以上を出店し、利便性とスピードを付加価値として提供した。
2017年の酒税法改正、物流問題による運送費の高騰に際しては、大田区平和島に自社物流倉庫を設置し、自主管理体制を構築した。「当初はうまくいかず、24時間稼働をするなど試行錯誤を重ねながらも、商品価格と物流の安定化を実現してきました」。さらに、2020年のコロナ禍では飲食店需要が激減するなかでも、物流網の再編や取扱商材の拡大を通じて、「酒屋」から「物流を軸としたプラットフォーム企業集団」への転換を加速。変化に挑み続け、進化を遂げてきた。
人こそが最大の資産
──事業を支える「人」について、どのような理念をお持ちですか。
「我々の事業の根幹は『人』です。特に配達という特性上、現場で働く社員の存在なくして事業は成立しません。だからこそ、社員が『入社してよかった』と思える、さらには『この会社で働くことを誇りに思える』環境づくりにも注力しています」
一例として、人によっては20Lの樽詰商品の配達は負荷が大きいため、10L等の小容量の規格に切り替えていただくことを飲食店へ提案するといった細かなところから、働きやすい環境の実現に努めている。その他、地域による賃金格差を解消し、東京と同水準の待遇を実現。企業統合後の離職率も低くなっている。
「業務用酒販という専門性の高い業界において、人材を大切にする姿勢は、今後の事業エリアの拡張や拡大の礎となると確信しています」
変わらないことがリスク
──2025年7月「カクヤスグループ」から「ひとまいる」へ社名を変更されました。その経緯と社名にこめた想いをお聞かせください。
「カクヤスグループという名称が浸透している中での社名変更には懸念の声もありました。しかし、それ以上に、変化のない企業と思われてしまうことの方が、私たちにとって大きなリスクでした。」これまで酒類販売を主体としてきたビジネスモデルから、物流を軸としたプラットフォーム企業へ「変わった」ことを社名変更という形でも打ち出している。
「ひとまいる」の社名について、同社の強みであるお客様へのきめ細やかな対応は、まさに「人財」によるものであるという想いに加え、常にお客様のご期待に応えたいという想いを持ちお届けに「まいります」という意味を含む。そこに、毛細血管のように張り巡らせた配送網を活用してお客様へのラストワンマイルをお届けするという意味も掛け合わせている。
受け継がれる精神と新たな価値観
──新たに掲げられた「ひとまいるらしさ」について、その想いをお聞かせください。
「2025年7月、事業を再編するにあたり、『株式会社ひとまいる』へ、社名変更をした節目として、当社グループがどのような存在として社会に貢献できるのかを考え、これまでの想いも含めて、グループ理念を策定しました」
前垣内氏は、精神の継承と進化について説明する。
「カクヤスグループの時は、『スピリット・オブ・カクヤス』を行動指針として設定してきました。『ひとまいるSpirits』は『スピリット・オブ・カクヤス』の根源を継承しており、今までと変わらぬ想いとともに、『地域の人々のどんな小さな願いも叶えたい』というひとまいるの新たな存在意義へと向かうため、時代に合わせて再定義しました。そして今回、これらのSpiritsとは別に、『ひとまいるらしさ』も明文化しました。根っこにはどんなときも『愛』がある、変わり続けることを楽しんでいる。例えば、弊社の最繁忙期である年末には、管理職も現場に出て配達を手伝います。部署や役職の垣根を越えて、みんなでお客様の『どんな小さな願い』に応えようとする。そんな助け合いの文化や愛がある組織であり続けたいと思っています。また変わり続けることを『楽しんでいる』というのは、これまで変わり続けてきた弊社にとって非常に重要な文化だと考えています」
株式会社ひとまいるの目指す未来
―この先の未来を見据えたありたい姿についてお聞かせください。
同社は「地域の人々の暮らしのどんな小さな願いも叶えたい」をグループ企業理念としている。「この『~したい』をずっと続けていきたいと考えています。我々が目指すのは、単なる配達業者ではなく、地域の人々の暮らしを支える社会インフラとしての存在です。物流という『物』の側面だけでなく、人々の生活に寄り添い、心の豊かさにも貢献する『心』の側面も大切にしたい」。顧客との信頼関係を大切にしながら、「ひとまいる」として新たな価値を創造していく。この両立こそが、目指す姿だという。
「104年の歴史は、変化を恐れず挑戦し続けた結果です。これからも、大切なものを守りながら革新を続けることで、次の100年も社会に必要とされる企業であり続けたいと考えています」

- 前垣内 洋行(まえがいち・よしゆき)氏
- 株式会社ひとまいる 代表取締役社長 兼 CEO
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