子どものオンライン・テクノロジー活用をめぐるまなざし

テレビ番組のネット配信や5Gの浸透により、マスメディアのあり方が変化している。インターネット広告の拡大もその一因であり、広報の役割も広がってきた。現在のメディア環境に照らして、企業が取り組む広報活動の指針を考える。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大のペースをコントロールするため、世界規模で外出自粛が求められている。日本では、3月以降学校が休校となり、感染拡大傾向が続く地域では、学校再開の見通しを立てることが困難な状況にある。そうしたなか、いかにして子どもたちの自宅での学習機会を保障していくかが官民問わず模索され、オンライン・テクノロジーの活用が有力な手段と見込まれている。大学等においては、ビデオ会議システムを活用した遠隔授業が行われ、大人たちもまた、オンライン・テクノロジーを活用することで在宅勤務を導入している。SkypeやZoomといったツールの活用が、一挙に日常的な風景になるなど、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなう対応は、家族が自宅でそれぞれの目的のため、オンライン・テクノロジーを活用することに帰結している。

積極的に活用すべきか否か

文部科学省は、家庭での学習にあたってICTの積極的活用をうながす事務連絡を、都道府県教育委員会宛に出している。そこでは、パソコン・タブレット端末やスマートフォンなどのICT機器が子どもたちの学びの保障に有効であるとされ、その最大限の活用のため、現場での臨機応変な対応を求めている。いまは緊急時であり、かつ、学習に有効であることから、子どもの自宅での電子端末使用は、強く推奨されているのである。ところが、つい最近のことを思い返せば、子どもが自宅にいる際の電子端末の使用をめぐっては、その過剰な使用を抑制することを呼びかけるメッセージが繰り返し発されてきたのであった。

例えば、2019年5月に世界保健機構(WHO)が「ゲーム障害gaming disorder」を「国際疾病統計と関連する健康問題の統計的分類」の第11改訂(ICD-11)への採択に合意した(2022年1月発効)。さらにそれを受け、香川県が「ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定、2020年4月から施行されるなど、あらたな制度の創出もみられている。

状況は一変したかのように思える。ただし、それらのメッセージを細部まで見渡すならば、積極的な活用をうながすメッセージにおいても、その過度な使用に注意せよという注意書きは周到に付されているし、その抑制的な使用を求めるメッセージにおいても、教育のための使用を制限したり規制するものではないことが周到にうたわれている。相反してみえるこれら2種類のメッセージは、オンライン・テクノロジーの活用には、良いものと悪いものとがあり、両者を峻別したうえで使いわけをしなさいと述べる点で、同じようなメッセージを発しているのである。

良し悪しの峻別は可能か

今回の事態で、抑制的な使用を求めるメッセージだけでなく、積極的な活用を視野に入れたメッセージが同時に注目されるようになったことは、メディア・リテラシーの観点からは評価されるべきである。メディア・リテラシーは、何を活用し、何を使わないのかの双方に目配りすることでこそ、十分に検討できるものだからである。しかし、実践的な課題として、いま、果たしてオンライン・テクノロジーの良い活用方法と悪い活用方法とを峻別することができるのだろうか。

電子端末の活用の文脈で抑制的に語られることの多かったオンライン・ゲームやビデオゲームについてさえ、いまやその社会的意義が語られている。例えば、世界のビデオゲーム各社は、「#PlayApartTogether(#離れていっしょに遊ぼう)」というキャンペーンを展開し、ゲームのプレイを通じたWHOのガイドラインを守るためのメッセージの普及を目指している。また、現実には開催できなかったスポーツイベントをeSportsという形で代替するツールとしてもオンライン・ゲームは活用されている。

こうしたことを鑑みれば、オンライン・テクノロジーの活用の良し悪しは、コンテンツの内容や活用の目的によって一意に定まるものではなく、おかれる環境によって左右される性質のものだといえるのではないか。実際にできるのは、ツールをどのように使えば良いものとして活用でき、過剰あるいは悪い使用といえるのはどのような水準においてどの程度の確率で起こりうるのかという、場合わけの目安を示すことにとどまるのではないか。

家庭の受け入れ可能性への想像力

その目安を示しつつオンライン・テクノロジーの積極的な使用をめぐるメッセージを出すにしても、それが家庭において受け入れられるかどうかの吟味も重要となるだろう。

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