2020年7月号

地域特集 栃木県

栃木県知事が語る IoT活用推進で製造業を強化

福田 富一(栃木県知事)

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製造業を中心とした産業集積がなされる栃木県。また、とちおとめに代表されるように食に関わる産業育成にも余念がない。近年は、AI・IoT等のデジタル技術を使った地域課題解決を図るとともに、新たな産業創出にも力を入れている。

福田 富一(栃木県知事)

――Society5.0 戦略本部を立ち上げるなど、デジタル分野の推進体制の強化が窺えます。

福田 今日の新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況については、数ヶ月前においては想像だにできませんでした。今後、新型コロナウイルス感染症対策の長期化が予想される中、感染症との共存社会への対応が求められると思います。そこで今回は、在宅勤務やリモートワークと言った、「人が動く」時代から「物が動く」時代へと大きな時代の変化に添った施策をご紹介いたします。

現在、スマートフォンの普及による情報発信の多様化、AI・IoT等の未来技術の進展など、デジタル化は着実に進行し、私たちを取り巻く社会環境は大きく変化しております。一方、人口減少や少子高齢化の進行に伴い、地域においては、中小企業はもとより、農林業等、様々な分野における担い手の不足、住民の足である公共交通の維持・確保など、多くの課題が存在しております。

本県においては、今年3月に策定した栃木県版まち・ひと・しごと創生総合戦略である「とちぎ創生15戦略(第2期)」において、"未来技術をとちぎの新たな力にする"との横断的な目標を掲げ、未来技術を積極的に活用して、地域課題の解決・改善を進めていくこととしたところです。

このような中、栃木県では、未来技術が身近な生活の中で活用され、モノやサービスの生産性・利便性を向上させることにより、地域・年齢・性別等による格差をなくし、経済発展と地域課題の解決を両立できる社会(Society5.0)の実現に向け、今年度(4月22日)、私を本部長とする「栃木県Society5.0戦略本部」を立ち上げました。

――地域での具体的な取り組みを教えて下さい。

福田 例えば、公共交通の分野においては、EVの普及促進に向けたMaasを活用した観光地における交通モデルの構築を進めるとともに、無人自動運転の実現に向け、産学官からなる運営協議会を設置し、実証実験を実施することとしております。

また、産業分野においては、県内ものづくり中小企業等における未来技術の導入・活用に向けた環境整備を進めるとともに、AIを活用したいちごの新品種「栃木i37号」の生育コントロールシステムの開発を進めております。さらに、本県の観光や県産品等について、SNSなどを利用して的確なターゲットに各種情報を発信する「デジタルマーケティング」を積極的に活用して参ります。

「令和」という新たな時代を迎えましたが、人口減少・少子高齢化の進行はもとより、新型コロナウイルス感染症対策、気候変動に起因すると思われる大規模災害の頻発、経済のグローバル化、人生100年時代の到来など、社会の構造は大きく変化しております。

このような時代にあっても、県民の誰もが安心して暮らし続けることができるようにすることが何よりも重要であることから、未来技術の活用を始めとした、県内のデジタル化を積極的に推進し、Society5.0の実現に向け、県内市町や企業等とも連携・協力し、全力で取り組んで参ります。

全国有数のものづくり県
新分野とIoTを強化・推進

――栃木県の産業集積はどのようになっていますか。

福田 本県の県内総生産(2016年)に占める製造業の割合は39.7%で全国2位、第2次産業の割合は43.8%で全国3位となっており、製造業が県内経済を牽引する、全国有数の『ものづくり県』であります。

業種別製造品出荷額(2018年)は、輸送機械、電気機械、飲料・たばこ、化学工業と続き、多種多様な業種が集積するバランスの良い産業構成となっています。

栃木の工業を支えていただいている主要な立地企業を分野別にご紹介いたしますと、輸送機械関連は、ホンダや日産、スバルなどの主力工場が立地しています。医薬・医療関連については、キヤノンメディカルシステムズやマニー、ナカニシなどが立地しており、本県の医療機器生産金額は、2,001億円で全国第2位になるなど、高い技術力が要求される医薬・医療機器関連産業も集積しています。

また、ハウス食品やカルビー、森永製菓など、食品関連の企業のほか、神戸製鋼所や富士通、キヤノン、パナソニック、ファナック、資生堂など、日本を代表する企業が数多く進出しています。これらの企業に選ばれたことは、とちぎの優れた立地環境を評価いただいた結果であると自負しております。

