2020年12月号

地域特集 山梨県

山梨県知事 一貫した政策理念で山梨を日本の最先端へ

長崎 幸太郎(山梨県知事)

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山梨県は独創的だ。独自の「やまなしグリーン・ゾーン構想」で県民の命を守り経済も回す「超感染症社会」への跳躍や、産業の高付加価値化で経済の活性化を図る。富士山登山鉄道やリニア中央新幹線などの次世代インフラと関連した新産業の育成にも力を入れ、さらには、行政モデルも改革したいという。

長崎 幸太郎(山梨県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2020年10月5日)

――知事は新型コロナウィルス対策として「グリーン・ゾーン構想」を進めていらっしゃいますね。

コロナは一過性のものではありません。まさに政府が言うように「新しい生活様式」への移行が求められます。「やまなしグリーン・ゾーン構想」は県民の生命と経済を両立する「超感染症社会」への跳躍を目指す構想です。

やまなしグリーン・ゾーン構想

出典:山梨県

 

当県は緊急事態宣言解除後の現在も感染リスクの高い業種への休業要請を継続中です。その一方で、あえて休業補償は一切しておりません。休業補償は元の社会に戻ることを前提としたその場しのぎの、言わば砂漠に撒く水のようなもので、いつ終わりがくるのかわからないまま何度も水を撒いていたら、県の財政が圧迫されるのは火を見るよりも明らかです。当県では、感染症対策を実施していただければ休業要請を個別に解除するアプローチをとっており、そのための経費は他県の休業補償とほぼ同水準で補助しています。

休業要請の対象外となる飲食店や宿泊業には、新たに「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」を創設しました。県が必要な基準を定め、しっかり実行されているか行政が現地に出向き1件1件見て確認し、行政の責任において認証を行います。我々が徹底的にやることで安心への信頼性がグンと上がるんです。今ようやく認証施設が1000件を超えたところですが、今後はワイナリーなどにも対象を拡大していきたいと思っています。

山梨県は東京に隣接する自治体の中では感染者数がかなり少ないことから、こうした感染症制御策が効いているのかなと思っています。ウィズコロナの時代に「安心と信頼」という価値を獲得することが県内経済の再生につながるのだと考えています。

――同じく感染症対策では、山梨版CDC(疾病対策センター)の発足を目指しています。

山梨県では、実は新型インフルエンザが流行した際の経験がほぼゼロになっており、マスクや防護服の備蓄はゼロ。感染症指定病院の病床は28床あるはずが、これもゼロに近いという状態でのスタートでした。

これは、定期的な人事異動などにより、経験、知見が組織的に継承されにくかったことによるものと思います。そこで「(仮称)疾病対策管理センター

(山梨版CDC)」の来年度発足を目指しています。山梨版CDCは、感染症対策の司令塔としての役割を担い、今回得た知見を活かして、これからも起こるであろう未知の感染症に対応していくための組織です。

コロナ禍でチャンス到来
人口増目指す二拠点居住推進施策

――山梨県はコロナ以前から二拠点居住を積極的に推進されています。

全国の地方都市同様、山梨県も人口減少が最大の課題です。とくに就職期の人たちが、仕事がないという理由で県から流出しています。ところがコロナ禍でテレワークが本格稼働して仕事はどこででもできるという、我々にとって最大の課題をクリアできる可能性が出てきました。従ってこの機会に積極的な働きかけを行い、人口流出を人口流入に転換させようと考えています。

まず、二拠点居住の1本目の柱としてワーケーションを位置付け、宿泊施設のWi-Fi環境の整備やワークスペースの開設など、二拠点居住をお試ししてもらえる環境を整備しています。また、当県は農業県なので、農業体験ができる旅行プランを開発して、新規就農にも結びつけたいと考えています。

2本目の柱は定着率の高い集団移住者をターゲットとすることです。山梨をテレワークの受け皿として、あるいは実証実験の聖地として位置付け、企業、スタートアップのコミュニティを誘致したいと思っています。また、来られた方々を孤立させないための仕組みづくりにも取り組んでいきます。

二拠点居住では居住環境も重要で、オフィスや社宅の改修費用を補助するメニューも取り揃えています。最低でも120平米4LDKの広さの居住環境をストックすべく取り組んでいきます。不透明な景気のなかで、裾野が広い住宅産業は地域の景気を牽引します。そういう意味でも投資してもよい分野だと思います。

働く人々にとって子どもの教育と親の介護は課題ですが、これについても重点投資をしようと思っています。国に先駆けて、公立学校は来年度から小学校1年生を1クラス25人とし、一人ひとりの子どもに目が届く環境を整備します。山梨の教育は課題はありますが、自己肯定感の高さ、人の役に立ちたいと思う心は全国トップクラスです。これは一番重要な素養であり、もっと宣伝をしていきたい。また、介護についても、介護待機を実質ゼロにしたい。外から来る方も含めて。例えば、東京の大手企業に勤めている方で親御さんの介護需要を抱えている場合に「介護をするので山梨に転勤させてください」と言われるようにしていきたい。

