2021年1月号

新規事業開発のための広報視点

DX時代の情報戦略 いかに公共的な信頼を獲得するか

北島 純 (社会情報大学院大学 特任教授)

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電子政府の土台にあるのは、市民が個人情報を政府へ委ねる「信頼」だ。DXの進展にあたっては、「信頼の獲得」という視点からの広報戦略が要となる。

コロナ禍での在宅時間の増加、特にITを活用した在宅勤務の定着という世界的な現象がDX(Digital Trans formation)への注目を高めている。デジタル技術によって社会のあり方を根底から変化させるDXの意味する範囲は広いが、日本では、9月16日に発足した菅義偉新政権がデジタル庁創設を看板政策に掲げたこともあり「電子政府化」(e-Government またはGovTech)が中でも注目されている。

この分野で先頭を走る感があるのが北欧諸国だ。国連経済社会局(UNDESA)が公表している「電子政府発展度指標」(EGDI:e-government development index)によれば、1位は前回に続いてデンマーク、2位は韓国、3位がエストニア、4位がフィンランド、5位がオーストラリア、6位がスウェーデンとなっている。このランキングだけを見ると、「常連のエストニア等北欧諸国だけでなく、韓国やオーストラリアも強いのだな」としか思わないかもしれない。

しかし、ここに別のもう一つの情報を付加してみると、どうなるか。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが公表している「腐敗認識指数」(CPI :Corruption Perceptions Index)を横に並べてみよう(図表1参照)。

図表  腐敗認識指数(CPI)と電子政府ランキング(EGDI)

出典:Corruption Perceptions Index 2019 (Transparency International)および2020 E-Government Development Index(UNDESA)から筆者作成

 

そうすると北欧諸国(エストニア、アイスランドを含む)の6カ国がいずれもランク上位に入っていることが分かる(赤枠)。「電子政府化」と「腐敗の少なさ」との間に相関関係があると言えるかはこの比較からだけでは分からない。しかし、何らかの相関性があるといえるのではないか。このような観点から、近年議論されているのが、「ガバメント・トラスト」または「パブリック・トラスト」という、スカンジナビア諸国等で重視されている概念である。

DXの進展と腐敗防止

電子政府化の進展には、市民が個人情報を政府に委ねることが必要だ。デンマークでは、国民一人一人に付与される「CPR」(社会保障番号)に紐付いて各種の個人情報が管理されている。「NemID」という電子署名(ID認証)システムを使って行政サービスをネット上で利用することが容易になっているだけでなく、例えば出生時に採取された遺伝子情報がナショナルバイオバンクに預けられ、個人の治療履歴と関連させて各種疾病の発症リスク研究等に役立てられている。

鍵となるのは「政府への信頼」だ。個人情報を政府に預ける際の心理的躊躇を乗り越えるには政府への信頼が欠かせない。同じことは腐敗防止にも言える。「政府への信頼」は、透明性の確保と相まって、公務員に関わる贈収賄、裁量権の逸脱濫用、縁故主義の防波堤になるからだ。これは、権力の腐敗を前提として国家権力を分割し(三権分立)、権力行使に対する市民的監視の制度構築を図る従来型の立憲主義アプローチとは異なる側面を有する。また、電子政府化の進展が腐敗を減少させるのか、それとも腐敗が少ない社会が電子政府化の土壌となるのかも重要な点であるが、ここでは詳細を論じる余裕はない。

しかし、腐敗認識指数と電子政府ランキングの双方で北欧諸国が上位を占めているのは偶然ではないとするならば、北欧諸国が誇る「政府への信頼」が腐敗防止および電子政府化の土台になっていると言える可能性がある。企業サイドに敷衍させると、ビジネスにおけるDX進展の土台がパブリック・トラストであるとすれば、DXにはIT技術だけではなく、「いかにして公共的信頼を獲得するか」という視点からの経営判断と広報戦略が不可欠ということになろう。

そのような意味で、これからのDX時代には、企業にとっていかに公共的な信頼を得るかという発想に立脚した広報戦略と、それを支える情報収集が重要となると言える。一つの情報にもう一つ別の情報を付加してみるだけで見方が異なるものになる可能性がある例は既に示した。情報収集と評価は国家の独占業務ではない。公共的な信頼を獲得する技法(Public Aff airs)は、かつてビジネス・インテリジェンスと呼ばれた民間での情報収集・評価術(Private Intelligence)あってのものだ。情報の評価は手持ちの情報素材の量と質に左右される。コロナ禍によって、顔と顔を合わせた人的情報の収集機会は減少した側面があるが、公開情報の収集と分析に割く時間は増大した人も多いだろう。公開されている膨大な情報を適切に評価するには、多元的な情報収集が必要だ。

例えば2020年11月8日(日本時間)、米国大統領選挙でジョー・バイデン候補(民主党)の「当確」が報じられた。コロナ禍の中で多用された郵便投票で不正があったとしてトランプ大統領(共和党)陣営は法廷闘争に持ち込んでいるが、現時点での情勢による限り、このままバイデン新大統領が誕生することになろう。パリ協定への米国復帰は確実視されており、今後はグリーン経済(Green Economy)がグローバル市場における主要課題に躍り出る可能性が高いが、DX政策については、バイデン政権がどのような政策展開をするかは明確ではない。定見定まらぬ領域における経営判断と広報戦略にこそ、多元的な情報収集が欠かせないというべきであろう。

 

 

北島 純(きたじま・じゅん)
社会情報大学院大学 特任教授

 

※ここでの発言は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません
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