無形資産を可視化せよ 企業価値を高めるこれからの広報の学び

知識や情報が価値を生み出す時代。企業が保有する無形資産の可視化は、資金調達にも直結する。非財務情報をステークホルダーへいかにわかりやすく伝えるか。組織における広報の重要性が増している。

Covid-19の流行で世界は一変し、社会は常に発展を続けている。一方、日本が課題先進国であることは変わらない。パンデミックの対応でかき消されているが、少子高齢社会の到来による労働人口の減少、経済規模縮小の懸念、東京の一極集中と地域衰退、と挙げればきりがない程、課題は積み上がっている。

これらを克服するべく、2016年に策定されたのが「第5期科学技術基本計画」だ。先端的な科学技術を応用することで、山積する課題を解決し、さらなる経済発展を目指す。このなかで、目指すべき超スマート社会として「Society5.0」が示された(図1)。このSociety5.0を技術革新と捉えると、本質を見誤る恐れがある。ヒントになるのは次の文章である。

図1 Society5.0とは

出所:日本経済団体連合会「KeidanrenSDGs」

 

「これまでの情報社会(Society4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました」(内閣府「Society5. 0」)。

となればSociety 5.0は「知識・情報や情報技術そのものを俯瞰的に捉え、さまざまな知見を融合することが重要な社会」ということになる。つまり、知識を一段上から俯瞰して、いかに利活用し、新たな価値を創造するのか、という点に焦点が変わったのである。筆者の見立てでは、Society 5.0は「知識社会」であるといえる。

無形資産が経済を支配する

「知識社会」をはじめに指摘したのは、P・F・ドラッカーだ。1968年に『断絶の時代』のなかで触れられている(ただし「知識社会」という言葉自体は、1960年代の後半から使われ始めた)。この「知識社会」を、経済的側面に置き換えれば「知識や情報こそが価値を生み出す最も重要な資源である」ということができよう。

近年、経済学の領域では、価値の担い手が「物質的」なものから「非物質的」なものへと変わったと指摘されている。企業に置き換えれば、工場など物的資本などではなく、知的財産やソフトウエアあるいはブランドなどの無形資産に価値の源泉が変わったということだ。だからこそ企業は投資対象として「知識や情報」、それを創出し使いこなす人材や組織に、重点を置くようになったのである。というのも、無形資産を生み出すのは人間の頭脳のみであり、AIが知識や情報を俯瞰し新たな価値を創造することは極めて難しいからである。なお無形資産は、ソフトウエア、データベースなどの「情報化資産」、研究開発や商品開発力などの「革新的資産」、そしてブランドや人的資本などの「経済的競争能力」の大きく3つに分類されている。

グローバルな基準で見れば、この、無形資産への投資態度そのものが企業価値に反映される。実は先進諸国のなかで、日本だけが無形資産への投資が立ち遅れている。こうした危機感のもと、わが国では、企業と投資家の対話の質を高める「価値協創ガイダンス」の策定などが矢継ぎ早になされている(図2)。これから無形資産をいかに可視化し、社会に流通されるかが課題となる。

図2 「価値協創ガイダンス」で整理された、企業が投資家に伝えるべき情報

出所:経済産業省「価値協創ガイダンス(価値競創のための統合的開示・対話ガイダンス―ESG・非財務情報と無形資産投資―)」より著者作成

 

広報はプロフィットセンター

ここまで駆け足で現代社会・経済の様子について述べてきた。これからの社会がSociety 5.0=知識社会であれば、広報の役割の重要性は明らかとなる。広報部門は、組織内外の情報のターミナルとなっているはずである(もし、そうでなければ早急に情報ターミナルとなる部署を創設すべきである)。そして収集した情報・知識、あるいは社会の動向を俯瞰し、何と何を結びつければ組織の価値となる情報・知識を創り出すことができるのか、考えることが必要である。

組織の価値をどのように可視化しステークホルダーへと伝えていくのか。その可視化にあたり重要な拠り所となるのが、企業が持つ理念や存在意義である。これからは非財務情報をいかに分かりやすく伝えるのかという点は、組織における資金調達に直結する課題となる。広報は社会と接点を持ち、いわば無形資産を擬似的に可視化した存在である。加えていえば、無形資産には人的資本も含まれる。社員の成長機会を充実させ、可視化するようなインターナル・コミュニケーションも欠かせなくなる。

広報はまさに組織の戦略をつかさどり、価値の源泉を生み出すプロフィットセンターである。これからの社会では、いわゆる「広報」が中核となる組織が生き残る。