ビッグデータ化する個人の健康・医療情報が生み出す新市場
医学・行政・ビジネスの3つの観点から医療・ヘルスケア業界における新戦略を考察する本連載。今回は、個人の医療健康情報を元にしたビジネスの動向を紹介する。デジタル化により個人の健康・医療情報が収集できるようになった今、どのようなビジネスが生まれるのだろうか。
Society 5.0は医療・ヘルスケア
ビジネスをどう変える?
今回はSociety5.0時代のヘルスケア戦略についてお話しします。Society5.0についてはご存知の方も多いかもしれませんが、もう一度おさらいしましょう。
Society5.0はサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)のことで、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会を指す考えです。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」で、日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
今の私たちが暮らす情報社会(Society 4.0)では、情報の収集・分析やロボットの操作などは、人が自ら行動することで実行されています。一方のSociety5.0では、現実空間でのあらゆる情報がセンサーやIoTを通じて自動的に集積され、AIがこれらのビッグデータを解析して高付加価値な情報としたり機器へ指示したりして実社会にフィードバックします。
医療分野では、医療現場の情報や環境情報、また血圧や心拍数、体温、呼吸数、体重、血糖値などといった生理学的計測データがリアルタイムに集められビッグデータとなることで、生活者・患者の快適な生活や健康増進、最適治療、負担軽減が実現できると考えられています。
ヘルスケアビジネスの
注目領域「PHR」
このような未来で、筆者は「PHR(Personal Health Record)+ セルフケア」に注目しています。PHR+セルフケアでは、個人の健康・医療データであるPHRを起点として、オンラインとオフラインの融合(OMO:Online Merges with Offl ine)が考えられています。
例えば台湾では、台湾衛生福利部全民健康保険局が管理しているEEC(EHR Exchange Center)を通じて全医療機関で患者データが共有されており、患者はスマホアプリ上で無料で受診の医療データ(入院や外来での記録、歯科記録、検査記録、処方薬の使用記録など)を閲覧できます。
医療データが共有されることで、データが必要になった際に医療機関に検査データを問い合わせたり、同じ検査を再度行ったりすることもなくなります。さらに、今まで健康医療情報は医師が管理し、患者は医師に自分の健康を任せていましたが、自分で健康医療情報が確認できれば、個人の健康意識向上にもつながるとされています。
日本でも遅れて上記のようなPHRの利活用を通じた新産業創出が考えられています。具体的には、保健医療データプラットフォームとしてマイナポータルなどを活用し、保健医療情報の本人による活用を進めるという構想です。マイナポータルは、マイナンバーカードと紐付けて行政機関などが保有する個人の情報(世帯情報・税・社会保障等)や行政とのやり取りを一元化できるポータルサイトで、2020年度中に特定健診(40歳から74歳で年1回行う生活習慣病のための健康診断)の結果が閲覧できるようになるほか、2021年には病院で処方された薬剤情報、2022年には手術などの医療情報も閲覧可能になる予定です。そしてこのデータはAPI連携されるため、本人の同意のもと、民間各種PHRサービスでも記録・閲覧・健康のリコメンドなどの機能が活用できる予定にもなっています。
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