ITベンチャーCEOから転身、地方でサッカービジネスに挑戦

ITベンチャーのCEOとして東京で活躍していた女性起業家が新天地に選んだのは、サッカーのJ2リーグに所属する栃木SC。コロナ禍によりサッカー界も影響を受ける中で、栃木SCは新たなマーケティング戦略を仕掛け、ユニークな施策を連発して注目を集めている。

Zoomで交流『居酒屋栃木SC』

選手、スタッフ、サポーターが参加するZoom座談会『居酒屋栃木SC』、選手が主催する『Zoom交流会』、Zoomで接客するオンラインショップの開設、子ども向けのZoomサッカーレッスン......。コロナ禍の影響でJリーグが中断するなかで、J2に所属する栃木SCはビデオ会議等を使った新たな施策を次々と打ち出している。その仕掛人が、2018年4月に就任した取締役マーケティング戦略部長の江藤美帆氏だ。

江藤 美帆(栃木サッカークラブ 取締役マーケティング戦略部長)

前職は、ユーザーが撮影した写真素材を自由に売買できるウェブサービス「Snapmart(スナップマート)」を運営するベンチャーのCEO。当時から情報発信に力を入れていて、現在、twitterは5.4万人、noteは4.1万人を超えるフォロワーを持つ。スナップマートの事業を拡大し、IT業界でも名を知られる存在だった江藤氏が、なぜ栃木SCに挑戦の場を求めたのだろうか?

「Jリーグが開幕した頃からの熱心なサポーターで、もともとサッカーが好きなんです。スナップマートが軌道に乗って何か新しいことをしたいと思った時に、FC今治(当時JFL)の求人広告をたまたまネットで見て、軽い気持ちで応募しました。この時は採用に至りませんでしたが、面接の際にサッカー界は異業種で培った力を求めていると聞いて、自分の力を試してみたいと思ったんです。それで、転職サイトに載っていた栃木SCの求人に応募しました」

選手、スタッフ、サポーターが参加するZoom座談会『居酒屋栃木SC』など、オンラインを活用したユニークな試みを次々と展開している

スマホを乗り換えるように、
応援するクラブを乗り換え?

2018年5月に着任後、江藤氏はすぐに大きな課題に気づいた。マーケティング戦略の基本となる顧客データが、ほとんど整理されていなかったのだ。

「どこの誰が観戦に来ているのか、シーズンパスポートの所有者ぐらいしかわからず、サポーターの年齢、性別、居住地なども分析されていませんでした。Jリーグ全体で取り組んでいる『JリーグID』を取得して、来場履歴をとるデジタルマーケティングにも未着手でした」

1年目は、顧客情報の収集から開始。決して潤沢とは言えないマーケティング予算から資金を確保し、JリーグIDを活用するためのシステムを導入した。

こうして顧客データを集めると、栃木SCのサポーターの特徴が見えてきた。2018年のシーズン終了時で平均年齢は42歳(Jリーグの平均は41.9歳/2018)、男女比は7対3(Jリーグの平均は6対4)。属性は他のJリーグのクラブと大きくは変わらないが、1つ気になるデータがあったという。

宇都宮市在住でJリーグIDを持っている人のうち、お気に入りのクラブとして栃木SCを登録している人が半数程度しかいなかったのだ。そこで分析を進めると、J1クラブを応援している人が多いことがわかった。

栃木SCの2018年の1試合平均観客数は5657人で、リーグ平均の7049人を下回る。新規のサポーターを獲得するために、他クラブのサポーターをスタジアムに呼び込みたい。そこで2019年4月、江藤氏が中心になって打ち出したのが『(たぶん)Jリーグ初! クラブ乗り換えキャンペーン』。Jリーグの他クラブはもちろん、バスケ、野球など栃木SC以外のプロスポーツチームのグッズを持参した人を対象に、ゴール裏チケットを500円で提供したのだ。

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