コロナ体験後に考える 都市と農村、循環型地域経済と共生の原則

今回のコロナ禍では、東京と地方の中核都市である札幌・名古屋・大阪・福岡が、いち早く感染拡大の脅威にさらされた。世界でも、感染症に対しての脆弱性をまず露呈したのは都市である。これを、行き過ぎた都市化と人口集中、生産性・効率重視の資本主義社会への警告と捉えた人も少なくないだろう。

地方(農村)軽視で進んだ
グローバル化

かつて地域は、人間と自然との物質代謝関係を基本とした経済活動と生活の場であった。しかし、その経済的主体である資本(ここでは「経済価値を生み出すもの」と定義しておく)の蓄積が進むと共に、資本は特定の地域を超えて活動領域を拡大し、地域や自然とは切り離されていった。

資本の集積によって存在感を高めた「都市」は、農村部から労働力を吸い上げただけでなく、近代化に伴い、農村部へも市場を広げ、消費財や農林業資材等生産財の供給、公共事業受注等を通じ、各地で個性のない町を広げていった。このように、地域の物質代謝系が近代化されていった結果、人間と自然との物質代謝バランスが大きく崩れ、自然環境や歴史的な景観、文化の破壊という地域にとっての大きな損失が進んだ。一方、グローバルな地球温暖化と気候変動、さらに感染症拡大は、弱者の生存と地域の存続を脅かしている。

これまでも、都市の資本や技術・アイデア依存の外来型開発ではなく、地域固有の資源を活用し、地域主体で地域を発展させていこうとする内発的発展や、地域内経済循環の重要性が指摘されてきた。しかし、過去のリゾート開発や、再エネ固定価格買取制度(FIT)導入後の、地域に利の少ないメガソーラーや大規模バイオマス発電の乱立に見られるように、外来の資本は、あたかも地域づくりの主体のように振舞いながら、生産性の名のもとに、巧妙に地域の資源や人々を押しのけてきたのも事実である。

地方(農村)から主体性と
自然との物質代謝構造を取り戻す

しかしそれは、今回のコロナ禍でも明らかになった、脆弱な都市構造の拡大に過ぎない。むしろ、近代的な財の供給は基盤システムとして維持しつつも、地方(農村)から、地域の自然資源を活用し、循環型で持続可能な生活基盤を持った社会に作り直していくことで、脆弱な都市構造を補完していくことはできないか。かつては食とエネルギーの大半を供給していた農村である。現在地域外へ流出させている経済的価値を取り戻すものとすれば、農村は新たな事業の原資を得る。都市部の資本にとっては、自然資源が豊富な農村の主体性と物質代謝関係を再構築するという、新たなビジネスを見出すことができる。

ここに、それぞれの強みを生かし互いに補完し合う、都市と農村の「共生」という新たな関係性が見えてくる。

都市・農村共生型事業の推進

しかし、その共生の事業原則はどのようにあるべきか。参考になるのは、地域の人々がオーナーシップをもって再エネ事業を進めるために、世界風力エネルギー協会が定めた「コミュニティ・パワーの3原則」である。
■ 地域の利害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有している
■ プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によって行われる
■ 社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される

農村は長らく、都市の発展に利用される弱い立場に甘んじてきたが、いまや存続すら危うい状況にきている。それを受けての地方創生戦略であったが、本来、その目標を達成するためには、農村と外部資本の関係性についても、このような原則をもとに、大転換を図る必要がある。すなわち、農村が、自分たちの生存のために、一方的に外部資本に支援を求める、ということではなく、豊富な自然資源を持つ優位性をもとにコミュニティのパワー(地域の主体性)を発揮し、多様な経験をもつ外部資本の支援を「購入」し、お互いの共存・共栄を図る、という関係性への転換である。

実際、このような事業モデルは、日本でも芽生えつつある。新電力事業に実績があるシン・エナジー(神戸市)は、地元主体の事業化で地域内経済循環を支援する観点から、地域で再エネ事業を実施する際には、資本金のうち5~6割以上の地元出資割合を目標値とし、出資スキームや事業モデルを、地元住民と膝詰めで共に考えるアプローチをとっている(図1)。日本で初めて複数の自治体が共同出資した新電力会社、成田香取エネルギーの設立の場合、上記の観点から、自治体が80%、シン・エナジー20%の資本金割合となっている。

図1 シン・エナジーの地域再エネ事業会社のコンセプト

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またTIS(東京都新宿区)は、深刻な交通問題を抱える過疎地域を対象に、ブロックチェーン技術や電気自動車(EV)による次世代交通網の構築を目指すISOU PROJECTの実証試験を進めている(図2)。これは、企業主導で新たなサービス提供を行うのではなく、地域住民・自治体が提供システムを自走・自立できるよう、地域全員参加型の環境構築支援を行いながら、共に事業化に取り組んでいくことに特徴がある。

図2 ISOU PROJECTのイメージ

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このように、都市と農村が、それぞれの強みを生かし 、共生型事業を推進していく時代がすぐ目前に来ている。

 

重藤 さわ子(しげとう・さわこ)
事業構想大学院大学 准教授