――製造業を中心としてどうやって産業振興していきますか。

福田 栃木県には、前述のとおり大手優良企業が立地するとともに、高度な技術力を持つ中小企業が集積しており、これが本県産業構造の「強み」となっています。

グローバル競争や地域間競争の激化に対応するため、栃木県の「強み」や特徴を活かした産業振興施策の展開が重要であることから、重点振興5分野として、製造品出荷額等が全国第9位の「自動車産業」、同じく第5位の「航空宇宙産業」、第2位の「光産業」、生産金額が第2位の「医療機器産業」、そして「環境産業」を振興しています。

重点振興5分野は、それぞれ協議会を設置し、県では「ネットワーク形成」から「人材育成・確保支援」や「販路開拓」まで、様々な支援を行っています。例えば、人材育成・確保支援においては、県内中小企業等における5S等の現場改善のリーダーを育成する「現場改善研修事業」、販路開拓においては、「自動車技術展示商談会」の開催など、きめ細やかな事業を展開しております。

また、本県では、重点振興5分野の中でも、今後、市場規模の拡大が見込まれ、かつ本県が強みを持つ、次世代自動車、航空機、医療機器の「先端ものづくり産業分野」と、今後新たな成長が期待される分野であるヘルスケア、ロボットの「新たな成長分野」を「戦略産業分野」と位置づけ、県内経済を牽引する企業の創出・成長を支援する取り組みを展開しております。

特に戦略産業分野は、市場の伸びが期待される一方で、産業構造の変化や技術革新が著しく、また、地域間競争などの激しい分野であり、新規参入や事業拡大を図るには、企業内人材の育成や技術開発・製品開発等が重要となっています。

そこで、次世代自動車、航空機、医療機器・ヘルスケア産業において必要な専門的技能等を習得する講座を実施し、これらの産業を担う中核的な人材を育成して参ります。また、戦略産業分野における企業の技術課題の解決に向けて、産学官金連携によるプラットフォームを構築し、プロジェクト形成から研究開発までを一貫して支援するほか、地域未来牽引企業等の地域経済を牽引する企業が取り組む先進的な技術・製品開発等に対する助成を行うなど、戦略産業分野の拡大する需要を取り込み、県内経済の活性化を図って参りたいと考えています。

――IoT推進も積極的と伺っています。

福田 本県では、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどの技術革新による第4次産業革命の動きに的確に対応し、県内企業の生産性向上や競争力強化による地域経済の活性化を実現するため、産学官金の機関が連携する「栃木県IoT推進ラボ」を設置し、昨年度、県内市町等が抱える5つの地域課題の解決に向け、IoT等の未来技術を活用して実証実験等を行う「IoT等活用プロジェクト」に取り組んだところです。

このプロジェクトのうち、画像認識(AI)を活用した保育園における人物識別の実証実験についてご紹介いたします。(図1)この実証実験は、保育士不足の中、園児の安全対策のため、カメラで撮影した来園者の顔を、AIによる画像認識等を活用して事前に登録された人物か否かの識別を行うとともに、園児にタグを付け、園のどこに園児がいるのか常時把握可能なシステムについて、実際の保育園において実証いたしました。実証の結果、人物識別による登録者検知精度は100%であったほか、園児の位置把握は運用の検討を加えることにより実装可能であることが確認できましたことから、児童館や介護施設等様々な施設への横展開も期待できる結果を得ることができました。

図 保育園における人物識別の実証実験

出典:栃木県

 

実施に当たっては、市町や県の関係機関だけでなく、県内のIT企業等をメンバーに加えたプロジェクトチームを編成して取り組んでおり、未来技術に関する知識の習得などにより、県内IT企業の育成にもつながることも期待しているところです。

フードバレーとちぎ構想で
食産業を振興

――栃木県には、「フードバレーとちぎ構想」という食に特化したユニークな構想があります。「とちおとめ」といった全国ブランドを育成してきた中、今後、何に力を入れていきますか。

福田 本県は、豊かな自然に恵まれ、良質で豊富な水や豊かな農産物に恵まれております。51年連続収穫量日本一を誇るいちごをはじめ、二条大麦やにら、トマト、生乳などの全国有数の産地となっています。

