アイネス・三菱総合研究所 AIで住民相談業務を効率化

超高齢化社会や災害リスクと向き合いながら地域共生社会とスマート自治体の両立を目指すには、住民と行政との円滑なコミュニケーション、さらには、そのデジタル化が欠かせない。そこで、三菱総合研究所とアイネスは、住民相談業務をAI活用で支援するトータルサービス「AI相談パートナー」を開発している。

三菱総合研究所(MRI)とアイネスは2018年5月に業務・資本提携契約を締結し、MRIの業務分析ノウハウとAI研究に加え、アイネスの総合行政情報システム「WebRings」の導入・保守の知見を活かしたAIサービスの提供を行っている。

従前からMRIとアイネスは、AI等を活用した行政サービスのデジタル化「Region-Tech」構想を進めてきた。同構想の基本理念は、「住民とのコミュニケーションのデジタル化」を促進することで地域課題を解決し、持続可能な地域づくりを目指すこと。その際のサービス開発では、全国の自治体で利用できる標準型・共同利用型サービスとして提供できることを基本としている。

この構想を具現化するサービスの第一弾が、2018年10月から提供を開始した「AIスタッフ総合案内サービス」だ。住民からの行政への問い合わせにAIの「しつぎおとうふ」くんが回答する。子育て、健康・医療、高齢者・介護、水道・電気・ガスなど、34分野ものカテゴリーに1,500以上のQ&Aデータを装備する共同利用型チャットボットサービスで、新型コロナウイルス関連など状況の変化に応じた Q&Aも順次追加している。既に全国の12自治体が本格導入しており、住民の利便性向上や職員の業務負担軽減に貢献しているという。標準化と共同利用を前提として設計されているため、各自治体が個別に導入するよりもAIの学習スピードが早いことも特長のひとつだ。

「Region-Tech」構想の第二弾サービスであり、この後、詳述する相談業務支援サービス「AI相談パートナー」と併せ、「住民の生の声を蓄積し、それを分析することで行政施策の立案支援につなげたい」とMRI DX部門統括室主席研究員の青木芳和氏はサービスの狙いを語る。

増田 幸夫 アイネス総合研究所事業開発部協業推進室長(左)、青木 芳和 三菱総合研究所DX部門統括室主席研究員

住民相談記録を
AIで自動テキスト化

超高齢化社会の進展に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大や大規模な自然災害の増加によって住民の相談ニーズは高まっている一方で、行政職員は多忙を極めており、丁寧な相談対応には限界がある。福祉系業務の業務量調査事例では、生活福祉課、子育て応援課といった部署における相談・面談業務で、記録票作成の業務負担割合が大きいことが分かっている。青木氏は、「もともとのマンパワー不足に加え、特に新型コロナウイルス対応といった制度変更・支援メニューの情報すべてをキャッチアップするのは困難です。本来の担当業務以外の知識を求められれば対応できないこともあり、職員の負担感はいっそう増しています」と現状を分析する。

加えて、社会の要請として8050問題など複合的かつ複雑化する課題の顕在化を背景に「断らない相談支援」がいっそう強く求められている。「地域共生社会」の実現に向け、来年4月に改正社会福祉法が施行されることもその傾向に拍車をかける。

そこで MRIとアイネスは、自治体における住民相談に特化して、音声認識やデータ分析技術などのAI活用により、相談員の業務を支援するトータルサービス「AI相談パートナー」の開発を急ピッチで進めている。

「AI相談パートナー」の主な機能は4つだ。まずは相談の会話(音声情報)の自動テキスト化機能。ほぼリアルタイム変換を実現しており、90%以上の認識率という高い精度を達成している。2つめは相談時の職員支援ガイダンス表示機能だ。相談内容を自動テキスト化できることで、相談者の状況に応じた福祉サービスなどの支援メニュー情報やヒアリングすべき内容が表示される。3つめとして、職員への負荷が高い相談記録票の作成を支援する機能がある。最後に、相談データ分析機能を来年度以降に追加する予定だ。過去の相談データから予兆や傾向を分析し、AIによるリスクアセスメントを可能にする。

図1 「AI相談パートナー」の特徴

出典:アイネス及び、三菱総合研究所

 

図2 「AI相談パートナー」の3つの期待効果

 

利用シーンとしては、対面や電話による相談、さらに近頃増えているテレビ会議ツールを用いた相談にも活用できるよう検証中だ。あらゆるシーンにおける住民相談をAI活用によりデジタル化することで、相談対応力の強化を支援する。

アイネス総合研究所事業開発部協業推進室長の増田幸夫氏は、「最終的にはあらゆる行政データを分析し、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)にもつなげられるデータ分析基盤の構築ができるようにしたい」と意気込む。

LGWAN回線利用で
セキュリティ面の安全を確保

現在、数団体との実証準備中であり、年内に10団体程度での実証開始を予定しているというが、「既に導入効果は明らか」と増田氏は胸を張る。「音声認識を使えば、相談内容をキーボードで打つより早いのは当然で、職員がメモを手書きして記録票に起こす際に、漏れが出てしまうことを防ぐこともできる。担当の業務範囲を超える相談が来ても、ガイダンス機能を使えば的確に対応できる」とその効果を強調する。

住民から見れば、自身の相談内容がデジタル化されることに懸念を覚えるかもしれない。そうした個人情報保護の観点から、LGWAN(総合行政ネットワーク)回線を利用することで、セキュリティ面でも万全の仕組みを確立している。LGWAN-ASPとしての提供により、特定の部署からのスモールスタートも可能なため、すべての自治体でさまざまな相談業務への導入が検討しやすい。

あらゆる業界へとAIの活用範囲が広がるなか、自治体においても職員の働き方改革、さらには住民サービス向上のため、AI導入の機運が高まりつつある。「AI相談パートナー」は、自治体におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大きく前進させるだろう。

お問い合わせ


MAIL:region-tech_sales@ines.co.jp

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。