産業の高付加価値化で
競争に勝つ山梨を創る

――経済活性化を図るため産業の高付加価値化に取り組まれていますね。

その第一弾が、山梨県の基幹産業である機械電子産業の高い技術力を活かして、今後マーケットの成長が見込まれる医療機器産業を基幹産業に育てる取組です。昨年、医療機器生産額において国内ナンバーワンの静岡県と連携協定を結びました。医療機器は利益率も高く、発注が安定しているので県内産業の安定した成長の実現に大きく寄与するであろうと期待しています。その実現に向けて「メディカル・デバイス・コリドー推進センター」を設置し、医療機器関連分野への参入支援や産業集積に向けた企業支援を行っています。

単に静岡と並んでいるだけに留まらず、データヘルス分野に着手したい。日本医師会のアプリ「かかりつけ連携手帳」を広く活用することで、そこから得たビッグデータを企業活動に提供する仕組みをつくる構想を練っています。静岡県とは異なる特色を持つことで静岡・山梨一帯を日本の医療機器産業の中心地にしたいと考えています。

もう一つは水素・燃料電池産業です。この9月9日に、自動車メーカーや大学などでつくる燃料電池の評価や解析を行う技術研究組合FC-Cubicと、2022年をめどに東京から甲府市に研究拠点を移すことで合意しました。これをベースに、医療機器に次ぐ第2のエンジンにしていきたい。

もう一つ重要なのはサービス業、特に観光業は、超感染症社会における観光業へと変容する必要があります。これまでのように薄利多売で多くの観光客に来ていただくモデルでは成り立たなくなるということです。当県では今後「入込客数」は施策の参考資料にしません。重要なのは観光消費額を高めることです。徹底した感染症対策による「安心な山梨」という価値を提供したうえで、歴史・文化ツーリズムや美味しい料理を提供するレストランなどを充実させる。その流れの延長線上には富士山登山鉄道もあるでしょう。高い単価のお客様にしっかりとしたサービスを提供するという形に変わっていくサポートはしっかりやっていきたい。

富士山登山鉄道構想
富士山に登山鉄道を通す構想。アルプスを疾走する絶景の登山鉄道は「ユングフラウ鉄道」だが、それをイメージしていただくとわかりやすい。新たな観光の目玉として期待されている。令和元年に、富士山登山鉄道構想検討会が設置された。会長は、御手洗冨士夫氏で、県内外の有力者が出席。ルート設定をはじめ、環境・景観・防災などへの配慮についても検討を行っている最中である。写真は、山梨県本栖湖から臨む富士山。

――リニア中央新幹線開通後の山梨の姿をどう描いていますか。

リニア中央新幹線の開通により、山梨県は東京や名古屋と同じ土俵の上で競争しなければならなくなりますが、競争に勝つための特色として、山梨を様々な実証実験の聖地にしていきたいと考えています。その第一のトリガーが水素・燃料電池だと考えています。現在、太陽光発電で水素を製造するP2Gシステムの技術開発を進めており、来年度から、その水素を工場、商業施設に輸送し、使用する実証実験が始まります。こうした取り組みを活かして、今後は水素と燃料電池の先導的な実証実験の誘致を積極的に働きかけていきます。

リニア中央新幹線による交流可能な経済的勢力圏の広がり(60分圏内、120分圏内)

出典:国土交通省スーパー・メガリージョン構想検討会資料より

 

本当のチャレンジはこれから
行政も高付加価値化する

――未来に向かい常に前進する施策を実行するには人材育成も重要です。

まさに今試行錯誤しているところです。例えば、外部から人材を招いて、その方に先生役になってもらい、職員にはこれまで触れたことのないような最新ツールを吸収してもらいたい。そういう形でどんどん進化していって、県庁職員も高付加価値化していく。何でも外注に出すのではなく、職員が自分達でつくることができるようにしたい。やる気のある職員をどんどんブラッシュアップして、県庁内で施策を打ち出して実行する。最終的にそういう形にしたいと思っています。山梨県の職員が民間企業にヘッドハントされるくらい進化すればいいと思っています。そうなれば県と企業は同じ言葉で話すことができるようになり、共に発展していくことができるでしょう。

――そうなれば企業との関わり方も変わってきそうですね。

そうです。行政はすべての情報を持っていて万能というわけではありません。民間からの申し出や提案は積極的に受け入れて、我々ができることにはどんどん関与していくべきだと考えます。

民間主導の実証実験の提案を行政として本格的に取り込み、シーズマネーを出資し、パートナーとして参加する。我々が出資すれば事業の信頼性は上がります。規制などの調整役を担うこともできます。

事業は成功する場合も失敗する場合もあるでしょうが、成功すれば当然リターンをもらいます。そしてそれを再投資の原資にする。そういう行政モデルをつくりたいと思っています。

 

長崎 幸太郎(ながさき・こうたろう)
山梨県知事

 

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