一方、輸出関連産業が多く立地する本県は、リーマンショックの際、工業製品産出額が大幅にダウンし、景気の落ち込みが顕著なものとなりました。そこで、景気の波を受けにくい食品関連産業を振興させることにより、自動車等の外需型産業との重層化と農畜産物の高付加価値化を図ることにより、本県経済の持続的発展を目指すことといたしました。現在、本県の豊かな水や農産物を活用し、"食"をテーマに地域経済が成長・発展し、活力あふれる「フードバレーとちぎ」を目指し、食に関連する産業の振興に取り組んでいます。

フードバレーとちぎ推進協議会会長賞(平成30年度)。県では、東京オリンピック・パラリンピック、2022年のいちご一会とちぎ国体と続く好機を捉えた「とちぎ発の食ブーム」につながる提案型の商品開発とプロモーションに取り組んでいる

食に関連する産業は、第1次産業から第3次産業まで関連する事業者が幅広いことから、平成22年11月に「フードバレーとちぎ推進協議会」を設立し、事業者間の交流・連携の促進を図っています。会員数につきましては、設立時は300であったものが、11年目を迎え、現在は960を超えました。「産学官連携による商品開発・技術開発」「海外市場も視野に入れた販路開拓」「農業をはじめとする関連産業の高付加価値化」「とちぎの強みを活かした企業誘致」を4つの柱として各種施策を展開しており、本県が誇る「とちおとめ」や「スカイベリー」などのいちごを使った商品や、健康志向が高まる中、市場規模が拡大している機能性表示食品等も開発されています。

さらに、県及び県内金融機関等が共同出資して造成した「フードバレーとちぎ農商工ファンド」や「とちぎ未来チャレンジファンド」により、中小企業等の生産加工に必要な機械装置の研究開発などに要する経費を助成し、技術の高度化や新技術の開発を支援しているところです。

今年度は新たに、県内食品関連企業におけるデジタル活用を促進するほか、新型コロナウイルス感染症による状況も見極めながら、欧州・米国等の新たな市場への販路開拓を推進して参ります。

観光・国際戦略を強化
コロナ後のV字回復目指す

――観光分野の方針について、コロナ影響下で大変厳しい状況ですが、この難局を乗り越えていくための基本方針や具体策について教えて下さい。

福田 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、多くの観光施設等が休業を余儀なくされるなど、県内観光地は未曾有の事態に襲われており、今後は感染拡大防止策を徹底しながら、安全安心な環境づくりを進めることが重要であると考えています。

このため、宿泊施設を始めとする観光施設におけるマスク・消毒液の購入費用や従業員向けの感染拡大防止の研修会経費、テレワークの普及拡大を見据えた宿泊施設の通信環境の整備等への助成に取り組むとともに、キャンセルが相次いでいる修学旅行の需要回復準備に着手することとしています。

今後、観光需要のV字回復に向け、感染症収束の状況を見極めながら、まずは県内の観光需要をしっかりと喚起し、次に近隣県、全国へと戦略的に誘客促進のための観光プロモーションを展開していく必要があると考えており、収束後は、国が実施するこれまでにない規模の観光需要喚起対策を十分に活用するとともに、本県独自の施策を加え、市町、観光関係団体と一丸となって観光関連産業の力強い回復に全力で取り組んで参ります。

――昨年度設置した「栃木県国際戦略推進本部」を中心に、国際化施策の戦略的展開の推進について、おきかせください。

福田 TPP11や日EU経済連携協定、新たな在留資格「特定技能」による外国人労働者の受入れ拡大、さらにはインバウンドの増加等、国内外で本県経済を取り巻く環境は大きく変化しています。

このため、各部局・分野で実施してきた国際関連施策の情報を集約し、全庁を挙げて戦略的に展開していくため、昨年4月に、私を本部長とする「国際戦略推進本部」を設置したところです。

国際戦略推進本部においては、今年度の重点取組テーマとして、「東京2020大会を契機とした、"とちぎファン"の獲得、グローバル展開と多文化共生の更なる推進」を決定したところです。

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、東京2020オリンピック等は残念ながら延期となりましたが、県内には4万人を超える外国人が在住しており、外国人の日常生活における諸課題等に対応するため、市町と連携した研修会の開催や、多文化共生フォーラム等を実施し、多文化共生社会の構築を推進して参ります。

また、国際関係事業全般について、部局や分野を横断した緊密な連携を図り、より高い相乗効果を発揮するよう全庁一丸となって戦略的に実施して参ります。

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福田 富一(ふくだ・とみかず)
栃木県知事

 

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